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ピクニック
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夜には人肌が恋しくなるほどの肌寒さを感じるようになったこの頃もまだ陽の高い日中は暖かく、ルカは思い切ってレイフォードをピクニックに誘ってみた。
と言ってもピクニックという言葉を最初は知らなかったルカだったが、とある本で見付けてソフィアに聞いてみたところ昼食を持って散歩に出掛ける事だと教えて貰い、それならレイフォードとしてみたいと思ったのだ。
考え込むレイフォードに忙しいならいいと首を振ったら、どうやら場所を考えていたらしく微笑んで「あそこにするか」と呟いていたが、果たしてあそことはどこなのか。
首を傾げつつも一緒に行けると知り嬉しくなったルカは、それから当日までは楽しみで仕方なかった。
それから三日後。精霊のおかげで天候にも恵まれ絶好のピクニック日和となった今日、ルカはレイフォードに抱かれ空を飛んでいた。
眼下には木々が広がり、大きな湖とそのそばにたくさん花が咲いているのが見えテンションが上がる。
「レイ、あれも海?」
「あれは湖だ。海のように地続きになっていないから、あまり近付かないようにな」
「分かった」
確かに見る限りでは入ったが最後、泳ぎ方を知らないルカはあっという間に沈んでしまいそうなほど底の方が暗い。なまじ水が澄んでいる分それが良く見えて、ルカはふるりと身体を震わせた。
クスリと笑い頭を撫でてくれたレイフォードが広場のようになっている場所へと降りていく。
「ここは王家が管理している土地だから好きに遊ぶといい。花を摘んでもいいが、湖から離れた場所でな」
「はーい」
トンっと足音を鳴らして下りると、少ししてリックスと、リックスにお姫様だっこをされたソフィアとバルドーも足を着け翼をしまう。
ソフィアが木陰になった場所に腕に抱えていた大きめの敷物を広げるのを見たルカは、周りには他に何があるのか気になりレイフォードの手を握るとまずは東の方に向かって歩き出した。
「この土地はあまり人の手が入っていないからな。人工物はほとんどない」
「俺の村の周りにあった森みたいだな」
「ああ、言われてみれば確かに。あっちの方に木の実があるから、小動物くらいはいそうだが」
「会えるかな?」
「精霊に愛されているルカなら、会えるかもしれないな」
動物と聞いて思い出すのは森にいた小さな生き物たちだ。たまに木の実や花の蜜、村で使う材木などを持ってきてくれたりして仲良く暮らしていたが、あの日以来様子も見に行けていないからどうしているのか分からない。
けれど野生に生きる子たちだから、きっと上手に暮らしているだろう。
「もうちょっと行ってもいい?」
「ああ。帰り道が分からなくなったら飛べばいいだけだからな」
「そっか」
そういえば飛べるんだったと笑いながら手を引いて更に進んだら、ふわりと甘い香りがして背の低い木に赤い実が成っているのが見えた。
「あれってもしかして…」
「木の実、だな」
「俺も食べられる?」
「熟れていれば甘いものだが…」
二人で近付き、レイフォードが一つ摘んで口へと運ぶ。味わうように噛んでいた眉がピクリと反応したが、自分も食べてみたいと手にしたルカは見ていなかった。
「まだ苦い……あ」
「いただきまーす。……!!」
気付いたレイフォードが声を上げるのと、ルカがポイッと口に放り込むのはほぼ同時だった。
歯で噛み潰したルカは瞬時に顔を青褪めさせると、両手で口を押さえブルブルと身体を震わせる。
「大丈夫か? ほら、ここに吐き出すといい」
「~~~…!」
レイフォードが懐からハンカチを出して示してくれるが、一度口に入れた物を出すなんて事はしたくないルカは首を振るとぎゅっと目を閉じて飲み込んだ。
涙目になるくらい苦かったが、吐いたりしなくて本当に良かった。
「う―……苦すぎてびっくりした…」
「ルカは好奇心が旺盛で困るな」
「だって知らない事は知りたいじゃん」
この世界がこんなにも広い事も、この世界には自分が知らない事だらけな事も理解しているだけに、知れるチャンスがあるなら物にしたいとルカは思ってしまうのだ。
ただ今回は相手が悪かったとしか言いようがない。
まだ口の中に残る苦味をどうしたらいいのか分からずもごもごさせていたら、レイフォードの手が頬に触れて端正な顔が近付いたと思ったら口付けられた。
舌が触れ合った時は苦くて眉を顰めたが、互いの唾液が絡み合えばそれも薄れていきルカは崩れ落ちそうになる膝を支える為にレイフォードの服を掴んだ。
「…ふぁ……っ…ん…」
「これでマシになったか」
「…ぅん…」
少しだけ上がった息を整えるように深めに呼吸し、まだ腰を屈めているレイフォードに抱き着くといつものようにひょいっと抱き上げられる。
「一旦戻ろうか」
「うん」
きっと今頃、ソフィアがお茶や昼食を用意してくれている事だろう。
実はこっそりルカが作ったサンドイッチも入っているのだが、果たしてレイフォードは気付くだろうか。
一発で分かれば凄いなと思いながらレイフォードの首に腕を回したルカは、それを楽しみにしながら首筋に頬を寄せてはにかんだ。
と言ってもピクニックという言葉を最初は知らなかったルカだったが、とある本で見付けてソフィアに聞いてみたところ昼食を持って散歩に出掛ける事だと教えて貰い、それならレイフォードとしてみたいと思ったのだ。
考え込むレイフォードに忙しいならいいと首を振ったら、どうやら場所を考えていたらしく微笑んで「あそこにするか」と呟いていたが、果たしてあそことはどこなのか。
首を傾げつつも一緒に行けると知り嬉しくなったルカは、それから当日までは楽しみで仕方なかった。
それから三日後。精霊のおかげで天候にも恵まれ絶好のピクニック日和となった今日、ルカはレイフォードに抱かれ空を飛んでいた。
眼下には木々が広がり、大きな湖とそのそばにたくさん花が咲いているのが見えテンションが上がる。
「レイ、あれも海?」
「あれは湖だ。海のように地続きになっていないから、あまり近付かないようにな」
「分かった」
確かに見る限りでは入ったが最後、泳ぎ方を知らないルカはあっという間に沈んでしまいそうなほど底の方が暗い。なまじ水が澄んでいる分それが良く見えて、ルカはふるりと身体を震わせた。
クスリと笑い頭を撫でてくれたレイフォードが広場のようになっている場所へと降りていく。
「ここは王家が管理している土地だから好きに遊ぶといい。花を摘んでもいいが、湖から離れた場所でな」
「はーい」
トンっと足音を鳴らして下りると、少ししてリックスと、リックスにお姫様だっこをされたソフィアとバルドーも足を着け翼をしまう。
ソフィアが木陰になった場所に腕に抱えていた大きめの敷物を広げるのを見たルカは、周りには他に何があるのか気になりレイフォードの手を握るとまずは東の方に向かって歩き出した。
「この土地はあまり人の手が入っていないからな。人工物はほとんどない」
「俺の村の周りにあった森みたいだな」
「ああ、言われてみれば確かに。あっちの方に木の実があるから、小動物くらいはいそうだが」
「会えるかな?」
「精霊に愛されているルカなら、会えるかもしれないな」
動物と聞いて思い出すのは森にいた小さな生き物たちだ。たまに木の実や花の蜜、村で使う材木などを持ってきてくれたりして仲良く暮らしていたが、あの日以来様子も見に行けていないからどうしているのか分からない。
けれど野生に生きる子たちだから、きっと上手に暮らしているだろう。
「もうちょっと行ってもいい?」
「ああ。帰り道が分からなくなったら飛べばいいだけだからな」
「そっか」
そういえば飛べるんだったと笑いながら手を引いて更に進んだら、ふわりと甘い香りがして背の低い木に赤い実が成っているのが見えた。
「あれってもしかして…」
「木の実、だな」
「俺も食べられる?」
「熟れていれば甘いものだが…」
二人で近付き、レイフォードが一つ摘んで口へと運ぶ。味わうように噛んでいた眉がピクリと反応したが、自分も食べてみたいと手にしたルカは見ていなかった。
「まだ苦い……あ」
「いただきまーす。……!!」
気付いたレイフォードが声を上げるのと、ルカがポイッと口に放り込むのはほぼ同時だった。
歯で噛み潰したルカは瞬時に顔を青褪めさせると、両手で口を押さえブルブルと身体を震わせる。
「大丈夫か? ほら、ここに吐き出すといい」
「~~~…!」
レイフォードが懐からハンカチを出して示してくれるが、一度口に入れた物を出すなんて事はしたくないルカは首を振るとぎゅっと目を閉じて飲み込んだ。
涙目になるくらい苦かったが、吐いたりしなくて本当に良かった。
「う―……苦すぎてびっくりした…」
「ルカは好奇心が旺盛で困るな」
「だって知らない事は知りたいじゃん」
この世界がこんなにも広い事も、この世界には自分が知らない事だらけな事も理解しているだけに、知れるチャンスがあるなら物にしたいとルカは思ってしまうのだ。
ただ今回は相手が悪かったとしか言いようがない。
まだ口の中に残る苦味をどうしたらいいのか分からずもごもごさせていたら、レイフォードの手が頬に触れて端正な顔が近付いたと思ったら口付けられた。
舌が触れ合った時は苦くて眉を顰めたが、互いの唾液が絡み合えばそれも薄れていきルカは崩れ落ちそうになる膝を支える為にレイフォードの服を掴んだ。
「…ふぁ……っ…ん…」
「これでマシになったか」
「…ぅん…」
少しだけ上がった息を整えるように深めに呼吸し、まだ腰を屈めているレイフォードに抱き着くといつものようにひょいっと抱き上げられる。
「一旦戻ろうか」
「うん」
きっと今頃、ソフィアがお茶や昼食を用意してくれている事だろう。
実はこっそりルカが作ったサンドイッチも入っているのだが、果たしてレイフォードは気付くだろうか。
一発で分かれば凄いなと思いながらレイフォードの首に腕を回したルカは、それを楽しみにしながら首筋に頬を寄せてはにかんだ。
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