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記憶が戻ったとしても
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骨と皮だけの手が力なく頬に触れ、カサついた唇が僅かに弧を描く。おおよそ自分より年上に見えないその姿に何度胸を痛めた事か。
母親が足繁く通う部屋が気になり、不在時にこっそり侵入して初めてその姿を見た時、どうしてベッドに寝ているのか、どうしてこんなに顔色が悪いのか、どうしてこんなに痩せ細っているのか、幼い頭の中は疑問でいっぱいになった。
だけど誰よりも辛いはずの彼は優しくて、外を駆け回る自分を一度だって責めたり詰ったりしなかったから、両親のいない間に会いに行って他愛ない話をする事が楽しかった。
それなのに、どうしてこうなったのか。
『……めんね……僕には……も…きな…』
落ち窪んだ瞳から涙が零れ震えて掠れた声が弱々しく言葉を紡ぐ。
手を伸ばしたいのに動かなくて、視界の端で何かが光った気がした。
「クレ…に…さ……」
眩しさに眉を顰め目を開けたルカは、自分のいる場所が一瞬ヒンヤリとした地下室に見えてギクリと身体を強張らせた。しかしすぐに甘い香りがしてレイフォードの部屋だと気付きホッと息を吐く。
朧気に覚えている夢は怖くはなかったけど、物凄く悲しくて瞬きをしたらポロリと雫が零れた。
「……何だろ、これ…」
記憶にはないはずなのに、胸を締め付けるような切なさだけが残っている。
ぐすっと鼻を啜ったら腹から胸元に腕が回されて背中に暖かいものが触れ後頭部に何かが押し当てられた。
「また怖い夢でも見たか?」
「…ん…」
それがレイフォードの胸と唇だと分かった時にはぎゅっと抱き込まれていて、今度は耳の後ろに口付けられゾクリと身体が震える。
顔を向けたらすぐに唇が塞がれて舌が入ってきた。今は専らこのキスが当たり前になっていて、ルカもまだ拙いながらも応えられるようにはなってきたのだが、息だけがどうしても上手く出来なくてすぐに苦しくなる。
「ん、ふ……っんん…!」
舌先を触れ合わせ絡ませ合い、レイフォードの腕を掴んで必死に応えていたら上顎を擦られ腹の下が疼いた。
心臓も痛いくらいにドキドキしている。
身体中が熱くて、でも触れ合っていると気持ち良くて、口付けに夢中になっていたら臀部に何か硬い物が当たっている事に気付いた。
「…?」
「…ッ…」
何だろうと思って触ってみたらレイフォードがビクッとして慌てたようにその手を離す。ついでにキスも終わって目を瞬いて見上げていると、苦笑したレイフォードが緩く首を振った。
「駄目だ」
「何が…?」
「ルカに触れられたら理性など吹き飛ぶ」
「?」
言っている意味が分からなくて首を傾げたら仰向けにされ、頭の下に腕が差し込まれて反対の手で腰が撫でられる。キスで敏感になっているルカはふるりと身体を震わせ、横向きになってレイフォードにしがみつくと胸元に顔を埋めた。
耳にふっと笑った吐息がかかり少しだけ擽ったい。
「それで、どんな夢を見たんだ?」
「…良く覚えてないけど…何か凄く悲しかった」
「悲しい?」
「うん。でもどうしてかは分かんない…」
「そうか。……まだ月も高い、もう少し寝よう」
思い出せないのに、思い出そうとすると喉が詰まったみたいになって涙が出そうになる。
髪を撫でてくれる手に物悲しい気持ちも落ち着いて、埋めていた顔を上げたルカはレイフォードの肩口に頭を乗せ頬を寄せた。
「……レイ」
「ん?」
「もし記憶が戻ったら…俺は俺じゃなくなるのかな…」
レイフォードには言っていないが、母親と名乗る女性と話してからの夢見は正直あまり良くない。悪夢とまではいかなくても、目が覚めた時に怖かった気持ちが残っている事もある。
それに、欠片ほどだが夢を覚えている時もあり、それが少しずつ自分に根付いて膨らんでいるようで嫌だった。
もしジェリスとしての記憶を思い出したら何もかもが変わってしまう気がして不安なのだ。
「ルカはルカだ。何も変わらない」
「本当に?」
「記憶が戻ったら、私や祖母君を忘れてしまうのか?」
問い掛けられ驚いて勢い良く起き上がったルカは思いっきり首を振る。
家族はもちろんの事、レイフォードの事もこの気持ちも忘れたくないし、忘れるはずなんてない。
「そんな訳ない! 絶対忘れない!」
「だろう? だから大丈夫だ。ルカが家族と過ごしてきた時間と記憶の方が圧倒的に強いから」
「………」
大きな手が頬に触れ穏やかな声と微笑みでそう言って慰めてくれる。優しい言葉に胸がいっぱいになったルカは、レイフォードに覆い被さるように抱き着くと彼の唇へと口付けた。
「…ありがとう、レイ」
「例え忘れたとしても、もう一度私を知って、好きになって貰えるよう努力をする」
「好きになるよ。だってこんなに好きなんだし、ならない訳ない」
「ルカ、愛してる」
「うん、俺も」
端正な顔が近付き再び唇が重なる。
ヒラヒラしたズボンの裾から侵入してきた手が太腿を撫で、足の付け根を親指がなぞるように動いて小さく声が漏れた。
「……触るのか?」
「嫌か?」
「…嫌じゃないって、分かってるくせに…」
「本人の言葉はちゃんと聞いておかないとな」
そう言ってクスリと笑って起き上がったレイフォードに肩を押されて背中がベッドに沈み、耳の下から首筋へと薄い唇が辿る。手が服の裾から入り腹から胸元へと上がってきた。
「ん…っ」
「……早くルカの中に入りたいものだな」
「…ぅ? 何…?」
「いや、こちらの話だ」
「…?」
ボソリと何かを呟かれたものの聞こえなかったルカが問い返すも、レイフォードは綺麗に笑むと僅かに首を振って口付けてきた。
確かに自分の名前が聞こえた気がしたのにと思ったルカだったが、本人が言わないのならいいかと納得し目を閉じる。
与えられる快感に身を捩らせるルカは無知故に気付きもしなかった。
何も知らない自分の為に、レイフォードが理性を総動員して耐えている事を。
母親が足繁く通う部屋が気になり、不在時にこっそり侵入して初めてその姿を見た時、どうしてベッドに寝ているのか、どうしてこんなに顔色が悪いのか、どうしてこんなに痩せ細っているのか、幼い頭の中は疑問でいっぱいになった。
だけど誰よりも辛いはずの彼は優しくて、外を駆け回る自分を一度だって責めたり詰ったりしなかったから、両親のいない間に会いに行って他愛ない話をする事が楽しかった。
それなのに、どうしてこうなったのか。
『……めんね……僕には……も…きな…』
落ち窪んだ瞳から涙が零れ震えて掠れた声が弱々しく言葉を紡ぐ。
手を伸ばしたいのに動かなくて、視界の端で何かが光った気がした。
「クレ…に…さ……」
眩しさに眉を顰め目を開けたルカは、自分のいる場所が一瞬ヒンヤリとした地下室に見えてギクリと身体を強張らせた。しかしすぐに甘い香りがしてレイフォードの部屋だと気付きホッと息を吐く。
朧気に覚えている夢は怖くはなかったけど、物凄く悲しくて瞬きをしたらポロリと雫が零れた。
「……何だろ、これ…」
記憶にはないはずなのに、胸を締め付けるような切なさだけが残っている。
ぐすっと鼻を啜ったら腹から胸元に腕が回されて背中に暖かいものが触れ後頭部に何かが押し当てられた。
「また怖い夢でも見たか?」
「…ん…」
それがレイフォードの胸と唇だと分かった時にはぎゅっと抱き込まれていて、今度は耳の後ろに口付けられゾクリと身体が震える。
顔を向けたらすぐに唇が塞がれて舌が入ってきた。今は専らこのキスが当たり前になっていて、ルカもまだ拙いながらも応えられるようにはなってきたのだが、息だけがどうしても上手く出来なくてすぐに苦しくなる。
「ん、ふ……っんん…!」
舌先を触れ合わせ絡ませ合い、レイフォードの腕を掴んで必死に応えていたら上顎を擦られ腹の下が疼いた。
心臓も痛いくらいにドキドキしている。
身体中が熱くて、でも触れ合っていると気持ち良くて、口付けに夢中になっていたら臀部に何か硬い物が当たっている事に気付いた。
「…?」
「…ッ…」
何だろうと思って触ってみたらレイフォードがビクッとして慌てたようにその手を離す。ついでにキスも終わって目を瞬いて見上げていると、苦笑したレイフォードが緩く首を振った。
「駄目だ」
「何が…?」
「ルカに触れられたら理性など吹き飛ぶ」
「?」
言っている意味が分からなくて首を傾げたら仰向けにされ、頭の下に腕が差し込まれて反対の手で腰が撫でられる。キスで敏感になっているルカはふるりと身体を震わせ、横向きになってレイフォードにしがみつくと胸元に顔を埋めた。
耳にふっと笑った吐息がかかり少しだけ擽ったい。
「それで、どんな夢を見たんだ?」
「…良く覚えてないけど…何か凄く悲しかった」
「悲しい?」
「うん。でもどうしてかは分かんない…」
「そうか。……まだ月も高い、もう少し寝よう」
思い出せないのに、思い出そうとすると喉が詰まったみたいになって涙が出そうになる。
髪を撫でてくれる手に物悲しい気持ちも落ち着いて、埋めていた顔を上げたルカはレイフォードの肩口に頭を乗せ頬を寄せた。
「……レイ」
「ん?」
「もし記憶が戻ったら…俺は俺じゃなくなるのかな…」
レイフォードには言っていないが、母親と名乗る女性と話してからの夢見は正直あまり良くない。悪夢とまではいかなくても、目が覚めた時に怖かった気持ちが残っている事もある。
それに、欠片ほどだが夢を覚えている時もあり、それが少しずつ自分に根付いて膨らんでいるようで嫌だった。
もしジェリスとしての記憶を思い出したら何もかもが変わってしまう気がして不安なのだ。
「ルカはルカだ。何も変わらない」
「本当に?」
「記憶が戻ったら、私や祖母君を忘れてしまうのか?」
問い掛けられ驚いて勢い良く起き上がったルカは思いっきり首を振る。
家族はもちろんの事、レイフォードの事もこの気持ちも忘れたくないし、忘れるはずなんてない。
「そんな訳ない! 絶対忘れない!」
「だろう? だから大丈夫だ。ルカが家族と過ごしてきた時間と記憶の方が圧倒的に強いから」
「………」
大きな手が頬に触れ穏やかな声と微笑みでそう言って慰めてくれる。優しい言葉に胸がいっぱいになったルカは、レイフォードに覆い被さるように抱き着くと彼の唇へと口付けた。
「…ありがとう、レイ」
「例え忘れたとしても、もう一度私を知って、好きになって貰えるよう努力をする」
「好きになるよ。だってこんなに好きなんだし、ならない訳ない」
「ルカ、愛してる」
「うん、俺も」
端正な顔が近付き再び唇が重なる。
ヒラヒラしたズボンの裾から侵入してきた手が太腿を撫で、足の付け根を親指がなぞるように動いて小さく声が漏れた。
「……触るのか?」
「嫌か?」
「…嫌じゃないって、分かってるくせに…」
「本人の言葉はちゃんと聞いておかないとな」
そう言ってクスリと笑って起き上がったレイフォードに肩を押されて背中がベッドに沈み、耳の下から首筋へと薄い唇が辿る。手が服の裾から入り腹から胸元へと上がってきた。
「ん…っ」
「……早くルカの中に入りたいものだな」
「…ぅ? 何…?」
「いや、こちらの話だ」
「…?」
ボソリと何かを呟かれたものの聞こえなかったルカが問い返すも、レイフォードは綺麗に笑むと僅かに首を振って口付けてきた。
確かに自分の名前が聞こえた気がしたのにと思ったルカだったが、本人が言わないのならいいかと納得し目を閉じる。
与えられる快感に身を捩らせるルカは無知故に気付きもしなかった。
何も知らない自分の為に、レイフォードが理性を総動員して耐えている事を。
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