竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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温もり

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 アザを持つ者が城に現れたという情報は、〝影〟からの報告によりレイフォードの耳にも入っていた。ついでに、内務大臣のエイデルが自分の不在に乗じて好き勝手している事も。

(少し整理する必要があるか)

 自分がいるから必要ないと代理も宰相も立てては来なかったが、大臣如きに大きな顔をされるくらいならと帰宅後の事を考えつつ、堤防建設の為の確認を上空から行っていたレイフォードは地上に降り立ち待機していた大工へと声をかける。

「このまま進めてくれ」
「はっ」
「陛下、下流の村についてなのですが⋯」
「すぐ行く」

 本当なら報告が入った時点で城に戻りたかったのだが、川の流水により地面が削られ地滑りと氾濫の危機に怯える街の人々を放っておくことは出来なかった。
 わざわざ王自らが出向かなくともと思う者たちはいるだろうが、自国の事である以上レイフォードは自らの目で見て確認しておきたい。それに、精霊たちに頼り切りという訳にもいかない為どうしてもやっておく必要があった。
 一応予定通りには終わりそうだが、逐一伝えられるルカの状況に胸が痛んで堪らない。

(まさか、ルカからリックスを離そうとするとはな)

 残念ながらリックスには、何かあれば自分の言葉よりもルカを優先するようにと伝えている。一応リックスは雇われている身ではあるが、彼が納得出来るならレイフォードとしても問題なかった。
 それはひとえにリックスの忠誠心が高いからではあるが、彼ならどんな事があってもルカの為に動いてくれるだろうという信頼がある。

「地盤の緩くなっている場所には気を付けろ」
「はい」

 竜族は強靭でそう簡単には命を落とさないとはいえ、自分の監視下に於いて怪我をさせる訳にはいかない。魔法を使う事は容易いが、こういう物は自分で建ててこそ価値も上がるというものだ。
 ある程度進んだところで一人離れた場所に移動したレイフォードは深く息を吐く。

(参ったな。こんなにもルカが恋しくなるとは思わなかった)

 これまで数日から数週間ほど城を離れる事はあれど、誰かを想って帰りたくなったのは初めてだ。たかが十日、仕事にさえ集中していれば平気だと思っていたのに、ルカが傍にいない事がこんなにも寂しいとは。
 帰城した際はどれほど重要な仕事が残っていてもまずルカを抱き締めると決めたレイフォードは、せかせかと働く大工たちに視線を送りながら指示を飛ばすのだった。


 それから数日が経ち、有り難い事に天候にも恵まれどうにか下流まで堤防を建て終わり無事に工事は完了した。

「ご苦労だったな」
「陛下も、ご多忙の中ご協力頂きましてありがとうございました」
「いや、無事に終わって何よりだ」
「陛下! 御一緒にお酒でも如何ですか?」
「私がいては気も休まらないだろう。代金は持つから、お前たちで好きに飲むといい」
「宜しいのですか?」
「ありがとうございます!」

 工事に対する報酬はすでに棟梁へと色を付けて渡してある。プラスで酒代を渡したレイフォードは、名残を惜しむ大工たちに手を上げて挨拶をすると翼を広げて飛び立ち脇目も振らず城へと向かった。
 共に来ていたバルドーとアルマは残って堤防の最終確認をしたのち帰城の予定となっている。
 それなりに遅い時間だから、恐らく着く頃にはルカは眠ってしまっているだろうが顔が見られるなら何でも良かった。
 疲れてはいるものの飛ぶスピードを早め、行きよりも早い時間で城の庭まで来たレイフォードは、そのままルカの部屋のテラスに降り立ち翼をしまうと風を使って解錠しゆっくりと扉を開ける。
 月の光が射し込む薄明かりの中ベッド傍まで歩み寄れば、あどけない顔で眠るルカがいてひどく安心した。

(良く寝ているな)

 ほんの十日会っていないだけなのに、ずいぶんと長い期間離れていたような気がする。それでも目の前にルカがいるというだけで、足りなかったピースがカチッと嵌った気分だ。

「ただいま、ルカ」

 起こさないよう控えめな声で告げ、目元を隠す前髪を人差し指で避けてやると、ピクリと反応したルカにその指が掴まれ薄く目が開いた。

「!」
「⋯⋯⋯レイ⋯?」
「すまない、起こしたか」
「⋯⋯レイ⋯⋯」

 しまったと焦ったレイフォードだったが、寝ぼけ眼で腕を伸ばしてくるルカを拒否するなど出来る訳もなく、誘われるままに身を屈めて顔を寄せると首に回して抱き着いてきた。

「⋯寂しかった⋯」
「ルカ⋯」

 掠れた声に初めてそんな事を言われ、レイフォードは申し訳なさと嬉しさで眉尻を下げると華奢な身体を抱き締めた。
 そうしてしばらく背中を撫でていたが、不意にルカの腕から力が抜け再び寝入った事に気付く。
 少し身体を離して顔を覗き込むと完全に目は閉じていて、それを見て微笑みそっと寝かせて自室に行こうとしたのだが、立ち上がろうとしたものの何かに引っ張られる感覚がして視線を落としたレイフォードは目を瞬いた。
 ルカの小さな手がしっかりと袖を握っていて、先ほどの言葉もありとてもじゃないが離せそうにない。

「⋯⋯これは不可抗力だよな」

 しばらく考えたあと自分に言い聞かせるように小さく呟き、ベッドに乗り上げてルカの隣に横になると柔らかな髪を撫で額に口付ける。
 久し振りの香りと温もりに表情を綻ばせたレイフォードは、ルカの腰を緩く抱き今夜は良く眠れそうだと目を閉じた。
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