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会いたい
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あの後、戻って来た倖人と暁先輩に物凄く心配されてしまった俺は、しっかりと二人に家まで送って貰いお礼を言って別れた。
久しぶりにあんなに泣いてしまった……。というか、廉が悪いんだけどな。あんなの、誰だって泣くだろ。
あー……それにしても目が重たい。早くどうにかしねぇと、明日目が大変な事になる。
「あら、真尋。おかえりなさい。随分泣いたのねぇ」
「た、ただいま。優しい先輩たちの卒業だったから…」
「そう、素敵な先輩に恵まれたみたいで良かったわ」
玄関を開けるとちょうど母さんがいて、見るからに泣き腫らした顔を指摘され当たり障りなく答える。嘘じゃねぇしな。
リビングに行きソファに座ると、母さんがタオルを濡らして渡してくれる。それを目に当て息を吐いていたら「そうそう」と話を切り出された。
「真尋に貸したカメラなんだけど、現像してなかったの?」
「え?」
「ほら、廉くんと同棲する時に持って行ったカメラ。今度撮影で使うからデータ確認したら残ってたわよ?」
「あ……」
そういえば、母さんにカメラ借りてちょこちょこ撮ってたんだっけ。ってか、何撮った? 変なのは撮ってなかったと思うけど。
「仲良しな写真がいっぱいあったわよ。真尋、廉くんにはあんなに可愛い顔するのねぇ」
「え、何の話?」
「プリンターで印刷しておいたけど、見る?」
「…………見る」
タオルを外した俺の目に、ちょっと待ってねと棚の方へ行く母さんの背中が見える。しばらくして半透明のビニールに入れた写真を持ってきた母さんが隣に腰を下ろした。結構撮ってたんだな、俺たち。
渡されて、不意に頬を撫でられる。
「正直ね…お母さん、無理だと思ってたの。二年って、人を成長させるには十分な年月なのよ。過ぎてみればあっという間かもしれないけれど、辿り着くまでがすごく長い。だから真尋も廉くんも、そんなに長い間離れて好きでい続けられる訳ないって…そう思ってた。……でも、真尋の気持ちは少しも変わらないままで一年経ったわ。寂しそうな顔は見ていて辛かったけど、真尋はずっと真っ直ぐだったから」
まさか、母さんがそんな風に思ってたなんて知らなかった。父さんはあんなんだけど、母さんは割と俺に肯定的だったし味方だったから。
「だからもう、真尋と廉くんなら、あと一年を無事に乗り越えてずっと一緒にいるんだって信じられるわ。真尋が卒業した後は、お父さんには一切口出させないから、二人で頑張りなさい」
「母さん……ありがとう」
「あ、そういえば……」
母さんが本気を出せば、父さんは絶対敵わないからなぁ。
普段から穏やかで優しい父を思い浮かべながら苦笑していると、母さんが何かを思い出したのか手を叩いた。
「真尋宛に手紙が届いてたんだわ。はいこれ」
「?」
普段から俺に手紙なんて来ないのに珍しいと思い受け取る。差出人を見ようとしたら母さんに話し掛けられたから、後ででいいやと写真と一緒に纏めて持った。
「私たちの大事な大事な、可愛い息子の幸せな未来が約束されてて嬉しいわ」
そう言って笑った母さんは、息子である俺でも初めて見るくらい、嬉しそうな顔をしていた。
部屋に戻り、部屋着へと着替えた俺はテーブルに写真を並べていった。
これは同棲始めた日に二人で撮ったやつ、これはご飯作ってる廉を撮ったやつ、デートした日の写真、何気なく撮った繋いだ手の写真。
ほんと、いろんな場面で撮ってたんだな。
「……廉の寝顔」
寝てる顔もイケメンとか、俺の彼氏どんだけ隙がないんだよ。困った顔とか、キザな顔とか、ドヤ顔とか、どんな表情しても様になってカッコイイんだよなぁ。
俺にだけ向ける優しい顔も、俺の名前を呼ぶ時の声も、腕の力も温もりも、廉の匂いだってまだ覚えてる。
廉の写真ばっかだなと思いながら並べていると、とんでもないものが姿を現した。
「え」
俺の寝顔!? い、いつの間に撮ったんだ、コレ。
うわぁ……あほ面して寝てる。良くこんな写真撮ろうと思ったな、アイツ。
これは封印しとこ。
自分の寝顔なんて見たくねぇしとさっさと次を並べると、今度はすげぇいい笑顔で写る俺の写真。それが何枚か続いてて、後半のには廉の手が写ってる。連続して撮ってるからか、パラパラ漫画みたいに少しずつ動いてみえるのが不思議だ。頭を撫でる手が頬に触れて、俺は一瞬キョトンとした後微笑む。
自分で見ても分かるくらい、その顔がすごく幸せそうで……母さんが言ってたの、これかってすぐ分かった。
俺、こんな顔で廉の事見てんのか…恥ずかし。
っていうか、何で俺たちお互いしか撮ってねぇんだ! 二人の写真少なすぎる!
「これが一番いい顔してる。これ写真立てに入れよ」
貰っても使い道のなかった写真立てのいくつかには、廉の写真や二人の写真が入ってて棚に並んでる。これも今日から仲間入りだ。
いつかのデートの日に、通りすがりの人に撮ってもらった写真。楽しすぎて廉の表情も柔らかかったから、普通に笑えたんだよな。
「廉……」
大学でもさぞかしモテてんだろうなぁ……いくら〝虫除け〟があるとはいえ気にしねぇ奴もいるだろうし。現にあの文化祭の時に来た見知らぬ人は、自分の方が可愛いって言ってたしな。
疑う気持ちはこれっぽっちもないけど、俺の知らないところでいろんな人からアタックされるのは面白くない。
俺は確認し終えた写真を纏めると、今度アルバムに入れようと机の引き出しにしまう。カバンも片付けるかと持ち上げた時、ヒラリと落ちた物に気付いた。
「あ、そうだ手紙……」
写真を並べる際カバンと一緒に端に避けていた事を思い出し手に取る。今度こそ差出人を確認して心底驚いた。
―香月 直哉―。廉の親父さんの名前だ。
何で俺に手紙? まさか廉に何かあったとか? もしかして、ないに等しいけど気が変わったとか?
と、とにかく中身を見てみないと。
俺は慎重に封を切り指を入れると、深呼吸をして一気に引き抜いた。途端にバラバラと落ちる物に目を瞬く。
「写真……?」
足元に散らばったのは、廉が写っている写真だった。背景を見るに廉の実家っぽいけど、その表情は穏やかに見える。
「手紙」
俺は写真を纏めてテーブルに置くと、持ったままだった手紙を開いた。
『綾瀬真尋くん。
君のおかげで、廉が少しずつ家族へと歩み寄ってくれるようになった。私とも穏やかに会話をしてくれている。君のような子があの子と出会ってくれた事をとても感謝いているよ。
私の我儘で辛い思いをさせているだろうが、どうか残り一年、耐え抜いて欲しい。君と廉の想いの強さを私に見せて欲しい。一年後に会えるのを楽しみにしているよ。
──追伸、我が家で見せてくれるようになった表情を君にも見せてあげたいと思い同封した。とてもいい顔だ。
ありがとう、綾瀬くん』
「…………」
何かあったのかとか、もしかしてとか、そんな気持ちは一気に吹き飛んだ。まさか、感謝の手紙が送られて来るとは思わなかったし。
もしかして、あの時の〝ありがとう〟はこの事が関係してた、とか?
「……うん、確かにいい顔だよ、廉」
少し髪伸びたかな。一年経って、イケメン度が増したんじゃないか?
ネックレス、してくれてる。あ、この写真、指輪も見える。
「…………」
俺は服の下から指輪のぶら下がったネックレスを引っ張り出し強く握り締めた。同じ物を身に付けてる廉を見ると、ちゃんと繋がってるって実感出来る。
ってか今日の俺、ダメだな、涙腺弱々だ。
写真の中にいる廉の頬を指でなぞる。今にも『真尋』って俺を呼ぶ廉の声が聞こえてきそうで、堪え切れなかった涙が零れた。
今日だけ、今日だけ泣かせて欲しい。明日からまた頑張るから。
「……っ、廉……会いたいよ……っ」
その日、俺は廉の写真を枕元に広げて眠った。
せめて夢の中だけでも会えますようにって、願いながら。
久しぶりにあんなに泣いてしまった……。というか、廉が悪いんだけどな。あんなの、誰だって泣くだろ。
あー……それにしても目が重たい。早くどうにかしねぇと、明日目が大変な事になる。
「あら、真尋。おかえりなさい。随分泣いたのねぇ」
「た、ただいま。優しい先輩たちの卒業だったから…」
「そう、素敵な先輩に恵まれたみたいで良かったわ」
玄関を開けるとちょうど母さんがいて、見るからに泣き腫らした顔を指摘され当たり障りなく答える。嘘じゃねぇしな。
リビングに行きソファに座ると、母さんがタオルを濡らして渡してくれる。それを目に当て息を吐いていたら「そうそう」と話を切り出された。
「真尋に貸したカメラなんだけど、現像してなかったの?」
「え?」
「ほら、廉くんと同棲する時に持って行ったカメラ。今度撮影で使うからデータ確認したら残ってたわよ?」
「あ……」
そういえば、母さんにカメラ借りてちょこちょこ撮ってたんだっけ。ってか、何撮った? 変なのは撮ってなかったと思うけど。
「仲良しな写真がいっぱいあったわよ。真尋、廉くんにはあんなに可愛い顔するのねぇ」
「え、何の話?」
「プリンターで印刷しておいたけど、見る?」
「…………見る」
タオルを外した俺の目に、ちょっと待ってねと棚の方へ行く母さんの背中が見える。しばらくして半透明のビニールに入れた写真を持ってきた母さんが隣に腰を下ろした。結構撮ってたんだな、俺たち。
渡されて、不意に頬を撫でられる。
「正直ね…お母さん、無理だと思ってたの。二年って、人を成長させるには十分な年月なのよ。過ぎてみればあっという間かもしれないけれど、辿り着くまでがすごく長い。だから真尋も廉くんも、そんなに長い間離れて好きでい続けられる訳ないって…そう思ってた。……でも、真尋の気持ちは少しも変わらないままで一年経ったわ。寂しそうな顔は見ていて辛かったけど、真尋はずっと真っ直ぐだったから」
まさか、母さんがそんな風に思ってたなんて知らなかった。父さんはあんなんだけど、母さんは割と俺に肯定的だったし味方だったから。
「だからもう、真尋と廉くんなら、あと一年を無事に乗り越えてずっと一緒にいるんだって信じられるわ。真尋が卒業した後は、お父さんには一切口出させないから、二人で頑張りなさい」
「母さん……ありがとう」
「あ、そういえば……」
母さんが本気を出せば、父さんは絶対敵わないからなぁ。
普段から穏やかで優しい父を思い浮かべながら苦笑していると、母さんが何かを思い出したのか手を叩いた。
「真尋宛に手紙が届いてたんだわ。はいこれ」
「?」
普段から俺に手紙なんて来ないのに珍しいと思い受け取る。差出人を見ようとしたら母さんに話し掛けられたから、後ででいいやと写真と一緒に纏めて持った。
「私たちの大事な大事な、可愛い息子の幸せな未来が約束されてて嬉しいわ」
そう言って笑った母さんは、息子である俺でも初めて見るくらい、嬉しそうな顔をしていた。
部屋に戻り、部屋着へと着替えた俺はテーブルに写真を並べていった。
これは同棲始めた日に二人で撮ったやつ、これはご飯作ってる廉を撮ったやつ、デートした日の写真、何気なく撮った繋いだ手の写真。
ほんと、いろんな場面で撮ってたんだな。
「……廉の寝顔」
寝てる顔もイケメンとか、俺の彼氏どんだけ隙がないんだよ。困った顔とか、キザな顔とか、ドヤ顔とか、どんな表情しても様になってカッコイイんだよなぁ。
俺にだけ向ける優しい顔も、俺の名前を呼ぶ時の声も、腕の力も温もりも、廉の匂いだってまだ覚えてる。
廉の写真ばっかだなと思いながら並べていると、とんでもないものが姿を現した。
「え」
俺の寝顔!? い、いつの間に撮ったんだ、コレ。
うわぁ……あほ面して寝てる。良くこんな写真撮ろうと思ったな、アイツ。
これは封印しとこ。
自分の寝顔なんて見たくねぇしとさっさと次を並べると、今度はすげぇいい笑顔で写る俺の写真。それが何枚か続いてて、後半のには廉の手が写ってる。連続して撮ってるからか、パラパラ漫画みたいに少しずつ動いてみえるのが不思議だ。頭を撫でる手が頬に触れて、俺は一瞬キョトンとした後微笑む。
自分で見ても分かるくらい、その顔がすごく幸せそうで……母さんが言ってたの、これかってすぐ分かった。
俺、こんな顔で廉の事見てんのか…恥ずかし。
っていうか、何で俺たちお互いしか撮ってねぇんだ! 二人の写真少なすぎる!
「これが一番いい顔してる。これ写真立てに入れよ」
貰っても使い道のなかった写真立てのいくつかには、廉の写真や二人の写真が入ってて棚に並んでる。これも今日から仲間入りだ。
いつかのデートの日に、通りすがりの人に撮ってもらった写真。楽しすぎて廉の表情も柔らかかったから、普通に笑えたんだよな。
「廉……」
大学でもさぞかしモテてんだろうなぁ……いくら〝虫除け〟があるとはいえ気にしねぇ奴もいるだろうし。現にあの文化祭の時に来た見知らぬ人は、自分の方が可愛いって言ってたしな。
疑う気持ちはこれっぽっちもないけど、俺の知らないところでいろんな人からアタックされるのは面白くない。
俺は確認し終えた写真を纏めると、今度アルバムに入れようと机の引き出しにしまう。カバンも片付けるかと持ち上げた時、ヒラリと落ちた物に気付いた。
「あ、そうだ手紙……」
写真を並べる際カバンと一緒に端に避けていた事を思い出し手に取る。今度こそ差出人を確認して心底驚いた。
―香月 直哉―。廉の親父さんの名前だ。
何で俺に手紙? まさか廉に何かあったとか? もしかして、ないに等しいけど気が変わったとか?
と、とにかく中身を見てみないと。
俺は慎重に封を切り指を入れると、深呼吸をして一気に引き抜いた。途端にバラバラと落ちる物に目を瞬く。
「写真……?」
足元に散らばったのは、廉が写っている写真だった。背景を見るに廉の実家っぽいけど、その表情は穏やかに見える。
「手紙」
俺は写真を纏めてテーブルに置くと、持ったままだった手紙を開いた。
『綾瀬真尋くん。
君のおかげで、廉が少しずつ家族へと歩み寄ってくれるようになった。私とも穏やかに会話をしてくれている。君のような子があの子と出会ってくれた事をとても感謝いているよ。
私の我儘で辛い思いをさせているだろうが、どうか残り一年、耐え抜いて欲しい。君と廉の想いの強さを私に見せて欲しい。一年後に会えるのを楽しみにしているよ。
──追伸、我が家で見せてくれるようになった表情を君にも見せてあげたいと思い同封した。とてもいい顔だ。
ありがとう、綾瀬くん』
「…………」
何かあったのかとか、もしかしてとか、そんな気持ちは一気に吹き飛んだ。まさか、感謝の手紙が送られて来るとは思わなかったし。
もしかして、あの時の〝ありがとう〟はこの事が関係してた、とか?
「……うん、確かにいい顔だよ、廉」
少し髪伸びたかな。一年経って、イケメン度が増したんじゃないか?
ネックレス、してくれてる。あ、この写真、指輪も見える。
「…………」
俺は服の下から指輪のぶら下がったネックレスを引っ張り出し強く握り締めた。同じ物を身に付けてる廉を見ると、ちゃんと繋がってるって実感出来る。
ってか今日の俺、ダメだな、涙腺弱々だ。
写真の中にいる廉の頬を指でなぞる。今にも『真尋』って俺を呼ぶ廉の声が聞こえてきそうで、堪え切れなかった涙が零れた。
今日だけ、今日だけ泣かせて欲しい。明日からまた頑張るから。
「……っ、廉……会いたいよ……っ」
その日、俺は廉の写真を枕元に広げて眠った。
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