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第零章
第弍拾話 いきなりクソかけこんにちは
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「よーし、静かに近づけよ。」
漕ぎ手は上手に元の軍船に近づき、佐々木が熊手で舟の手摺に引っ掛ける。
「引っ掛けたぞ。」
季長は鉤縄を投げ入れ引っ掛ける。
しかし、何かおかしい。
手応えはあるのだが何か暴れ回っているような感覚なのだ。
季長は思い切り引っ張る。
すると鉤縄と一緒に何か落ちてくる。
見てみると元軍の兵士であった。
どうやら鉤縄の爪がこの兵士の鎧の襟元に引っ掛かったようだ。
兵士は打ちどころが悪かったのかピクリとも動かない。
「どうする、こいつ?」
笹部は尋ねる。
「とりあえず生捕りじゃ、縄はあるか?」
笹部は縄を取り出し、兵士を縛り上げる。
季長は気を取り直してもう一度鉤縄を投げ入れる。
今度はちゃんと手摺りに引っ掛かったようだ。
季長ら四人は鉤縄を伝って登る。
舟の上に登ると見張りが四人いたが先程の物音には気づいてないようだ。
「わしは左を、佐々木殿と笹部殿は右の奴を」
季長は小声で指示し、笹部と佐々木は従う。
季長らは弓を引き絞り、狙いを定める。
そして三人同時で射った。
元軍の兵士は声にもならない悲鳴をあげ倒れる。
倒れた音が聞こえた三人目の兵士がこちらに気づく前に笹部が射殺した。
「これで見張りはいなくなったな。」
笹部は自慢そうに鼻を鳴らす。
「笹部殿、お見事!」
季長は笹部の弓の腕に感嘆する。
月明かりがあるとは言えこんな闇夜で咄嗟に射るのは難しい物である。
それを笹部は難なくこなしたのだ。
「弓の達者な笹部殿にしか出来ぬ頼みが、、、」
「おう!なんでもやるぞ!」
上機嫌な笹部は最後まで聞かず季長の頼みを受けてしまった。
「それは有難い。では三郎と一緒に糞壺を運んでくだされ。わしは佐々木殿と船倉の中見てくるが故。」
「おい、待ってく、、、」
笹部が何か言おうとしていたが季長は無視した。
佐々木を呼び、船倉の中を覗く。
中にはざっと見て六十人程のの兵士が眠っていた。
「意外と数が多いな。」
佐々木は呟く。
数を見誤ったと季長は悔やむが乗り込んだ以上攻めない訳にはいかなかった。
この人数相手にどう戦おうか三郎が季長の肩を三郎が叩く。
「だんばぁ、運べばした。」
前回よりは腫れが引き、滑舌が良さそうだ。
糞壺の運搬を手伝っていた笹部は臭いに耐えきれず、また海に吐いていた。
礼を言おうとしたが季長は三郎の持っている物に疑問を覚えた。
「三郎、何故松明をつけている?敵にばれるだろ?」
「あとでわかりばす。早く壺をなげばってください。」
あとで、わかるとはなんだと不思議に思いながらおお、わかったと応えた。
佐々木と季長らは臭いを嗅がないように息を止め、壺を持ち上げる。
二人同時に船倉へと投げ入れた。
壺が割れた音と同時に内容物が飛び散る水気の帯びた音が聞こえた。
数秒後、異国の者達の阿鼻叫喚の悲鳴が次々と上がる。
季長達にもその臭いが船倉から流れてきた。
「おおえ~~、くっさっ~!」
季長らは嗚咽しそうになる。
糞尿の匂いならある程度は我慢できるが
何か別の臭いが混ざっている。
他の武士達も匂いが届いたのか海に向かって吐いていた。
「三郎!糞尿の他に何を混ぜた!」
季長は鼻をつまみながら三郎に聞く。
「へい!煮た糞尿に牛の腐乱死体の肉片と腐った卵を入れました。」
三郎は自信満々に応える。
「このたわけ!ここまでしろとは言ってないぞ!こっちまで戦う気が起きないではないか!」
季長は怒鳴る。
すると青白い顔をした笹部が季長の所に向かってくる。
「どうかしたのか?」
近づいてきた笹部が臭いを嗅いでしまい再び海に向かって嗚咽しながら吐こうとする。
しかし胃の中の物がないため吐くものがない。
「まだまだありますぜ!」
季長が苛立ちながらなんだと尋ねると三郎は松明を船倉に投げ入れる。
するとみるみると火は燃え広がり船倉の中は悲鳴と断末魔のする地獄と化した。
「よく燃えるよう牛の脂と遠い所から持ってきた草生水もぶち込んでます!」
三郎は自慢げにむふぅっと鼻を鳴らす。
草生水とは石油の古い呼び名である。
日本では所々に石油が少し湧いている箇所があった。
匂いがくさいためこういう呼び名になったが火をつけるとよく燃えるため灯火として重宝されるようになった。
「たわけぇぇぇ!首が取れぬではないか!」
季長は再び怒鳴る。
すると船倉の中から火達磨になった元軍の大将らしき者が叫びながら出てきて海に飛び込む。
「あ、待てー!」
季長は止めようとしたが遅かった。
それに続いて続々と元軍の兵士が叫びながら船倉から出てくる。海に飛び込む者もいれば力尽き絶命する者もいた。
火は地獄の業火と化し、船倉から季長のいる船上へと燃え広がり出した。
「これは不味いのでは?」
佐々木がポツリと呟く。
「佐々木殿、これは不味いぞ。退きましょう。」
季長らは急いで乗って来た舟に乗り込む。
出せと寝ぼけている漁師に急がせる。
一反(100m)程の離れた所で元軍の軍船を見ると火は瞬く間に軍船を呑み込み海は茜色に染まっていた。
銅鑼の音が鳴り響くと周りの軍船の兵士は船を動かそうと帆を急いで上げている。
博多の浜辺から喝采が聞こえている。
浜辺で武士達が舟を出そうとしている。
手柄を挙げようと躍起になったのだ。
「国崎殿、どうする?」
佐々木がポツリと尋ねる。
「夜討ちがした以上我らの役目は終わりました。戻りましょう。」
「あい分かった。お主らと組むのは御免だ。」
佐々木と笹部は鼻をつまむ素振りをして苦笑いする。
「僅かですが生捕りした奴と三人の首は佐々木殿と笹部殿で分けてくだされ。」
「お主はいらぬのか?」
笹部が季長にそれでいいのかと尋ねると
季長は首を縦に振る。
大将の首ではないからな
季長は心の内でそう呟いた。
佐々木と笹部は二人で顔を見合わせて季長に向き礼を言う。
こうして季長の夜討ち劇は幕を閉じた。
続
漕ぎ手は上手に元の軍船に近づき、佐々木が熊手で舟の手摺に引っ掛ける。
「引っ掛けたぞ。」
季長は鉤縄を投げ入れ引っ掛ける。
しかし、何かおかしい。
手応えはあるのだが何か暴れ回っているような感覚なのだ。
季長は思い切り引っ張る。
すると鉤縄と一緒に何か落ちてくる。
見てみると元軍の兵士であった。
どうやら鉤縄の爪がこの兵士の鎧の襟元に引っ掛かったようだ。
兵士は打ちどころが悪かったのかピクリとも動かない。
「どうする、こいつ?」
笹部は尋ねる。
「とりあえず生捕りじゃ、縄はあるか?」
笹部は縄を取り出し、兵士を縛り上げる。
季長は気を取り直してもう一度鉤縄を投げ入れる。
今度はちゃんと手摺りに引っ掛かったようだ。
季長ら四人は鉤縄を伝って登る。
舟の上に登ると見張りが四人いたが先程の物音には気づいてないようだ。
「わしは左を、佐々木殿と笹部殿は右の奴を」
季長は小声で指示し、笹部と佐々木は従う。
季長らは弓を引き絞り、狙いを定める。
そして三人同時で射った。
元軍の兵士は声にもならない悲鳴をあげ倒れる。
倒れた音が聞こえた三人目の兵士がこちらに気づく前に笹部が射殺した。
「これで見張りはいなくなったな。」
笹部は自慢そうに鼻を鳴らす。
「笹部殿、お見事!」
季長は笹部の弓の腕に感嘆する。
月明かりがあるとは言えこんな闇夜で咄嗟に射るのは難しい物である。
それを笹部は難なくこなしたのだ。
「弓の達者な笹部殿にしか出来ぬ頼みが、、、」
「おう!なんでもやるぞ!」
上機嫌な笹部は最後まで聞かず季長の頼みを受けてしまった。
「それは有難い。では三郎と一緒に糞壺を運んでくだされ。わしは佐々木殿と船倉の中見てくるが故。」
「おい、待ってく、、、」
笹部が何か言おうとしていたが季長は無視した。
佐々木を呼び、船倉の中を覗く。
中にはざっと見て六十人程のの兵士が眠っていた。
「意外と数が多いな。」
佐々木は呟く。
数を見誤ったと季長は悔やむが乗り込んだ以上攻めない訳にはいかなかった。
この人数相手にどう戦おうか三郎が季長の肩を三郎が叩く。
「だんばぁ、運べばした。」
前回よりは腫れが引き、滑舌が良さそうだ。
糞壺の運搬を手伝っていた笹部は臭いに耐えきれず、また海に吐いていた。
礼を言おうとしたが季長は三郎の持っている物に疑問を覚えた。
「三郎、何故松明をつけている?敵にばれるだろ?」
「あとでわかりばす。早く壺をなげばってください。」
あとで、わかるとはなんだと不思議に思いながらおお、わかったと応えた。
佐々木と季長らは臭いを嗅がないように息を止め、壺を持ち上げる。
二人同時に船倉へと投げ入れた。
壺が割れた音と同時に内容物が飛び散る水気の帯びた音が聞こえた。
数秒後、異国の者達の阿鼻叫喚の悲鳴が次々と上がる。
季長達にもその臭いが船倉から流れてきた。
「おおえ~~、くっさっ~!」
季長らは嗚咽しそうになる。
糞尿の匂いならある程度は我慢できるが
何か別の臭いが混ざっている。
他の武士達も匂いが届いたのか海に向かって吐いていた。
「三郎!糞尿の他に何を混ぜた!」
季長は鼻をつまみながら三郎に聞く。
「へい!煮た糞尿に牛の腐乱死体の肉片と腐った卵を入れました。」
三郎は自信満々に応える。
「このたわけ!ここまでしろとは言ってないぞ!こっちまで戦う気が起きないではないか!」
季長は怒鳴る。
すると青白い顔をした笹部が季長の所に向かってくる。
「どうかしたのか?」
近づいてきた笹部が臭いを嗅いでしまい再び海に向かって嗚咽しながら吐こうとする。
しかし胃の中の物がないため吐くものがない。
「まだまだありますぜ!」
季長が苛立ちながらなんだと尋ねると三郎は松明を船倉に投げ入れる。
するとみるみると火は燃え広がり船倉の中は悲鳴と断末魔のする地獄と化した。
「よく燃えるよう牛の脂と遠い所から持ってきた草生水もぶち込んでます!」
三郎は自慢げにむふぅっと鼻を鳴らす。
草生水とは石油の古い呼び名である。
日本では所々に石油が少し湧いている箇所があった。
匂いがくさいためこういう呼び名になったが火をつけるとよく燃えるため灯火として重宝されるようになった。
「たわけぇぇぇ!首が取れぬではないか!」
季長は再び怒鳴る。
すると船倉の中から火達磨になった元軍の大将らしき者が叫びながら出てきて海に飛び込む。
「あ、待てー!」
季長は止めようとしたが遅かった。
それに続いて続々と元軍の兵士が叫びながら船倉から出てくる。海に飛び込む者もいれば力尽き絶命する者もいた。
火は地獄の業火と化し、船倉から季長のいる船上へと燃え広がり出した。
「これは不味いのでは?」
佐々木がポツリと呟く。
「佐々木殿、これは不味いぞ。退きましょう。」
季長らは急いで乗って来た舟に乗り込む。
出せと寝ぼけている漁師に急がせる。
一反(100m)程の離れた所で元軍の軍船を見ると火は瞬く間に軍船を呑み込み海は茜色に染まっていた。
銅鑼の音が鳴り響くと周りの軍船の兵士は船を動かそうと帆を急いで上げている。
博多の浜辺から喝采が聞こえている。
浜辺で武士達が舟を出そうとしている。
手柄を挙げようと躍起になったのだ。
「国崎殿、どうする?」
佐々木がポツリと尋ねる。
「夜討ちがした以上我らの役目は終わりました。戻りましょう。」
「あい分かった。お主らと組むのは御免だ。」
佐々木と笹部は鼻をつまむ素振りをして苦笑いする。
「僅かですが生捕りした奴と三人の首は佐々木殿と笹部殿で分けてくだされ。」
「お主はいらぬのか?」
笹部が季長にそれでいいのかと尋ねると
季長は首を縦に振る。
大将の首ではないからな
季長は心の内でそう呟いた。
佐々木と笹部は二人で顔を見合わせて季長に向き礼を言う。
こうして季長の夜討ち劇は幕を閉じた。
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