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やけだった。飛びついてその唇を奪う。僕からしたのは初めてだ。胸当てに体がぶつかって痛い。だけどしがみついた腕を離さなかった。
「っ……ユアン様」
「ねぇヴィクト」
熱っぽく見上げてまくしたてた。
「僕は女の人みたいに胸があるわけでもないし、柔らかい体をしているわけでもない。でも、教えてくれれば、ヴィクトが満足できるよう色々覚えるから……頑張るから……だから」
聖騎士は目を見開いている。
「愛してよ」
必死な自分が笑えた。
「愛してほしいんだ。お願い」
聞いたことのあるセリフだな。そりゃそうか。僕が言ったんだ。同じ場所で、同じ相手に、僕は懇願をした。あの時は誤解をされてそういう意味に捉えられたけど、今は違う。僕自らがそれを望んでいる。伝わるだろうか、僕の気持ちが。触れ合いたいと願うはしたない欲望が。
「ユアン様……ぁあぁーーーっ」
するとどうだろう、聖騎士が呻った。呻ったと思ったら片腕で僕の腰を抱き上げ、すばやく寝台に移動した。ぽすんと落とされる。
「徐々に慣らそうと思って必死で耐えてたのに」
ガラリと雰囲気が変わる。獲物を目の前にした捕食者が現れる。
「我慢して損した。もっと早くこうすればよかったのか」
聖騎士は持っていた包みをベッドの端に放ると、驚くべき行動に出た。胸当てを外し、携えていた聖剣までも置いたのだ。そのまま内側にまとう服に手をかけ、手早く脱いでいく。僕はぎょっとした。
「な、なな、なんで。何してるの」
「何って。これから愛し合うんだからさ? 準備だよ」
「愛っ……違くて、だって、言ってたじゃん。何があっても服は脱がないって、剣は置かないって、最初に会った時に」
「あー」
聖騎士は器用に片方の眉尻だけを上げた。
「言ったね。言った。でも、この国より、大事だからさ」
一体何が。
「健気でいじらしい俺の恋人のほうが」
ドキッとした。息がつまる。
恋人という形容をされたのは初めてだった。聖騎士の発言としては褒められたものじゃないのだろうが、単純な僕の心は一気に坂を駆け上がる。
「まぁいざとなったら裸でも戦えるしな」
そうおどけて話す男が上裸を晒す。見事なまでの肉体美だ。僕は思わず唾を飲んだ。
「ユアン様も脱ごっか」
「ぅあ……えと……はい」
「脱がしてあげる」
どうしよう。内臓が飛び出てきそうだ。自分から誘ったくせに、僕は底なしに緊張していた。
そうやってひとりオロオロしていると、あっという間に衣服がはだけた。体の前で腕を交差する。貧弱な僕を見て、ヴィクトがガッカリしないか心配だった。
だが彼は瞳を煌めかせて言った。
「綺麗だ。もっと見せて」
大きな手が僕の手首を取る。隠すものがなくなった薄い胸に熱い視線が注がれた。
「ピンクで可愛い。……触っていい?」
小さく肯定する。来たる刺激に備えてきゅっと目をつぶった。翻弄の始まりだった。
「ぁん……ふぁ……ヴィ、ク……ト」
「尖ってきた」
「ぁ、だめぇ……」
言葉と裏腹に胸を突き出してしまう。これでは「もっとして」だ。案の定ヴィクトの指先が執拗に突起を追いかけた。
「んっ……つよ……い、感じ、すぎちゃう……からぁ」
「へぇ? 刺激が強いかな? わかった」
聖騎士は僕の体を押し倒した。赤い舌をチロリと出し頭を下げる。何をするのかと思えば、
「ひゃん」
むしゃぶりついた。
「ん、甘っ……」
片方の乳首は舌で、もう片方は指で転がされる。丁寧で、しつこかった。時折聞こえる唾液を吸う音がたまらなく淫らで興奮した。腰が揺れた。声が漏れる。それが嫌で僕は自分の右手の人差し指を噛んだ。
「こら。噛まないの。ユアンちゃんは噛むのが好きだね」
首をもたげた聖騎士が言う。彼は僕の右手を取って恋人繋ぎをした。
「ユアンちゃんって言うなってば……」
「ふふっ。どこまでも強がりだ。いつまで続くのか楽しみだなぁ。ドロドロに溶かして食べちゃいたい」
「うう……っ」
次いでヴィクトは僕の体中にキスの雨を降らせてきた。首筋から鎖骨、胸、へそ、脇腹。そして最後にべろーっと喉元まで舐め上げる。予測不能だ。背すじがぶるりと震えた。官能が下半身をこつこつと叩く。触られてもいないのにあそこが切ない。どうしよう。
「ねぇユアン様」
僕はもじもじと内股を擦り合わせた。
「どうしてほしい? 言ってみて」
「え、えぇっと」
「なんでもしてあげる」
目が合う。すさまじい色香だ。僕はパクパクと口を開閉して言葉にならない音をいくらか紡いだのち、諦めて、ねだった。
「……て」
「うん?」
「さわって」
「どこを?」
一拍置く。もどかしすぎて自分の左手がそこに向かった。
「だめだよ。ちゃんと言って。俺が叶えてあげる」
阻止された。泣きたくなった。追い詰められた草食動物の気持ちがわかる。
「あ、あそこ……」
「あそこって?」
「うぅ、意地悪しないでよ!」
「ごめん。俺、好きな子はいじめたいタイプみたい」
今まではこんなじゃなかったんだけどな、と男が笑った。
「っ……ユアン様」
「ねぇヴィクト」
熱っぽく見上げてまくしたてた。
「僕は女の人みたいに胸があるわけでもないし、柔らかい体をしているわけでもない。でも、教えてくれれば、ヴィクトが満足できるよう色々覚えるから……頑張るから……だから」
聖騎士は目を見開いている。
「愛してよ」
必死な自分が笑えた。
「愛してほしいんだ。お願い」
聞いたことのあるセリフだな。そりゃそうか。僕が言ったんだ。同じ場所で、同じ相手に、僕は懇願をした。あの時は誤解をされてそういう意味に捉えられたけど、今は違う。僕自らがそれを望んでいる。伝わるだろうか、僕の気持ちが。触れ合いたいと願うはしたない欲望が。
「ユアン様……ぁあぁーーーっ」
するとどうだろう、聖騎士が呻った。呻ったと思ったら片腕で僕の腰を抱き上げ、すばやく寝台に移動した。ぽすんと落とされる。
「徐々に慣らそうと思って必死で耐えてたのに」
ガラリと雰囲気が変わる。獲物を目の前にした捕食者が現れる。
「我慢して損した。もっと早くこうすればよかったのか」
聖騎士は持っていた包みをベッドの端に放ると、驚くべき行動に出た。胸当てを外し、携えていた聖剣までも置いたのだ。そのまま内側にまとう服に手をかけ、手早く脱いでいく。僕はぎょっとした。
「な、なな、なんで。何してるの」
「何って。これから愛し合うんだからさ? 準備だよ」
「愛っ……違くて、だって、言ってたじゃん。何があっても服は脱がないって、剣は置かないって、最初に会った時に」
「あー」
聖騎士は器用に片方の眉尻だけを上げた。
「言ったね。言った。でも、この国より、大事だからさ」
一体何が。
「健気でいじらしい俺の恋人のほうが」
ドキッとした。息がつまる。
恋人という形容をされたのは初めてだった。聖騎士の発言としては褒められたものじゃないのだろうが、単純な僕の心は一気に坂を駆け上がる。
「まぁいざとなったら裸でも戦えるしな」
そうおどけて話す男が上裸を晒す。見事なまでの肉体美だ。僕は思わず唾を飲んだ。
「ユアン様も脱ごっか」
「ぅあ……えと……はい」
「脱がしてあげる」
どうしよう。内臓が飛び出てきそうだ。自分から誘ったくせに、僕は底なしに緊張していた。
そうやってひとりオロオロしていると、あっという間に衣服がはだけた。体の前で腕を交差する。貧弱な僕を見て、ヴィクトがガッカリしないか心配だった。
だが彼は瞳を煌めかせて言った。
「綺麗だ。もっと見せて」
大きな手が僕の手首を取る。隠すものがなくなった薄い胸に熱い視線が注がれた。
「ピンクで可愛い。……触っていい?」
小さく肯定する。来たる刺激に備えてきゅっと目をつぶった。翻弄の始まりだった。
「ぁん……ふぁ……ヴィ、ク……ト」
「尖ってきた」
「ぁ、だめぇ……」
言葉と裏腹に胸を突き出してしまう。これでは「もっとして」だ。案の定ヴィクトの指先が執拗に突起を追いかけた。
「んっ……つよ……い、感じ、すぎちゃう……からぁ」
「へぇ? 刺激が強いかな? わかった」
聖騎士は僕の体を押し倒した。赤い舌をチロリと出し頭を下げる。何をするのかと思えば、
「ひゃん」
むしゃぶりついた。
「ん、甘っ……」
片方の乳首は舌で、もう片方は指で転がされる。丁寧で、しつこかった。時折聞こえる唾液を吸う音がたまらなく淫らで興奮した。腰が揺れた。声が漏れる。それが嫌で僕は自分の右手の人差し指を噛んだ。
「こら。噛まないの。ユアンちゃんは噛むのが好きだね」
首をもたげた聖騎士が言う。彼は僕の右手を取って恋人繋ぎをした。
「ユアンちゃんって言うなってば……」
「ふふっ。どこまでも強がりだ。いつまで続くのか楽しみだなぁ。ドロドロに溶かして食べちゃいたい」
「うう……っ」
次いでヴィクトは僕の体中にキスの雨を降らせてきた。首筋から鎖骨、胸、へそ、脇腹。そして最後にべろーっと喉元まで舐め上げる。予測不能だ。背すじがぶるりと震えた。官能が下半身をこつこつと叩く。触られてもいないのにあそこが切ない。どうしよう。
「ねぇユアン様」
僕はもじもじと内股を擦り合わせた。
「どうしてほしい? 言ってみて」
「え、えぇっと」
「なんでもしてあげる」
目が合う。すさまじい色香だ。僕はパクパクと口を開閉して言葉にならない音をいくらか紡いだのち、諦めて、ねだった。
「……て」
「うん?」
「さわって」
「どこを?」
一拍置く。もどかしすぎて自分の左手がそこに向かった。
「だめだよ。ちゃんと言って。俺が叶えてあげる」
阻止された。泣きたくなった。追い詰められた草食動物の気持ちがわかる。
「あ、あそこ……」
「あそこって?」
「うぅ、意地悪しないでよ!」
「ごめん。俺、好きな子はいじめたいタイプみたい」
今まではこんなじゃなかったんだけどな、と男が笑った。
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