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「ユアン様ってほんと、何回言っても伝わらないね。それともわざとなの?」
ギシッと寝具が軋む。仰向けに押し倒された僕の上に聖騎士が乗り上げる。
「先にこっちの話をつけておくべきだった」
「あ、ちょ」
待って待って待って。こっちの話って?
「広間で言ったこと。前言撤回するなんて言わないよね? 俺は言わないよ。ユアン様のことが好きだ。心底大切で、かけがえないと思っている。命に代えてでも守りたいくらいに」
結われた長髪がさらりと落ちてきた。
「あなたが神子で、俺がそれに仕える身分だからこんなこと言ってると思ってるなら大間違いだ。純粋にそばにいたいんだよ。好きだから」
「っ」
「好きだよ、ユアン様。愛してる」
……ねぇ、ユアン様は?
しっとりとそう問われ、意識を失う前の記憶がフラッシュバックする。
血を流しながら魔物と戦うヴィクトを見て、傷つかないでほしいと思った。僕が人間でも魔物でもどちらでもいいとかばってくれて、胸がはちきれそうになった。好きだと、大切だと、失いたくないのだと言われて、これ以上ないほど嬉しかった。一緒に聖剣に貫かれた時は、なんとしてもこの人のことだけは死なせてはいけないと思った。
どうして? そんなの簡単だ。全部全部、僕がヴィクトを愛しているから。
「……き」
「え?」
「好き。……好き……大好き……」
燃えるような瞳とぶつかる。
「僕もずっと好きだったよ。ヴィクト」
「ユアン様」
「あ……愛してる」
空気が変わる。空色の長い睫毛がぴくりと動いた。目元が少し赤い。剣を握る手が僕の頬を愛おしげに撫でる。
「やっとだ――やっとちゃんと聞けた。……まぁ、知ってたけど」
「ははっ」
見つめ合って笑えば、ヴィクトが僕の額に口づけを落としてきた。軽やかな音が鳴る。
「そうだ。前、ユアン様と俺の好きは意味が違うから、同じ気持ちを返せないって言ったよな? 今思えば俺を遠ざけるための作り話だったんだろうけど。違う?」
「……っ、う、うん……ごめん。あれは……嘘ついたんだ」
「へぇ。悪い子だね?」
唇は目尻にも落ちてきた。続いて頬、鼻先、あご、口の端。心臓がバクバクする。
「ヴィ、ヴィクト」
くすぐったかった。同じくらいもどかしかった。ためらいはなかった。
「……ねぇ、認めるよ。僕は悪い子だ。だから……。お仕置き、して?」
「っ」
あごを掴まれ唇が塞がれた。熱っぽかった。上唇を吸われ、下唇を吸われ、全体をあむあむと甘噛みされる。慣れてない僕はすぐに茹で上がってしまう。
「真っ赤」
「うるさい」
「可愛い」
「うるさ――」
また塞がれた。
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と部屋にリップ音が響く。
「俺以外ともキスできるって言ってたねぇ?」
「んぅ」
「誰とでもこういうこと、するんだもんねぇ?」
意地が悪いなぁと思う。ヴィクトにはすっかり余裕しゃくしゃくとした調子が戻ってきていた。きっと答えがわかった上で聞いている。僕に言わせたいんだ。
まぁ、そうやって翻弄を受けて気持ちが浮上してしまうのだから、僕も大概なのだけれど。
「……んう、嘘……っ。ヴィクト以外、ぁ、知らないよ……キスなんて、したことなかった」
「っ……! あー……いいね。ちょっともう一回言ってくれる?」
「や、やだ」
「いーじゃん。もう一回だけ」
そう求めるくせに彼は何も言わせない。ちろっと出した赤い舌で僕の唇を舐め上げる。ゾクゾクした。
「ほんといちいち反応が可愛い。全部俺が初めてなんだな」
噛みしめるように呟かれるからカッと恥ずかしくなった。
「わからないこととか知りたいことがあったら、言ってね? 俺が教えてあげる」
「ゃぁ、ヴィ……ふぁ」
「ん、例えばキスのしかただってさ、色々あるんだ」
口を開けて、とヴィクトが言った。僕はすでにはぁはぁと肩で息をして、思考がとろんと溶けだしている。条件反射的に指示に従ってしまう。
「いい子」
「あっ」
熱いものが入ってくる。舌だ。肉厚なそれははじめは優しく、次第に遠慮を捨てて好き勝手に中を動き回った。
「ゃ……あん」
歯列をなぞられ、口蓋を刺激され、ビクッと肩が跳ねあがる。舌と舌が絡み合えばもう何も考えられないくらいに脳みそが蕩けてしまう。
「ユアン様、これ好き? 気持ちいい?」
「ん……きもち、いい……」
「そっか。よかった。じゃあこういうのは? 舌、出してみて」
「舌?」
「べーって。こんなふうに」
更なる要求が続く。僕は必死で男の真似をする。彼は外気に晒された僕の舌に、柔らかく吸い付いてきた。
「ひゃっ」
「こら。引っ込めないで……もう一度。そう、上手」
「んんんーぅ」
鼻濁音が漏れる。ヴィクトは僕の舌先をちゅくちゅくとついばんだり、べろりと面を合わせてきたりした。その度に僕は体がびくびく跳ねてしまう。身をよじった。両足をもじもじとすりあわせる。粘膜と粘膜とが接した部分から、淫らで熱い刺激が流れ込んでくる。鳥の魔物はいなくなったはずなのにどうして、と不思議だった。
「ふふっ。目がとろんってしてる。気に入ってくれたみたいだね。他にもたくさんやり方あるけど」
「も、もうお腹いっぱいだ!」
「ははは。じゃあ、これからひとつずつ教えていってあげる」
楽しみだね? と聖騎士は不敵に笑う。妖艶だった。うっと息がつまった僕はたまらず目を逸らしてしまう。
瞬間、顔をしかめた。
ひとつずつって一体いくつあるんだよ。そもそもヴィクトはそういうのをどこで覚えたんだ? 今まで関係をもってきた人たちと……こういうこと……してたのかな。してたんだろうな。だから色々知ってるし、余裕だし、僕とは大違いなんだ。
胸がもやもやする。
僕は手のひらをきゅっと握ると、心を決めて、上目遣いでヴィクトを見つめた。
「あの、さぁ……」
ギシッと寝具が軋む。仰向けに押し倒された僕の上に聖騎士が乗り上げる。
「先にこっちの話をつけておくべきだった」
「あ、ちょ」
待って待って待って。こっちの話って?
「広間で言ったこと。前言撤回するなんて言わないよね? 俺は言わないよ。ユアン様のことが好きだ。心底大切で、かけがえないと思っている。命に代えてでも守りたいくらいに」
結われた長髪がさらりと落ちてきた。
「あなたが神子で、俺がそれに仕える身分だからこんなこと言ってると思ってるなら大間違いだ。純粋にそばにいたいんだよ。好きだから」
「っ」
「好きだよ、ユアン様。愛してる」
……ねぇ、ユアン様は?
しっとりとそう問われ、意識を失う前の記憶がフラッシュバックする。
血を流しながら魔物と戦うヴィクトを見て、傷つかないでほしいと思った。僕が人間でも魔物でもどちらでもいいとかばってくれて、胸がはちきれそうになった。好きだと、大切だと、失いたくないのだと言われて、これ以上ないほど嬉しかった。一緒に聖剣に貫かれた時は、なんとしてもこの人のことだけは死なせてはいけないと思った。
どうして? そんなの簡単だ。全部全部、僕がヴィクトを愛しているから。
「……き」
「え?」
「好き。……好き……大好き……」
燃えるような瞳とぶつかる。
「僕もずっと好きだったよ。ヴィクト」
「ユアン様」
「あ……愛してる」
空気が変わる。空色の長い睫毛がぴくりと動いた。目元が少し赤い。剣を握る手が僕の頬を愛おしげに撫でる。
「やっとだ――やっとちゃんと聞けた。……まぁ、知ってたけど」
「ははっ」
見つめ合って笑えば、ヴィクトが僕の額に口づけを落としてきた。軽やかな音が鳴る。
「そうだ。前、ユアン様と俺の好きは意味が違うから、同じ気持ちを返せないって言ったよな? 今思えば俺を遠ざけるための作り話だったんだろうけど。違う?」
「……っ、う、うん……ごめん。あれは……嘘ついたんだ」
「へぇ。悪い子だね?」
唇は目尻にも落ちてきた。続いて頬、鼻先、あご、口の端。心臓がバクバクする。
「ヴィ、ヴィクト」
くすぐったかった。同じくらいもどかしかった。ためらいはなかった。
「……ねぇ、認めるよ。僕は悪い子だ。だから……。お仕置き、して?」
「っ」
あごを掴まれ唇が塞がれた。熱っぽかった。上唇を吸われ、下唇を吸われ、全体をあむあむと甘噛みされる。慣れてない僕はすぐに茹で上がってしまう。
「真っ赤」
「うるさい」
「可愛い」
「うるさ――」
また塞がれた。
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と部屋にリップ音が響く。
「俺以外ともキスできるって言ってたねぇ?」
「んぅ」
「誰とでもこういうこと、するんだもんねぇ?」
意地が悪いなぁと思う。ヴィクトにはすっかり余裕しゃくしゃくとした調子が戻ってきていた。きっと答えがわかった上で聞いている。僕に言わせたいんだ。
まぁ、そうやって翻弄を受けて気持ちが浮上してしまうのだから、僕も大概なのだけれど。
「……んう、嘘……っ。ヴィクト以外、ぁ、知らないよ……キスなんて、したことなかった」
「っ……! あー……いいね。ちょっともう一回言ってくれる?」
「や、やだ」
「いーじゃん。もう一回だけ」
そう求めるくせに彼は何も言わせない。ちろっと出した赤い舌で僕の唇を舐め上げる。ゾクゾクした。
「ほんといちいち反応が可愛い。全部俺が初めてなんだな」
噛みしめるように呟かれるからカッと恥ずかしくなった。
「わからないこととか知りたいことがあったら、言ってね? 俺が教えてあげる」
「ゃぁ、ヴィ……ふぁ」
「ん、例えばキスのしかただってさ、色々あるんだ」
口を開けて、とヴィクトが言った。僕はすでにはぁはぁと肩で息をして、思考がとろんと溶けだしている。条件反射的に指示に従ってしまう。
「いい子」
「あっ」
熱いものが入ってくる。舌だ。肉厚なそれははじめは優しく、次第に遠慮を捨てて好き勝手に中を動き回った。
「ゃ……あん」
歯列をなぞられ、口蓋を刺激され、ビクッと肩が跳ねあがる。舌と舌が絡み合えばもう何も考えられないくらいに脳みそが蕩けてしまう。
「ユアン様、これ好き? 気持ちいい?」
「ん……きもち、いい……」
「そっか。よかった。じゃあこういうのは? 舌、出してみて」
「舌?」
「べーって。こんなふうに」
更なる要求が続く。僕は必死で男の真似をする。彼は外気に晒された僕の舌に、柔らかく吸い付いてきた。
「ひゃっ」
「こら。引っ込めないで……もう一度。そう、上手」
「んんんーぅ」
鼻濁音が漏れる。ヴィクトは僕の舌先をちゅくちゅくとついばんだり、べろりと面を合わせてきたりした。その度に僕は体がびくびく跳ねてしまう。身をよじった。両足をもじもじとすりあわせる。粘膜と粘膜とが接した部分から、淫らで熱い刺激が流れ込んでくる。鳥の魔物はいなくなったはずなのにどうして、と不思議だった。
「ふふっ。目がとろんってしてる。気に入ってくれたみたいだね。他にもたくさんやり方あるけど」
「も、もうお腹いっぱいだ!」
「ははは。じゃあ、これからひとつずつ教えていってあげる」
楽しみだね? と聖騎士は不敵に笑う。妖艶だった。うっと息がつまった僕はたまらず目を逸らしてしまう。
瞬間、顔をしかめた。
ひとつずつって一体いくつあるんだよ。そもそもヴィクトはそういうのをどこで覚えたんだ? 今まで関係をもってきた人たちと……こういうこと……してたのかな。してたんだろうな。だから色々知ってるし、余裕だし、僕とは大違いなんだ。
胸がもやもやする。
僕は手のひらをきゅっと握ると、心を決めて、上目遣いでヴィクトを見つめた。
「あの、さぁ……」
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