その名前はリリィ

イケのタコ

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六話 

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入ってきたのはレオンハルトと先程の隊員の一人だった。

「げっ、レオンハルト隊長」
「そういうのも顔に出さない。まぁいいけど、ロードリックに見られていたら怒られてたよ」
「……すいません」

ニードのあからさま嫌悪感ある態度を注意しつつ、レオンハルトは俺の方に近づいてくる。
今日は見慣れた格好が目に映る、上下共に紺色の騎士の制服であったからだ。

「久しぶり、あれから数日ぶりになるのかな」
「お久しぶりです」

変わらず笑顔向けてくるレオンハルトが逆に恐い。一応、俺は騎士団に捕まっているんだよな。

「あのお久しぶりです。すでに、俺の事を知ってましたか」
「……いや、分からなかった。確証が持てたのは残念ながらあの時だよ」

俺もリリィが魔術師だとは気づかなかった。

「もう一つ、君は厄介な者に追われているね」
「それは知ってるんですね」
「当然、騎士団だからね」

答えにはなっては無いが、サエグサにやり口を知っている人間なら気がつくのも当然か。
すると、レオンハルトは跪いては俺との目線を合わせてきた。当然、重要な話をされる事は理解できているし、今から罪状を並べられるのでは内心ビクビクとし身構えた。

「君は窮地に立たされているね。それで提案なのだけど、俺のところに来ないか?君を助ける事ができる。その代わり……」
「その代わり?」
「何があってもずっと側にいてくれるかな。もし、離れた場合は君を守れなくなる。だから、それだけ約束して欲しい」

帝都までの間はレオンハルトがずっと面倒を見てくれるという事だろうか。
こちらとしては狙われている分、騎士が専属でついてくれるのはありがたい。けど、真面目な顔して改めて言われると告白されているみたいで笑いそうになった。

「あの、レオンハルト隊長。勝手に話を進めないでもらえませんか」

俺を捕まえたロードリックの隊員が止める。隊長のロードリックに相談なしで拉致するような形で連れて行こうしているからだ。
「そっそうだぞ」とニードも焦ったように隊員を援護した。

「君達に訊いてない。リリィ、きみはどちらが良い。ありのままリリィが思う方でいい、どちらを選んでも率先してサポートするから」

レオンハルトか、ロードリックか。帝都までは同じとしてその道中の扱いを考えると決まっている。

「…レオンハルト?」
「うん、分かった」

景気良く一つ頷くとレオンハルトは勝手に椅子に括り付けられた足の紐を解いていく。
騎士達は横暴を止めたいけれど、一応騎士団の隊長という身分には抗えずに「勝手はやめてください」口だけで見守る事しかできない。

「歩ける?怪我はない?」
「歩けますよ、何もされてないし」
「ごめんだけど、魔術師である限り腕の紐外せないかな」
「別に良いです、分かってますから」

足が自由になっただけでも良いとしよう。もうこの町にサエグサがいるならもう一人の話では無い、ここはレオンハルト達と協力してここを切り抜ける。
 
「相変わらず、聞きつけるのが早いな」

と思った矢先に一悶着を起こす者が帰ってきた。

「ロードリック、おじゃましてるよ」
「ああ、クソほど邪魔だ」

ロードリックはどこから聞きつけたのか、扉の前に青筋を立てて部屋に入ってきた。
レオンハルトはゆっくりと振り返る。

「人の部隊を荒らしやがって、貴様は何がしたい。そんなに俺に刺されたいのか」
「そんなつもりはないけど。一応、俺なりの考えがあるだけ」
「貴様の私情にしか見えないが」
「気のせいでしょ」

想像していた通りの喧嘩始める二人。隊員の顔が強張っては体が硬くなっていくのが手に取るように分かる。
この争い、いつまで聞けばいいのだろうか。隊員なんて、気まずいを通り越して顔に色がない。
これをほぼ毎週聞かされていた俺の気持ちが今ならよーく分かるはずだ、早く終われと。

「今の貴様を見て、あの人はなんて言うだろな」
「それとこれとは関係ないだろ……」

今まで聞いた中で低い声がレオンハルトから出る。喧嘩をしていても一度も表情を崩さなかったレオンハルトが眉を顰めては不愉快を露わにし始める。

「良い加減にしろ!!」

イナミは腹から声を出すように叫び、大きく上下に腕を振っては部屋で暴れた。突然の大声に騎士達は一斉に背中を伸ばしては、イナミを睨む。

「俺は狙われてるって言ってるだろ。なんで!誰も話を聞いてくれないっ。俺が死んだら、末代まで呪ってやるからな!」

力ある限り手を振って錯乱するイナミ。二人の隊員が「やめろ」と止めに入るが腕を振って暴れるためなかなか止める事が出来なかった。

「サエグサ!サエグサが来るんだっ。あいつらに首を狩られて死ぬのは嫌だ、恐いよ、おれっ死にたくないよ!」
「サエ……グ……サ?」

隊員によって抑えられるイナミは床に倒され、うるさいと手で口を覆い塞がれ、ロードリックはある言葉に反応する。

「今、サエグサと言ったか。レオンハルトどういう事だ」
「どうもこうも、彼が狙われているのはサエグサだよ」
「はぁーーーそれを早く言え。クソ面倒な者に追われているな」

頭を抱えたロードリックは、すぐに隊員に命令する。

「全隊員は常に警戒体制、決して一人になるな。もし逸れていた場合すぐに俺に連絡する事を伝えろ。いくぞ、早く隊員を集合させるぞ」
「はっ分かりました」

イナミを抑えた二人の隊員は立ち上がっては、ロードリックに小走りについていく。隊員を召集させるため嵐のように去ったロードリック。
そして残されたのはイナミとレオンハルト二人だけ。散々暴れたイナミは疲れて床に寝そべっていた。

良かった、これでロードリックも動いてくれそうだ。レオンハルトと喧嘩するよりもっと重大な事に巻き込まれていると分かってくれたようだ。

「ごめんね」

レオンハルトが近づいてきてはそう言った。
喧嘩をした事の謝罪しているのか、今更だな。
周りからよく誤解されるが、最初に手を出すのは気の強いロードリックではなく、穏便に見えるレオンハルトの方だ。
ロードリックが相手の痛いところを突くのが上手いのもあるが、案外レオンハルトは血が上りやすい。
先ほども殴りかかろうとしていたのは分かっていた。

「何がですか、話を聞いてくれなかった事ですか。騎士様はいつも話を聞いてくれませんから」
「……そうだね。どこか痛いとかない?押さえ込まれた時に音がしたけれど」
「腰を打って痛いですが、刺されるより全然平気ですよ」

レオンハルトに背を向けてイナミは起き上がり、床に座った。

「俺みたいな罪人の命なんて軽いと思ってるでしょうけど、俺は死にたくないし殺されたくないですからね。俺が死ぬならあんた達が殺されればいい」
「うん」

暴れて拗ねるくらいすれば、レオンハルトは謝るのに値しない面倒な人くらいに思ってくれるだろう。これで俺と周囲を警戒するようになればロードリックとの喧嘩も減るだろう。
というか、もし隊員が命を落とすような事があれば、俺が二人の首を捧げるからなと言ってやりたい。

イナミはそう思いながらそっぽを向いて、レオンハルトの謝罪は聞き入れる事はしなかった。
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