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吸血鬼と恋模様
大神と雷と霧と風
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尾代山の主、尾毘芭那比売に導かれ、真咲は彼女が捕えたという吸血鬼達の下を訪れた。
木で作られた格子の先、傷だらけ黒皮の上下を身に着けた少年と、忌々し気に真咲達を睨む紫法丸が鎖に繋がれている。
紫法丸はこちらを睨み、少年は放心した様に虚空を見つめていた。
「よぉ、紫法丸」
「咲太郎……よもや貴様が山の獣と結んでいようとは……」
ギリギリと歯を鳴らし、紫法丸はオビハナに怒りのこもった視線を向けた。
「ほら、俺ってお前達と違って友達が多いから」
「相変わらずの仲良しこよしか……反吐が出る」
「んな事より、緋沙女が何処にいるのか教えてくんねぇ?」
「教えると思うか? それよりも早く決断しないと貴様の仲間が一人ずつ減って行く事になるぞ」
「てめぇ……」
「ふむ……教えぬと言うなら、教えたくするだけじゃ」
話を聞いていたオビハナが板張りの牢屋に歩を進める。
「何をする気だ?」
「こやつを癒してやるのじゃよ」
「癒す?」
「さよう、闇の力を舐めとり浄化して、何の力も持たぬただ血を吸うだけの鬼に戻してやるのじゃ」
「そんな事が……」
驚く真咲を横目にオビハナは牢屋を見張っていた男に目配せして、牢の入り口を開ける様に命じた。
命を受けて牢の入り口の鍵を開けたのは、よくよく見れば田所組の組長の息子、斗馬だった。
服装もそうだが、余りに雰囲気が変わっているのでパッと見では気付けなかったのだ。
「斗馬じゃん、お前、変わったなぁ。全然気付かなかったぜ」
斗馬に駆け寄り笑顔を見せた真咲に、彼はバツが悪そうに目線を逸らしながらボソリと答えた。
「……イキッても意味のねぇ相手がいるって分かっただけだ……命としての格の違う相手がな」
そう言って斗馬はチラリとオビハナに視線を向ける。
「なるほどな……やっぱ人間、広い世界を知るって大事だな」
「……かもな……姫様、どうぞ」
「うむ」
オビハナは斗馬が開けた格子戸を潜り、鎖に繋がれた紫法丸に歩み寄る。
一歩進むごとにその姿は女から白く巨大な獣へと変化していく。
『話は聞こえていたじゃろう。力を失いたく無ければお主らの頭目の居場所を教えよ』
「……」
『さようか……では力をこそげとってくれる!』
鼻先を近づけたオビハナの横っ面に紫法丸が出現させた牛頭の鬼の拳が叩き込まれた。
「オビハナ!?」
「姫様!?」
『クククッ……封をされてもまだ術が使えるか』
牛頭の拳は確かにオビハナの顔面を捉えていた。だがオビハナは何の痛痒も示さず、牛頭にベロリと舌を這わせる。
舐められた個所から牛頭の鬼は赤い霞となって虚空へと消えていく。
「……この化け物め……」
『言わぬならお主は鬼としての力を失い、血を求めるだけの唯人となるぞえ?』
そう言って舌なめずりをする巨大な獣に紫法丸は歯軋りしながら顔を歪めた。
■◇■◇■◇■
真咲達が紫法丸に緋沙女の居場所を聞いていた頃、珠緒の店、まねき蕎麦にガラの悪い少年たちを引き連れ、白の中折れ帽に白いスーツを着た垂れ目の男が訪れていた。
店舗の入り口に張られた臨時休業の張り紙を見て、男は小さく舌打ちをする。
「ここにはいないようだな、仕方ない、警告で店を荒しておくか」
「それは困るな。うちの蕎麦を楽しみにしているファンがいるんでね」
ライトブルーの女と黒髪短髪の男、そして黒髪ショートの女が男と少年たちを睨む。
「そちらから出て来てくれるとは助かる」
白いスーツの男はそう言って笑うと指をパチンッと鳴らした。
それを合図に少年たちは血で得物を作り出し三人を取り囲むように移動して、手にした鮮血の色をした武器を構えた。
「響子、巳郎、人払いは終わってるにゃ。多少派手にやってもバレないにゃ」
「了解」
「承知」
珠緒の言葉通り、昼間だというのに人通りは無く、道路沿いに並ぶ店やビルにも人の姿は無かった。
「へぇ、最初から戦う気だったのか……お前達の事は調べが付いている。雷神、蛇神、猫又……俺は仲間内じゃ雷帝って呼ばれてる。本物の雷神とは一回戦ってみたかったんだ」
そう言うと男は再度指を鳴らす。
それと同時に男の指先から響子目掛けて電撃が飛んだ。
その電撃を響子は左手で受け止めそのまま握り潰した。
「雷帝か……分かった、本物の稲妻を見せてやる、付いて来な」
「上等だ」
「……巳郎、残りは任せた」
「承知した。珠緒、少し離れていろ。巻き込まれるぞ」
「了解だにゃ!」
珠緒が無人の四車線の道路の上を飛び跳ね距離を取ると、響子は稲光を纏い上空へ、それを追い雷帝と名乗った男も翼を広げ宙に舞う。
そして地上に残った巳郎はその身を白い大蛇へと変えた。
『信仰は失ったが、今の我には人々の感謝の想いが届いている……溶かされたく無ければ引くがいい』
そう言って巳郎は牙を剥いたが、少年たちは無表情のまま武器を翳し巳郎ににじり寄る。
『意思を持たぬ繰り人形とされたか……哀れな』
白い大蛇は哀しそうにそう言うと、霧を吐き出した。
一方、空高く跳んだ響子と雷帝は距離を取り対峙していた。
「なぁ、本当に私と雷で戦うのか?」
「電撃だけじゃ無い、そこが雷しか使えない雷神のお前と俺との違い、いや差だ」
余裕の笑みを浮かべる雷帝を見て、響子は深いため息を吐いた。
「まぁ、暫く付き合ってやるから技を見せてみろ」
右手でチョイチョイと手招きした響子のさも面倒だと言わんばかりの様子に、雷帝の顔がヒクヒクと痙攣する。
「クソッ、舐めやがって!!」
憤りのまま、白いスーツの男は指を鳴らし、その身を霧に変え響子に迫った。
帯電した霧が響子にまとわり付き、着ていた皮ジャケットを電磁波が焼く。
「フハハッ、どうだ、電撃は効かずとも電磁波で発生する熱は防げまい!?」
「……お前は雷神がどういう物か分かっていない」
「何だと?」
「雷神とは雷の化身……つまり、如何に人の容姿をしていても本質は稲妻その物なんだよ」
そう言った響子の体が眩い光を帯びる……いや、その表現は正しくないだろう。そこにいたのは人の形をした電気の塊だった。
『じゃあ、次は私の演奏を聞いてもらおうか?』
「演奏……だと?」
それは静電気の放つチッチッチッという小さな音から始まり、重なりあった雷光が空気を引き裂く轟音へと変化した。
連続する雷光が男が変じた霧を切り裂き灰へと変えていく。
「ギャアアアッ!? こんな!? ……この俺が一方的にッ!?」
そんな男の叫びに答える事無く、鳴神響子は雷鳴による演奏を続けた。
見上げた空の上、ゴロゴロと腹に響く雷鳴が轟いている。
「ふぇぇ……響子はいい娘だけど、やっぱり雷は苦手だにゃあ」
頭を抱え珠緒は視線を地上に戻す。視線の先では白蛇が吐き出した霧により吸血鬼の少年達が皮膚を溶かされ、限界を超えた者から炭化して灰となっていた。
「うぅ……巳郎も真面目な奴だけど、やっぱり元神様だけあって強いにゃあ……」
「そうね。弱いのはあなたぐらいかしら?」
「にゃッ!?」
振り返った視線の先、黒いドレスを着た女が赤い唇に舌を這わせていた。
■◇■◇■◇■
同じ頃、マンションの窓ガラスを破り、梨珠と香織が暮らす家のリビングに吸血鬼の一団が押し入っていた。
リーダーらしき眉や鼻にピアスをした黒いダウンにロンTの青年は、顔を奇妙に歪めて笑みを浮かべる。
「事前の説明じゃあ、ここに住んでんのはただの人間……それも女二人らしい……ラッキーだったぜ、お前らも俺が味見した後、回してやるからよぉ」
「……」
「……チッ、つまんねぇ奴らだ」
彼と共にマンションに押し入った無表情な少年達を見やり、青年は舌打ちして吐き捨てる様に言う。
「赤月の牙も質が落ちたな。貴様の様な下衆を飼っているとは」
「ん? 後ろにいるのは武蔵か? って事はお前、九郎かよ!? ギャハハッ、ガキになったって噂、マジだったんだな!?」
ピアスの青年は黒いスーツを着た義経を見て腹を抱えて笑っている。
「……」
「聞いたぜ、お前、デカパイの女刑事とく」
青年が未来の事を口にした瞬間、リビングに一陣の風が吹き青年の顔はまるで玉ねぎの様にみじん切りにされた。
「弁慶、後は任せた」
「御意」
義経に頷きを返した弁慶は青年が引き連れた無表情な少年達の攻撃を弾き返し、掴んだ頭を次々と握りつぶし灰に変えていった。
梨珠と香織はそのリビングで行われる惨劇を顔を青ざめさせ隣の部屋から覗いていた。
「……ホントに灰になった」
「説明は聞いたけど……信じられないわ」
「一応、現在の政府の見解では、吸血鬼とか妖怪とかはいないって事になってますから……お二人も見た事は他言無用でお願いします」
「はい、分かってます……でもホント、未来さん達が来てくれてよかった。真咲からメールが来た時はどうしようかと思ったよ」
「ホントねぇ……高木さん、ありがとうございます」
「いえいえ、市民を守るのが警察官の仕事ですから……」
そう答えていた未来に義経は歩み寄ると、怯えた様子の梨珠と香織に目をやり口を開いた。
「どうやら咲太郎の知り合いの住所は知られているようだ。この二人は警察で保護した方が安全だろう」
「そうですね……お二人ともそれでいいですか?」
「うっ、うん!」
香織はリビングの床に落ちた灰と割られた窓ガラスを見た後、自分の横に座り服の裾を握り締めている梨珠を見下ろすと、未来に尋ねる。
「……そうね。高木さん、お願いできますか?」
「勿論です! では、準備を終えたら移動しましょう!」
両手を合わせ頷いた未来に梨珠と香織は安心と不安が入り混じった笑みを返した。
木で作られた格子の先、傷だらけ黒皮の上下を身に着けた少年と、忌々し気に真咲達を睨む紫法丸が鎖に繋がれている。
紫法丸はこちらを睨み、少年は放心した様に虚空を見つめていた。
「よぉ、紫法丸」
「咲太郎……よもや貴様が山の獣と結んでいようとは……」
ギリギリと歯を鳴らし、紫法丸はオビハナに怒りのこもった視線を向けた。
「ほら、俺ってお前達と違って友達が多いから」
「相変わらずの仲良しこよしか……反吐が出る」
「んな事より、緋沙女が何処にいるのか教えてくんねぇ?」
「教えると思うか? それよりも早く決断しないと貴様の仲間が一人ずつ減って行く事になるぞ」
「てめぇ……」
「ふむ……教えぬと言うなら、教えたくするだけじゃ」
話を聞いていたオビハナが板張りの牢屋に歩を進める。
「何をする気だ?」
「こやつを癒してやるのじゃよ」
「癒す?」
「さよう、闇の力を舐めとり浄化して、何の力も持たぬただ血を吸うだけの鬼に戻してやるのじゃ」
「そんな事が……」
驚く真咲を横目にオビハナは牢屋を見張っていた男に目配せして、牢の入り口を開ける様に命じた。
命を受けて牢の入り口の鍵を開けたのは、よくよく見れば田所組の組長の息子、斗馬だった。
服装もそうだが、余りに雰囲気が変わっているのでパッと見では気付けなかったのだ。
「斗馬じゃん、お前、変わったなぁ。全然気付かなかったぜ」
斗馬に駆け寄り笑顔を見せた真咲に、彼はバツが悪そうに目線を逸らしながらボソリと答えた。
「……イキッても意味のねぇ相手がいるって分かっただけだ……命としての格の違う相手がな」
そう言って斗馬はチラリとオビハナに視線を向ける。
「なるほどな……やっぱ人間、広い世界を知るって大事だな」
「……かもな……姫様、どうぞ」
「うむ」
オビハナは斗馬が開けた格子戸を潜り、鎖に繋がれた紫法丸に歩み寄る。
一歩進むごとにその姿は女から白く巨大な獣へと変化していく。
『話は聞こえていたじゃろう。力を失いたく無ければお主らの頭目の居場所を教えよ』
「……」
『さようか……では力をこそげとってくれる!』
鼻先を近づけたオビハナの横っ面に紫法丸が出現させた牛頭の鬼の拳が叩き込まれた。
「オビハナ!?」
「姫様!?」
『クククッ……封をされてもまだ術が使えるか』
牛頭の拳は確かにオビハナの顔面を捉えていた。だがオビハナは何の痛痒も示さず、牛頭にベロリと舌を這わせる。
舐められた個所から牛頭の鬼は赤い霞となって虚空へと消えていく。
「……この化け物め……」
『言わぬならお主は鬼としての力を失い、血を求めるだけの唯人となるぞえ?』
そう言って舌なめずりをする巨大な獣に紫法丸は歯軋りしながら顔を歪めた。
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「ここにはいないようだな、仕方ない、警告で店を荒しておくか」
「それは困るな。うちの蕎麦を楽しみにしているファンがいるんでね」
ライトブルーの女と黒髪短髪の男、そして黒髪ショートの女が男と少年たちを睨む。
「そちらから出て来てくれるとは助かる」
白いスーツの男はそう言って笑うと指をパチンッと鳴らした。
それを合図に少年たちは血で得物を作り出し三人を取り囲むように移動して、手にした鮮血の色をした武器を構えた。
「響子、巳郎、人払いは終わってるにゃ。多少派手にやってもバレないにゃ」
「了解」
「承知」
珠緒の言葉通り、昼間だというのに人通りは無く、道路沿いに並ぶ店やビルにも人の姿は無かった。
「へぇ、最初から戦う気だったのか……お前達の事は調べが付いている。雷神、蛇神、猫又……俺は仲間内じゃ雷帝って呼ばれてる。本物の雷神とは一回戦ってみたかったんだ」
そう言うと男は再度指を鳴らす。
それと同時に男の指先から響子目掛けて電撃が飛んだ。
その電撃を響子は左手で受け止めそのまま握り潰した。
「雷帝か……分かった、本物の稲妻を見せてやる、付いて来な」
「上等だ」
「……巳郎、残りは任せた」
「承知した。珠緒、少し離れていろ。巻き込まれるぞ」
「了解だにゃ!」
珠緒が無人の四車線の道路の上を飛び跳ね距離を取ると、響子は稲光を纏い上空へ、それを追い雷帝と名乗った男も翼を広げ宙に舞う。
そして地上に残った巳郎はその身を白い大蛇へと変えた。
『信仰は失ったが、今の我には人々の感謝の想いが届いている……溶かされたく無ければ引くがいい』
そう言って巳郎は牙を剥いたが、少年たちは無表情のまま武器を翳し巳郎ににじり寄る。
『意思を持たぬ繰り人形とされたか……哀れな』
白い大蛇は哀しそうにそう言うと、霧を吐き出した。
一方、空高く跳んだ響子と雷帝は距離を取り対峙していた。
「なぁ、本当に私と雷で戦うのか?」
「電撃だけじゃ無い、そこが雷しか使えない雷神のお前と俺との違い、いや差だ」
余裕の笑みを浮かべる雷帝を見て、響子は深いため息を吐いた。
「まぁ、暫く付き合ってやるから技を見せてみろ」
右手でチョイチョイと手招きした響子のさも面倒だと言わんばかりの様子に、雷帝の顔がヒクヒクと痙攣する。
「クソッ、舐めやがって!!」
憤りのまま、白いスーツの男は指を鳴らし、その身を霧に変え響子に迫った。
帯電した霧が響子にまとわり付き、着ていた皮ジャケットを電磁波が焼く。
「フハハッ、どうだ、電撃は効かずとも電磁波で発生する熱は防げまい!?」
「……お前は雷神がどういう物か分かっていない」
「何だと?」
「雷神とは雷の化身……つまり、如何に人の容姿をしていても本質は稲妻その物なんだよ」
そう言った響子の体が眩い光を帯びる……いや、その表現は正しくないだろう。そこにいたのは人の形をした電気の塊だった。
『じゃあ、次は私の演奏を聞いてもらおうか?』
「演奏……だと?」
それは静電気の放つチッチッチッという小さな音から始まり、重なりあった雷光が空気を引き裂く轟音へと変化した。
連続する雷光が男が変じた霧を切り裂き灰へと変えていく。
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そんな男の叫びに答える事無く、鳴神響子は雷鳴による演奏を続けた。
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「ふぇぇ……響子はいい娘だけど、やっぱり雷は苦手だにゃあ」
頭を抱え珠緒は視線を地上に戻す。視線の先では白蛇が吐き出した霧により吸血鬼の少年達が皮膚を溶かされ、限界を超えた者から炭化して灰となっていた。
「うぅ……巳郎も真面目な奴だけど、やっぱり元神様だけあって強いにゃあ……」
「そうね。弱いのはあなたぐらいかしら?」
「にゃッ!?」
振り返った視線の先、黒いドレスを着た女が赤い唇に舌を這わせていた。
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リーダーらしき眉や鼻にピアスをした黒いダウンにロンTの青年は、顔を奇妙に歪めて笑みを浮かべる。
「事前の説明じゃあ、ここに住んでんのはただの人間……それも女二人らしい……ラッキーだったぜ、お前らも俺が味見した後、回してやるからよぉ」
「……」
「……チッ、つまんねぇ奴らだ」
彼と共にマンションに押し入った無表情な少年達を見やり、青年は舌打ちして吐き捨てる様に言う。
「赤月の牙も質が落ちたな。貴様の様な下衆を飼っているとは」
「ん? 後ろにいるのは武蔵か? って事はお前、九郎かよ!? ギャハハッ、ガキになったって噂、マジだったんだな!?」
ピアスの青年は黒いスーツを着た義経を見て腹を抱えて笑っている。
「……」
「聞いたぜ、お前、デカパイの女刑事とく」
青年が未来の事を口にした瞬間、リビングに一陣の風が吹き青年の顔はまるで玉ねぎの様にみじん切りにされた。
「弁慶、後は任せた」
「御意」
義経に頷きを返した弁慶は青年が引き連れた無表情な少年達の攻撃を弾き返し、掴んだ頭を次々と握りつぶし灰に変えていった。
梨珠と香織はそのリビングで行われる惨劇を顔を青ざめさせ隣の部屋から覗いていた。
「……ホントに灰になった」
「説明は聞いたけど……信じられないわ」
「一応、現在の政府の見解では、吸血鬼とか妖怪とかはいないって事になってますから……お二人も見た事は他言無用でお願いします」
「はい、分かってます……でもホント、未来さん達が来てくれてよかった。真咲からメールが来た時はどうしようかと思ったよ」
「ホントねぇ……高木さん、ありがとうございます」
「いえいえ、市民を守るのが警察官の仕事ですから……」
そう答えていた未来に義経は歩み寄ると、怯えた様子の梨珠と香織に目をやり口を開いた。
「どうやら咲太郎の知り合いの住所は知られているようだ。この二人は警察で保護した方が安全だろう」
「そうですね……お二人ともそれでいいですか?」
「うっ、うん!」
香織はリビングの床に落ちた灰と割られた窓ガラスを見た後、自分の横に座り服の裾を握り締めている梨珠を見下ろすと、未来に尋ねる。
「……そうね。高木さん、お願いできますか?」
「勿論です! では、準備を終えたら移動しましょう!」
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