上 下
66 / 105
第八章 迷宮行進曲

続・吸血鬼の受難

しおりを挟む
 吸血鬼ギリウスの呪いを解呪し人に生まれ変わらせたグリゼルダ。
 そんな事を簡単にやってのけた彼女にハーフリングのパムは尊敬の眼差しを送っていた。

「凄い凄いッ!! 普通、吸血鬼化したら二度と人には戻れないのにッ!!」

「私が凄い訳では無い。エルダガンドで不老不死化を研究していた者がいてな。彼の論文に吸血鬼ヴァンパイアの呪い、体内を循環する魔力による吸血鬼のアンデット化についてが詳しく書かれていたのだ」

「へぇ、それでその人は不老不死になったのかい?」
「いや、吸血鬼の不老不死化は余りにデメリットが多すぎるとして、研究は破棄されたようだ」
「デメリットか……確かに太陽に弱かったり、血ぃ飲まねぇと弱体化したり色々あるよな」

 ギャガン達がうんうんと頷いている横で、人となったギリウスはさめざめと泣いていた。
 余談ではあるが、健太郎の視界の表示は暫く視線を背けていると自然に消えた。

「うぅ……人間になってしまう等、父と母になんと言えばいいのか……」
「コホーッ!」

 悲観する事は無いさ。これからは思い切り日の光も浴びれるし、ニンニク料理だって食べ放題だよッ!

 健太郎けんたろうが何を言ったのかは伝わっていないだろうが、ジェスチャーから暢気な事を思っている事は伝わったらしく、手と足を縛り上げられたギリウスはキッと健太郎を睨みつけた。

「全て、全て貴様の所為だッ!! 大体何なのだあの攻撃はッ!? どうして霧となった私の出現場所が特定出来るッ!? 影から襲い掛かる狼の額を何故正確に撃ち抜けるッ!? 散らばった無数のコウモリを瞬時に射抜く等、どんな魔法を使えば出来るのだッ!?」

「コホー……?」

 魔法……えっと、ミシマジック……かな?

 健太郎がそう言って首を捻ると、ギリウスはギリギリと歯を軋らせた。

「クッ……こんなまともに話せない低級ゴーレムに真祖の子であるこの私が……」
「ミシマが話せようが話せまいがお前が負けた事は確かだ。それよりもお前の主の情報とカードを寄越せ」

 グリゼルダが冷静に声を掛けるとギリウスはプイッと横を向いた。

「喋らんか……仕方ない。パム、こいつの体を検めてくれ。盗賊の目なら見落とす事もあるまい」
「分かったよッ! それじゃあまずは懐から……」



「クッ、止めろッ!! ハーフリングの風情が私に触るなッ!! あっ、止めて、そんな所には何もないからッ!! そこは触っちゃ駄目だよぉッ!! あっ、あっ、ああぁぁぁ……あふんッ……」
「もう、変な声出して動かないでよッ!」

 パムに体をまさぐられてギリウスはクネクネと身を捩った。

「コホー……」

 見た目幼女に体をまさぐられて悶える元吸血鬼……一体どんな需要だ。

「需要って、そんな需要は無いだろ?」
「コホー……?」

 いや、もしかしたらこういうのが好きな人もいるかも? ……いやいないか。

「うん、これかな?」

 さんざん体をまさぐられ、頬を上気させ涙を流しているギリウスから離れたパムの手には、二枚のカードが握られていた。
 一枚は銀色の金属のカード、もう一枚はサファイアブルーのカードだった。

「えっと、たぶんこっちの銀のカードが地下一階から地下四階まで行ける奴で、もう一枚が地下四階から地下九階まで降りれる奴だねッ!」
「よっしゃッ、んじゃ早速、エレベーターとやらに向かうとしようぜ!」
「うんうんッ!」
「ふぅ……それじゃあこの人はどうするかね?」

 ミラルダはパムによって地面に押し倒されヒクヒクしているギリウスを指差し、健太郎達に視線を送る。

「こいつはかなり気位が高い、普通に説得しても情報は吐かんだろう」
「ミラルダとミシマはどうせ拷問は嫌なんだろ?」
「まぁねぇ、いくら悪人でも苦しめて情報を聞き出すのはやりたくないねぇ」
「わたしも拷問なんて見たくないよッ!!」
「コホーッ! ……コホー……」

 俺も拷問には反対だッ! ……まぁ、さっきのミシバルカンは結構、拷問チックではあったが……。

 頷いた健太郎にギャガンは苦笑を浮かべる。

「んじゃ、このままここにおいてくか?」
「コホーッ?」

 えっ、このまま放置したら他の魔物にやられちゃうよね?

「そうだね。放置はまずいだろうねぇ」
「じゃあ連れてくのか? それはそれで面倒じゃねぇか? 敵なんだしよぉ」
「でもここに捨ててくってのもねぇ……」

 ミラルダが口をへの字に曲げ唸ったのを見たパムが、はいはいと手を上げる。

「じゃあじゃあ、迷宮おじさんのとこ行く?」
「なんだい迷宮おじさんって?」
「地下一階に住んでる偏屈なおじさんだよ! すっごい人嫌いで部屋に入った人を問答無用で迷宮の外に放り出すのッ! でもでもそれで助かった駆け出し冒険者も沢山いるんだよッ!!」

 パムは両手を握り締め、迷宮おじさんの事を力説してくれた。

「パム、放り出すとは?」
「えっと、短距離転移の魔法だよ。おじさん自身が魔法を使っているのか、魔道具の効果なのか分からないけど、毎回迷宮の入り口近くに放り出されるのッ!」
「ほう、短距離転移……実に興味深い」
「んじゃ、首にこいつが魔物が増えた状況を作った犯人の一人だって札でも下げて、そのおっさんの部屋に放り込もうぜ」
「そうだね。この人が捕まって色々白状したら、領主様も手を打つかもしれないしね」
「決まりだなッ」

 そう言うとギャガンは恍惚の表情を浮かべていたギリウスを担ぎ上げた。

「パム、そのおっさんの部屋に案内してくれや」
「うんッ! こっちこっち、おじさんの部屋はここからすぐだよッ!!」


■◇■◇■◇■


 パムがすぐだと言った通り、その部屋は干渉紋の石のあった通路からニ十分程進んだ所にあった。
 その道中でも魔物と遭遇したが、その数は明らかに減っていた。健太郎達以外の冒険者が魔物を倒しているからかもしれない。

 そうして辿り着いた迷宮おじさんの部屋の入口、金属で補強された分厚い木の扉はいかにも頑丈そうで、魔物であっても簡単に破れそうにはない代物だった。

「コホー……」

 しかし、ホームレスの中にも人嫌いはいたが、魔物が徘徊している様な場所で暮らしてるって、どれだけ人嫌いなんだよ……。

「うーん、師匠の知り合いの魔法使いの中にも、山の中のいおりとかで暮らしている人もいたし、まぁ人それぞれだよ」
「コホー……コホーッ!」

 そっか……そうだよなッ!

 健太郎とミラルダが頷き合っている横で、ギャガンが肩から下ろしたギリウスに声を掛ける。

「おい、いつまでボーっとしてんだぁ?」

 恍惚の表情を浮かべていたギリウスの頬をギャガンがパンパンと叩くと、彼のズレていた瞳は焦点を結んだ。

「わっ、私は一体何をッ!?」
「テメェはそこのパムに体まさぐられて、もだえて失神してたんだよぉ」
「クッ、この私を誘惑するとは、みだらな小娘がッ!!」
「誘惑なんてしないよ! クネクネ動くから探すのに手間が掛かっただけだよッ!」
「ともかくだ、テメェはダンジョンの外に放り出すからよぉ。まぁ、後は兵士の御厄介になるんだな」

 ギャガンはそう言うとギリウスの首に罪状を書き連ねた木の板をぶら下げた。
 ちなみに板は元は道中、遭遇したゴブリンが使っていた簡素な盾だ。

「兵士の厄介とはどういう事だッ!? 私を領主に突き出すのかッ!?」
「結果的にはそうなるだろうな」
「あんた主犯じゃないし、正直に洗いざらい話せばきっと命だけは助けてくれるさ」
「んじゃあばよッ!」
「コホーッ!!」

 バイバーイ、元気でねぇ!!

「クッ、何をする、放せッ!! 放さんかッ!!」

 健太郎が手を振る中、ギャガンは藻掻くギリウスを抱え上げ扉の隙間から勢いよく投げ込んだ。

「コホー……」

 おじさん、人嫌いなら扉に鍵をかけときゃいいのに……。

「だっ、誰じゃ貴様ッ!! わわわッ、儂の部屋から出て行けッ!!」

 そんな声が響くと扉と石壁の間の僅かな隙間から眩い光が漏れ、薄暗い迷宮を一瞬照らし出す。

「はぁ……またやってしもうた……何時になったらこの対人恐怖症は治るんじゃろうか……適度な距離感が欲しくてここに居を構えたんじゃが、儂は間違っていたんじゃろか……グスッ、ずっ友が欲しい……」

 色々複雑そうなおじさんの独白を聞いた健太郎達は、顔を見合わせるとそっとその場を離れたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界帰りの憑依能力者 〜眷属ガチャを添えて〜

Jaja
ファンタジー
 ある日、中学2年の頃。  いつの様に右眼疼かせ、左手には、マジックで魔法陣を書き、それを包帯でぐるぐる巻きに。  朝のルーティンを終わらせて、いつもの様に登校しようとしてた少年は突然光に包まれた。  ラノベ定番の異世界転移だ。  そこから女神に会い魔王から世界を救ってほしい云々言われ、勿論二つ返事で了承。  妄想の中でしか無かった魔法を使えると少年は大はしゃぎ。  少年好みの厨二病能力で、約30年近い時間をかけて魔王を討伐。  そこから、どうなるのかと女神からのアクションを待ったが、一向に何も起こることはなく。  少年から既に中年になっていた男は、流石に厨二病も鳴りをひそめ、何かあるまで隠居する事にした。  そこから、約300年。  男の「あれ? 俺の寿命ってどうなってんの?」という疑問に誰も答えてくれる訳もなく。  魔の森でほのぼのと暮らしていると、漸く女神から連絡があった。  「地球のお姉様にあなたを返してって言われまして」  斯くして、男は地球に帰還する事になる。  ※この作品はカクヨム様にも投稿しています。  

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...