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第八章 迷宮行進曲
続・吸血鬼の受難
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吸血鬼ギリウスの呪いを解呪し人に生まれ変わらせたグリゼルダ。
そんな事を簡単にやってのけた彼女にハーフリングのパムは尊敬の眼差しを送っていた。
「凄い凄いッ!! 普通、吸血鬼化したら二度と人には戻れないのにッ!!」
「私が凄い訳では無い。エルダガンドで不老不死化を研究していた者がいてな。彼の論文に吸血鬼の呪い、体内を循環する魔力による吸血鬼のアンデット化についてが詳しく書かれていたのだ」
「へぇ、それでその人は不老不死になったのかい?」
「いや、吸血鬼の不老不死化は余りにデメリットが多すぎるとして、研究は破棄されたようだ」
「デメリットか……確かに太陽に弱かったり、血ぃ飲まねぇと弱体化したり色々あるよな」
ギャガン達がうんうんと頷いている横で、人となったギリウスはさめざめと泣いていた。
余談ではあるが、健太郎の視界の表示は暫く視線を背けていると自然に消えた。
「うぅ……人間になってしまう等、父と母になんと言えばいいのか……」
「コホーッ!」
悲観する事は無いさ。これからは思い切り日の光も浴びれるし、ニンニク料理だって食べ放題だよッ!
健太郎が何を言ったのかは伝わっていないだろうが、ジェスチャーから暢気な事を思っている事は伝わったらしく、手と足を縛り上げられたギリウスはキッと健太郎を睨みつけた。
「全て、全て貴様の所為だッ!! 大体何なのだあの攻撃はッ!? どうして霧となった私の出現場所が特定出来るッ!? 影から襲い掛かる狼の額を何故正確に撃ち抜けるッ!? 散らばった無数のコウモリを瞬時に射抜く等、どんな魔法を使えば出来るのだッ!?」
「コホー……?」
魔法……えっと、ミシマジック……かな?
健太郎がそう言って首を捻ると、ギリウスはギリギリと歯を軋らせた。
「クッ……こんなまともに話せない低級ゴーレムに真祖の子であるこの私が……」
「ミシマが話せようが話せまいがお前が負けた事は確かだ。それよりもお前の主の情報とカードを寄越せ」
グリゼルダが冷静に声を掛けるとギリウスはプイッと横を向いた。
「喋らんか……仕方ない。パム、こいつの体を検めてくれ。盗賊の目なら見落とす事もあるまい」
「分かったよッ! それじゃあまずは懐から……」
「クッ、止めろッ!! ハーフリングの風情が私に触るなッ!! あっ、止めて、そんな所には何もないからッ!! そこは触っちゃ駄目だよぉッ!! あっ、あっ、ああぁぁぁ……あふんッ……」
「もう、変な声出して動かないでよッ!」
パムに体をまさぐられてギリウスはクネクネと身を捩った。
「コホー……」
見た目幼女に体をまさぐられて悶える元吸血鬼……一体どんな需要だ。
「需要って、そんな需要は無いだろ?」
「コホー……?」
いや、もしかしたらこういうのが好きな人もいるかも? ……いやいないか。
「うん、これかな?」
さんざん体をまさぐられ、頬を上気させ涙を流しているギリウスから離れたパムの手には、二枚のカードが握られていた。
一枚は銀色の金属のカード、もう一枚はサファイアブルーのカードだった。
「えっと、たぶんこっちの銀のカードが地下一階から地下四階まで行ける奴で、もう一枚が地下四階から地下九階まで降りれる奴だねッ!」
「よっしゃッ、んじゃ早速、エレベーターとやらに向かうとしようぜ!」
「うんうんッ!」
「ふぅ……それじゃあこの人はどうするかね?」
ミラルダはパムによって地面に押し倒されヒクヒクしているギリウスを指差し、健太郎達に視線を送る。
「こいつはかなり気位が高い、普通に説得しても情報は吐かんだろう」
「ミラルダとミシマはどうせ拷問は嫌なんだろ?」
「まぁねぇ、いくら悪人でも苦しめて情報を聞き出すのはやりたくないねぇ」
「わたしも拷問なんて見たくないよッ!!」
「コホーッ! ……コホー……」
俺も拷問には反対だッ! ……まぁ、さっきのミシバルカンは結構、拷問チックではあったが……。
頷いた健太郎にギャガンは苦笑を浮かべる。
「んじゃ、このままここにおいてくか?」
「コホーッ?」
えっ、このまま放置したら他の魔物にやられちゃうよね?
「そうだね。放置はまずいだろうねぇ」
「じゃあ連れてくのか? それはそれで面倒じゃねぇか? 敵なんだしよぉ」
「でもここに捨ててくってのもねぇ……」
ミラルダが口をへの字に曲げ唸ったのを見たパムが、はいはいと手を上げる。
「じゃあじゃあ、迷宮おじさんのとこ行く?」
「なんだい迷宮おじさんって?」
「地下一階に住んでる偏屈なおじさんだよ! すっごい人嫌いで部屋に入った人を問答無用で迷宮の外に放り出すのッ! でもでもそれで助かった駆け出し冒険者も沢山いるんだよッ!!」
パムは両手を握り締め、迷宮おじさんの事を力説してくれた。
「パム、放り出すとは?」
「えっと、短距離転移の魔法だよ。おじさん自身が魔法を使っているのか、魔道具の効果なのか分からないけど、毎回迷宮の入り口近くに放り出されるのッ!」
「ほう、短距離転移……実に興味深い」
「んじゃ、首にこいつが魔物が増えた状況を作った犯人の一人だって札でも下げて、そのおっさんの部屋に放り込もうぜ」
「そうだね。この人が捕まって色々白状したら、領主様も手を打つかもしれないしね」
「決まりだなッ」
そう言うとギャガンは恍惚の表情を浮かべていたギリウスを担ぎ上げた。
「パム、そのおっさんの部屋に案内してくれや」
「うんッ! こっちこっち、おじさんの部屋はここからすぐだよッ!!」
■◇■◇■◇■
パムがすぐだと言った通り、その部屋は干渉紋の石のあった通路からニ十分程進んだ所にあった。
その道中でも魔物と遭遇したが、その数は明らかに減っていた。健太郎達以外の冒険者が魔物を倒しているからかもしれない。
そうして辿り着いた迷宮おじさんの部屋の入口、金属で補強された分厚い木の扉はいかにも頑丈そうで、魔物であっても簡単に破れそうにはない代物だった。
「コホー……」
しかし、ホームレスの中にも人嫌いはいたが、魔物が徘徊している様な場所で暮らしてるって、どれだけ人嫌いなんだよ……。
「うーん、師匠の知り合いの魔法使いの中にも、山の中の庵とかで暮らしている人もいたし、まぁ人それぞれだよ」
「コホー……コホーッ!」
そっか……そうだよなッ!
健太郎とミラルダが頷き合っている横で、ギャガンが肩から下ろしたギリウスに声を掛ける。
「おい、いつまでボーっとしてんだぁ?」
恍惚の表情を浮かべていたギリウスの頬をギャガンがパンパンと叩くと、彼のズレていた瞳は焦点を結んだ。
「わっ、私は一体何をッ!?」
「テメェはそこのパムに体まさぐられて、もだえて失神してたんだよぉ」
「クッ、この私を誘惑するとは、みだらな小娘がッ!!」
「誘惑なんてしないよ! クネクネ動くから探すのに手間が掛かっただけだよッ!」
「ともかくだ、テメェはダンジョンの外に放り出すからよぉ。まぁ、後は兵士の御厄介になるんだな」
ギャガンはそう言うとギリウスの首に罪状を書き連ねた木の板をぶら下げた。
ちなみに板は元は道中、遭遇したゴブリンが使っていた簡素な盾だ。
「兵士の厄介とはどういう事だッ!? 私を領主に突き出すのかッ!?」
「結果的にはそうなるだろうな」
「あんた主犯じゃないし、正直に洗いざらい話せばきっと命だけは助けてくれるさ」
「んじゃあばよッ!」
「コホーッ!!」
バイバーイ、元気でねぇ!!
「クッ、何をする、放せッ!! 放さんかッ!!」
健太郎が手を振る中、ギャガンは藻掻くギリウスを抱え上げ扉の隙間から勢いよく投げ込んだ。
「コホー……」
おじさん、人嫌いなら扉に鍵をかけときゃいいのに……。
「だっ、誰じゃ貴様ッ!! わわわッ、儂の部屋から出て行けッ!!」
そんな声が響くと扉と石壁の間の僅かな隙間から眩い光が漏れ、薄暗い迷宮を一瞬照らし出す。
「はぁ……またやってしもうた……何時になったらこの対人恐怖症は治るんじゃろうか……適度な距離感が欲しくてここに居を構えたんじゃが、儂は間違っていたんじゃろか……グスッ、ずっ友が欲しい……」
色々複雑そうなおじさんの独白を聞いた健太郎達は、顔を見合わせるとそっとその場を離れたのだった。
そんな事を簡単にやってのけた彼女にハーフリングのパムは尊敬の眼差しを送っていた。
「凄い凄いッ!! 普通、吸血鬼化したら二度と人には戻れないのにッ!!」
「私が凄い訳では無い。エルダガンドで不老不死化を研究していた者がいてな。彼の論文に吸血鬼の呪い、体内を循環する魔力による吸血鬼のアンデット化についてが詳しく書かれていたのだ」
「へぇ、それでその人は不老不死になったのかい?」
「いや、吸血鬼の不老不死化は余りにデメリットが多すぎるとして、研究は破棄されたようだ」
「デメリットか……確かに太陽に弱かったり、血ぃ飲まねぇと弱体化したり色々あるよな」
ギャガン達がうんうんと頷いている横で、人となったギリウスはさめざめと泣いていた。
余談ではあるが、健太郎の視界の表示は暫く視線を背けていると自然に消えた。
「うぅ……人間になってしまう等、父と母になんと言えばいいのか……」
「コホーッ!」
悲観する事は無いさ。これからは思い切り日の光も浴びれるし、ニンニク料理だって食べ放題だよッ!
健太郎が何を言ったのかは伝わっていないだろうが、ジェスチャーから暢気な事を思っている事は伝わったらしく、手と足を縛り上げられたギリウスはキッと健太郎を睨みつけた。
「全て、全て貴様の所為だッ!! 大体何なのだあの攻撃はッ!? どうして霧となった私の出現場所が特定出来るッ!? 影から襲い掛かる狼の額を何故正確に撃ち抜けるッ!? 散らばった無数のコウモリを瞬時に射抜く等、どんな魔法を使えば出来るのだッ!?」
「コホー……?」
魔法……えっと、ミシマジック……かな?
健太郎がそう言って首を捻ると、ギリウスはギリギリと歯を軋らせた。
「クッ……こんなまともに話せない低級ゴーレムに真祖の子であるこの私が……」
「ミシマが話せようが話せまいがお前が負けた事は確かだ。それよりもお前の主の情報とカードを寄越せ」
グリゼルダが冷静に声を掛けるとギリウスはプイッと横を向いた。
「喋らんか……仕方ない。パム、こいつの体を検めてくれ。盗賊の目なら見落とす事もあるまい」
「分かったよッ! それじゃあまずは懐から……」
「クッ、止めろッ!! ハーフリングの風情が私に触るなッ!! あっ、止めて、そんな所には何もないからッ!! そこは触っちゃ駄目だよぉッ!! あっ、あっ、ああぁぁぁ……あふんッ……」
「もう、変な声出して動かないでよッ!」
パムに体をまさぐられてギリウスはクネクネと身を捩った。
「コホー……」
見た目幼女に体をまさぐられて悶える元吸血鬼……一体どんな需要だ。
「需要って、そんな需要は無いだろ?」
「コホー……?」
いや、もしかしたらこういうのが好きな人もいるかも? ……いやいないか。
「うん、これかな?」
さんざん体をまさぐられ、頬を上気させ涙を流しているギリウスから離れたパムの手には、二枚のカードが握られていた。
一枚は銀色の金属のカード、もう一枚はサファイアブルーのカードだった。
「えっと、たぶんこっちの銀のカードが地下一階から地下四階まで行ける奴で、もう一枚が地下四階から地下九階まで降りれる奴だねッ!」
「よっしゃッ、んじゃ早速、エレベーターとやらに向かうとしようぜ!」
「うんうんッ!」
「ふぅ……それじゃあこの人はどうするかね?」
ミラルダはパムによって地面に押し倒されヒクヒクしているギリウスを指差し、健太郎達に視線を送る。
「こいつはかなり気位が高い、普通に説得しても情報は吐かんだろう」
「ミラルダとミシマはどうせ拷問は嫌なんだろ?」
「まぁねぇ、いくら悪人でも苦しめて情報を聞き出すのはやりたくないねぇ」
「わたしも拷問なんて見たくないよッ!!」
「コホーッ! ……コホー……」
俺も拷問には反対だッ! ……まぁ、さっきのミシバルカンは結構、拷問チックではあったが……。
頷いた健太郎にギャガンは苦笑を浮かべる。
「んじゃ、このままここにおいてくか?」
「コホーッ?」
えっ、このまま放置したら他の魔物にやられちゃうよね?
「そうだね。放置はまずいだろうねぇ」
「じゃあ連れてくのか? それはそれで面倒じゃねぇか? 敵なんだしよぉ」
「でもここに捨ててくってのもねぇ……」
ミラルダが口をへの字に曲げ唸ったのを見たパムが、はいはいと手を上げる。
「じゃあじゃあ、迷宮おじさんのとこ行く?」
「なんだい迷宮おじさんって?」
「地下一階に住んでる偏屈なおじさんだよ! すっごい人嫌いで部屋に入った人を問答無用で迷宮の外に放り出すのッ! でもでもそれで助かった駆け出し冒険者も沢山いるんだよッ!!」
パムは両手を握り締め、迷宮おじさんの事を力説してくれた。
「パム、放り出すとは?」
「えっと、短距離転移の魔法だよ。おじさん自身が魔法を使っているのか、魔道具の効果なのか分からないけど、毎回迷宮の入り口近くに放り出されるのッ!」
「ほう、短距離転移……実に興味深い」
「んじゃ、首にこいつが魔物が増えた状況を作った犯人の一人だって札でも下げて、そのおっさんの部屋に放り込もうぜ」
「そうだね。この人が捕まって色々白状したら、領主様も手を打つかもしれないしね」
「決まりだなッ」
そう言うとギャガンは恍惚の表情を浮かべていたギリウスを担ぎ上げた。
「パム、そのおっさんの部屋に案内してくれや」
「うんッ! こっちこっち、おじさんの部屋はここからすぐだよッ!!」
■◇■◇■◇■
パムがすぐだと言った通り、その部屋は干渉紋の石のあった通路からニ十分程進んだ所にあった。
その道中でも魔物と遭遇したが、その数は明らかに減っていた。健太郎達以外の冒険者が魔物を倒しているからかもしれない。
そうして辿り着いた迷宮おじさんの部屋の入口、金属で補強された分厚い木の扉はいかにも頑丈そうで、魔物であっても簡単に破れそうにはない代物だった。
「コホー……」
しかし、ホームレスの中にも人嫌いはいたが、魔物が徘徊している様な場所で暮らしてるって、どれだけ人嫌いなんだよ……。
「うーん、師匠の知り合いの魔法使いの中にも、山の中の庵とかで暮らしている人もいたし、まぁ人それぞれだよ」
「コホー……コホーッ!」
そっか……そうだよなッ!
健太郎とミラルダが頷き合っている横で、ギャガンが肩から下ろしたギリウスに声を掛ける。
「おい、いつまでボーっとしてんだぁ?」
恍惚の表情を浮かべていたギリウスの頬をギャガンがパンパンと叩くと、彼のズレていた瞳は焦点を結んだ。
「わっ、私は一体何をッ!?」
「テメェはそこのパムに体まさぐられて、もだえて失神してたんだよぉ」
「クッ、この私を誘惑するとは、みだらな小娘がッ!!」
「誘惑なんてしないよ! クネクネ動くから探すのに手間が掛かっただけだよッ!」
「ともかくだ、テメェはダンジョンの外に放り出すからよぉ。まぁ、後は兵士の御厄介になるんだな」
ギャガンはそう言うとギリウスの首に罪状を書き連ねた木の板をぶら下げた。
ちなみに板は元は道中、遭遇したゴブリンが使っていた簡素な盾だ。
「兵士の厄介とはどういう事だッ!? 私を領主に突き出すのかッ!?」
「結果的にはそうなるだろうな」
「あんた主犯じゃないし、正直に洗いざらい話せばきっと命だけは助けてくれるさ」
「んじゃあばよッ!」
「コホーッ!!」
バイバーイ、元気でねぇ!!
「クッ、何をする、放せッ!! 放さんかッ!!」
健太郎が手を振る中、ギャガンは藻掻くギリウスを抱え上げ扉の隙間から勢いよく投げ込んだ。
「コホー……」
おじさん、人嫌いなら扉に鍵をかけときゃいいのに……。
「だっ、誰じゃ貴様ッ!! わわわッ、儂の部屋から出て行けッ!!」
そんな声が響くと扉と石壁の間の僅かな隙間から眩い光が漏れ、薄暗い迷宮を一瞬照らし出す。
「はぁ……またやってしもうた……何時になったらこの対人恐怖症は治るんじゃろうか……適度な距離感が欲しくてここに居を構えたんじゃが、儂は間違っていたんじゃろか……グスッ、ずっ友が欲しい……」
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