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第七章 大森林のそのまた奥の

未来の事は未来の民が

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 結局、ラハンを中心としたエルフ至上主義者によるクーデターは、観客席にいた大会参加者の協力もあり三十分もしない間に鎮圧された。
 現在は健太郎けんたろうのコブラツイストで悶絶したラハンの他、クーデターに加わった者達は全員拘束され、試合場の中央で兵士の監視の下、拘束されていた。

「すまない、まさか貴族の中にあれほど血の濃さにこだわる者達がいたとは……」

 大家長ベルゲンはそう言うとクーデターを防いだ健太郎達に頭を下げた。

「まぁ、ラハンはんの主張も分からんでもないです。エルフちゅうのは長寿で美形って事で、他の種族から羨ましがられてるトコはありますから」
「コホーッ?」

 やっぱそうなんだ?

「そうやで、わいも旅の間、色んな種族から長生き出来てええなぁとか、自分もイケメンに生まれたかったとか言われたわ……けど長い時間があってもボーっと生きてたら意味無いし、見た目がようても心が汚れてたら何の価値も無いとわいは思うねん」

 確かに真田の言う様に例え千年生きれたとしても、その時間を無為に過ごせば何かに打ち込んだ者の十年よりも価値は無いように思える。
 それにラハンの様に美しい容姿をしていても、他者を見下し力で自分の主張を押し通そうとする者は健太郎には醜く感じられた。

「コホー……」

 結局、どんな種族であってもどう生きるかが大事って事か……。

「せやね、わいはエルフに転生して大好きだった武術に長い人生を賭けよ思うたけど、一番大事なんは後ろ暗い所無く生きれるかやないやろか……まぁ、それも個人個人が選ぶ事なんやろうけど……」
「個人個人がか……」
「はい……わいはベルゲン様への願いで優秀種維持法と出入国制限法の撤廃を求めましたけど、ホンマは皆が自由に未来を選べて、それを後押ししてくれる国にリーフェルドがなったらええなと思います」

 真田の言葉を聞いたベルゲンは顎に手を当て暫し何かに思いを巡らせた。

「ふむ……自由に未来を……そうだな、民の願いが叶う様に、心地よく生きられる場所を作る事が国の存在する意義であるしな……後日、家長会議で提案してみよう」
「自由に未来をだとッ!? 愚民どもにそんな自由を与えれば、リーフェルドは直ぐに混沌の国になってしまうぞッ!!」
「ラハン……」

 健太郎のコブラツイストによる痛みで意識を失っていたラハンは意識を取り戻した直後、聞こえて来た父親の声に思わず声を上げた。

「他種族の誰も彼もがエルフの長寿と美しさを求めているッ!! 優勢種維持法がなければこの国は混血化によってどの種族の国か分からなくなるッ!!」
「……そうかもしれん、だがそれを決めるのは民、一人一人であるべきだ。恐らく現状で殆どの民は同族にパートナーを求めるだろう。ただ彼の様に他種族に求める者もいる筈だ。それは個人の選択で国がどうこう言う事では無い。そういう事だろう、フィー君?」
「さいですね。一緒に生きたい相手は自分で制限なく選びたい。わいが求めるのはそれだけですわ」
「愚かな、人族と結べばお前の子はよく生きて五百年で死ぬ、その子供がまた人と結べばもっと短い生を生きる事になるのだぞッ!!」

 目を見開きラハンは真田を睨む。

「店長ッ!! 怪我は無いですかッ!? てっ、店長?」

 観客の誘導を終えた様子のニーナが真田に駆け寄る。
 真田はそんなニーナの肩を抱き、ラハンに向けて爽やかな笑みを浮かべた。



「好いた人の子供、孫、ひ孫、玄孫まで見られるかもやねんで、わいはそっちの方がええ」
「子供って……気が早いです……」
「コホーッ」

 子供か……いいな……。

 ボンヤリとミラルダとの子供を想像してほんわかしていた健太郎とは逆に、ラハンはギリギリと歯を軋らせた。

「ググ……愚か者が……」
「ともかくラハン、それから今回の件に関わった者達には、法に照らし合わせ罪に見合った罰を受けてもらう。本来であれば守るべき民を危険に晒したのだ。重い処分を覚悟せよ。連れていけ」
「ハッ」
「クッ、いつか僕が正しかったと認める事になるッ!! その時後悔しても遅いぞッ!!」
「未来の事は未来の民が決める事だ、我々は現状で一番良いと思える物を選ぶ事しか出来んよ……」

 ベルゲンはそう呟き、兵に連行される息子を見送った。

 少し離れた場所でその様子を見ていたミラルダ達は、どうやら終わったようだとふぅと息を吐いた。

「まったく、最後までお騒がせな王子様だったねぇ」
「そうだな……しかし、今回も国の方針に関わる事態になってしまったな」
「ほんとだぜ。俺達はニーナの気持ちを真田に伝える手伝いをするだけだった筈なのによぉ」
「はぁ……次は何とかラーグの中で収まる仕事をしたいもんだ……久々にダンジョンにでも潜ってみるかねぇ……」
「ダンジョン……であるならトラスの物語に出て来た大魔導士の地下迷宮が見たいな」
「そりゃどんなダンジョンなんだ?」

 興味が湧いた様子のギャガンにグリゼルダは地下迷宮の説明を始める。



「大魔導士の地下迷宮は百年程前、ラーグ王国の地方領主の城の下に居を構えた、魔導士メルディスの作ったダンジョンだ。トラスの物語では小鬼ゴブリンから鬼人オーガ吸血鬼ヴァンパイアなど様々な魔物が徘徊する石造りの迷宮だそうだ」
「でも師匠達が潜ったんなら魔物は掃討されたんじゃ無いのかい?」

 そう言って首を捻ったミラルダにグリゼルダは説明を続ける。

「それが、トラスたちはリッチ化したメルディスを倒したんだが、メルディスの仕掛けた召喚魔法はダンジョンの形自体が召喚陣の役割を果たしていたようでな。現在も世界各地から警備兵として魔物を呼び込んでいるそうだ」
「なら迷宮をぶち壊しちまえばいいじゃねぇか?」

 ギャガンの問いにもグリゼルダはよどみなく答えた。

「迷宮を壊せば街が沈む、それに迷宮からは魔物の素材やメルディスが魔物に与えた武具や宝が現在も得られるらしい。それが街の大きな収入源にもなっているようで、領主も街の移転や迷宮の破壊は考えていないそうだ」
「よく知ってるねぇ」
「レベッカの文献を読んで気になっていたから、ギルドで調べた」

 グリゼルダがフンスと胸を張っていると、ベルゲン達と話を終えた健太郎がミラルダ達に駆け寄ってきた。

「コホーッ」

 表彰式は明日、仕切り直すみたいだよ。

「そうかい」
「コホーッ?」

 それで、みんなは何話してたの?

「次の仕事は何をしようかってさ。グリゼルダは魔導士が作ったダンジョンに潜りたいみたいだけど……」
「ダンジョンを一人で作り上げた魔導士だ。きっと私の知らない魔法が迷宮には施されている筈だ」
「俺は魔導士が魔物に与えた武具って奴が気になるぜ」
「コホー……」

 ダンジョンか……上手い具合に人助けの依頼があればいいけど……。

「人助け……まぁ、帰ったらクニエダさんに相談してみようか?」
「コホーッ……」

 そうだねッ、あッ……その前に壊した森の修繕をしないとだった……。

「森の修繕……ふぅ、何にしても取り敢えずはそいつを片付けてラーグに戻ってからだねぇ」
「ふむ、ラーグか……フィリスに将吾、それにファング達は上手くやっているだろうか……」
「……ちいと不安だな……」
「…………確かに……王様は一週間って言ってたけど、なるべく早く終わらせてラーグに戻るとしようか?」
「コホー……」

 だね……子供達が変な影響を受けてないといいんだけど……。



 健太郎の呟きにミラルダはガラの悪くなったトーマス達や、濃い化粧をしたシェラやミミを想像してしまい、森の修繕を急ごうと改めて気持ちを引き締めた。
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