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第五章 魔人の依頼と迷惑な姫

機動兵器トゥインクルスター☆彡

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 キュベルの従者であり魔人の国、エルダガンドの騎士であるグラハム・ローベルは王国議員のルドラ・ブルームフェルト子爵のいる議員会館を訪れていた。

 ブルームフェルトはキュベルが発案したゴーレム計画にも深く関わっていた。
 エルダガンドには埋蔵量が少ないブルーメタル、その希少金属を用いたゴーレムの量産。
 計画は頓挫したとグラハムも聞いてはいたが、試作機が作られていた事を思い出したのだ。



 グラハムもその稼働テストに立ち合い実際に搭乗もしてみたが、性能は今までのゴーレムと比べて桁違いに高く、魔力増幅装置を用いた長時間の飛行の他、強力な射撃攻撃が行え、近接戦闘、防御力等、恐らく今稼働しているどのゴーレムよりも強く、あれならドラゴンにも打ち勝てるはずだと思えた。

 議員会館の執務室に通されたグラハムはそんな事を考えながら、じりじりと焦りを感じつつブルームフェルトを待った。
 やがて三十分程してブルームフェルトが執務室に姿を見せる。

「すまんなグラハム。貴公も現場にいたから分かるだろうが、今は竜による王宮襲撃で私も手一杯でな。負傷者は多いが死者がいないのが幸いだった。王宮にいた貴族には負傷者はいないと聞いているが、勿論キュベル様も無事なのだろう?」

 そう言いながらデスクに座ったブルームフェルトにグラハムは言い難そうに重い口を開いた。

「それが……国王陛下や他の方にはまだ知らせていませんが、キュベル様は竜襲撃の混乱に乗じた賊に攫われました……」

「何だとッ!? そういった事が起きないように、貴公はあの方の側にいつも仕えているのでは無いのかッ!!」
「仰る通り、申し開きのしようもございません……この事が陛下に知れれば恐らく私は処刑されるでしょう……それはいいのです。ですがこのままキュベル様が攫われたままでは死んでも死にきれません」

 グラハムの苦し気な様子にブルームフェルトも少し冷静さを取り戻した。

「……ふむ、それで?」
「ぜひとも私自身の手でキュベル様を賊から奪還したいと、恥を忍んでお願いに参りました」
「私の所に来たという事は欲しいのは武器だろう? 何が必要だ?」
「ゴーレムの試作機をお借りしたい」

「あれか……分かっているとは思うがアレは反応速度向上の為、自律型ではなく有人機だ。つまり敗北は死を意味する……それでも良いと?」
「はい、陛下や子爵様、ひいては私自身の為、必ずキュベル様を王都へお連れいたします。どうかお聞き入れを」

 グラハムは床に膝を突き、深くブルームフェルトに首を垂れた。

「私も貴公同様、あの方を深く敬愛している。いいだろう、貸してやる」

 グラハムはデスクから書類を取り出すと、ペンを走らせそれをブルームフェルトに差し出した。

「試作機の場所は貴公も知っているだろうが郊外の三番格納庫だ。必ず陛下に知られる前に王宮へお連れするのだ。陛下は我々以上にキュベル様を愛しておられる、知ればきっと挙兵してでも連れ戻そうとなされるだろう。ロガエスト及びその同盟国から賠償請求が出ているこの時期に、出来るならそれは避けたい」
「畏まりました。必ずや王宮にお連れするとお約束致します」
「うむ、頼むぞ」
「はいッ!!」

 グラハムはブルームフェルトから書類を受け取ると、足早に執務室を後にした。
 彼を見送ったブルームフェルトは両手を組み、ふぅとため息を一つ吐く。

「まったく、面倒なお姫様だ……私はいま何と……」

 あれほど気持ちを揺さぶられたキュベルに対して、ブルームフェルトは今現在、急速に気持ちが冷め厄介だとしか感じていなかった。
 それが一体何故なのか、彼自身にも理解出来ず困惑がブルームフェルトの中に広がった。


■◇■◇■◇■


 ブルームフェルトから使用許可の書かれた書類を受け取ったグラハムは、その足で郊外にある三番格納庫へと飛んだ。
 格納庫の守備隊に書類を突き付け、とにかく急げと急かしながらゴーレムの下へ案内させる。



「このゴーレムならきっと……武装は?」

 機体を見上げグラハムは呟き、彼を案内した兵士に尋ねる。

「一応、毎日テストしているので、全て使える様にメンテはされていますが……」
「良し、いいぞ……」
「あの、王宮が竜に襲われたと聞きましたが、それと何か関係が……?」
「機密事項だ、とにかく緊急の要件だ、悪いが早速借り受ける」
「はぁ……了解です……おーい、ゴーレムを動かすから退避しろー!!」
「了解です!!」

 戸惑い気味の兵士が整備兵に退避を告げるのを横目に、グラハムはタラップを駆けあがりコックピットへと乗り込んだ。

 この世界におけるゴーレムは基本的に疑似人格を付与した魔法石を核に動く人造モンスターだ。
 だがそれでは間接的にしか動かす事が出来ず、どうしても行動がワンテンポ遅れてしまう。
 キュベルがそれを嫌った事でより高度な疑似人格の研究と並行して、魔人が乗り込み角を介して操作する機体が作られた。
 それが現在、グラハムが乗り込んだ試作機「トゥインクルスター☆彡(命名:キュベル・コーエン)」だ。

『キュベル様、貴女の騎士が今参ります。トゥインクルスター☆彡、グラハム・ローベル、出るぞッ!!』
「はぁ……お気をつけて」

 目的も何も説明されなかった兵達とかなりの温度差がある中、エルダガンドの技術の粋を集めた機体「トゥインクルスター☆彡」は北西の空へと向かい飛び立った。


■◇■◇■◇■


 金竜王の迷宮の最奥、神殿の敷地に作られた食堂で、仮面をつけた金髪の魔人が口に入れられた肉に舌鼓を打っていた。

「わぁ、これ美味しい。ミラルダ、貴女、お料理上手ねぇ。なんなら私専属のシェフとして雇ってあげてもいいよ」
「遠慮しとくよ。それよりまだ悪だくみを止める気は無いのかい?」
「ぶー、またそれ? 貴女だって綺麗な男の子達に愛を囁かれたいって、一度ぐらい考えた事あるでしょう?」
「はぁ……無いよそんな事」
「えー、ホントにぃ? すっごく楽しいんだから、貴女も体験すれば分かるよ」
「あたしゃいいよ。そういうのは一人いりゃ十分さ。ほら、野菜も食べな」



 ミラルダはそう言うとキュベルの口にニンジンを運ぶ。

「お野菜嫌い。さっきのお肉がいい。それより一人って誰? ギャガンって人? 乱暴そうだけどワイルドでちょっといいよね。それともバッツ? 声しか聴けてないけど、なかなか落ち着いた大人の雰囲気の人よね」
「はぁ……どっちでもないよ」
「まさか、あのミシマってロボットじゃないよね?」
「……そんな事よりちゃんと野菜も食べないと体が弱くなるよ」
「えっ、えっ、ホントにミシマなのッ!?」
「うっ、うるさいだねぇ! ほら食べなッ!」

 顔を赤らめたミラルダは、キュベルの口にスプーンを突っ込む。

「むぐっ……にんじんは嫌いだよぉ」
「吐き出しちゃ駄目だよ。肉ばっかじゃ体に悪いんだからッ!」
「うぅ……分かってるよぉ……」
「ふぅ……ホント、体は大きいのに、子供みたいなだねぇ……」

 ミラルダはしょうがないねぇと微笑みを浮かべる。
 そんな二人を遠巻きで見ながら、別のテーブルで食事をしていたギャガンが囁く。

「なぁ、いつまでこんな事してんだ?」
「仕方ないだろう。ミラルダとミシマが制約魔法の使用に納得しないのだから。それに派兵された兵達の事もある。キュベルの力は事を穏便に済ませるには確かに有効だ」

 現在、エルダガンドから迷宮に派兵された正規兵達にはラーグ国内で待機してもらっていた。
 既に竜に挑み倒された者も多かった為、残っていたのはオーグルが話していた五百名から減り三百名程。
 襲撃作戦に参加した彼らには、キュベルに策を取り下げて貰う事で穏便に帰国出来る様、彼女を説得中だと伝えてあった。

「コホーッ」

 すまんなギャガン、でもバッツ達、兵士達の事もあるし、キュベルに考えを変えて貰うのが一番いいと思うんだ。

「何言ってんのか相変わらず分かんねぇが、どうせ誰も死なないようにとかだろ……まったく、俺は冒険者ってのはもっと暴れられるもんかと思ってたぜ」
「お前は狩りで十分暴れているだろう。それに案外、あれは有効かもしれん」
「あ? あれがか?」
「ああ、キュベルはかなりミラルダに懐いているからな。近い内、説得も成功するんじゃないか?」

 グリゼルダにそう言われたギャガンがミラルダ達に目をやると、ミラルダはキュベルの口元をハンカチで拭いてやっていた。

「よくまぁ、あんなに甲斐甲斐しく世話が出来るもんだぜ」
「コホー」

 ミラルダは面倒見がいいからな。

 そう言うと健太郎けんたろうはカシャンとフェイスガードを開け金の歯を覗かせた。

「本当にお前らは仲がいいな」
「コホーッ?」

 苦笑を浮かべたグリゼルダに健太郎はえへへ、そうかなぁ?とポリポリと頭を掻いた。
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