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第四章 獣人と魔人

作戦会議

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 宰相のジャルガは捕らえられ、彼が密かに進めていたロガエストを魔人の国エルダガンドに売り渡す計画は明るみに出た。
 だが、計画が分かってもその対処の方法に国王ランザは頭を悩ませていた。
 砂竜さりゅうの襲撃は規則性に乏しく、更に常に遊牧を続ける町を恒常的に守れる兵力はロガエストには無かったし、砂竜が砂漠という天然の要害に守られていたからだ。

「やっぱり、こっちから相手の本拠地に乗り込むしか手は無さそうだねぇ」
「我々の本拠地はロガエストの中心、グリア砂漠の真ん中だ。そこは砂竜の巣でもある。軍隊を送っても餌にされるだけだぞ」



 王の執務室のテーブルに置かれた地図に目を落としながら、ソファーに座った赤い髪の半獣人と褐色の肌の魔人族が顔を突き合わせて話していた。
 半獣人の横には青いゴーレム、魔人族の横には黒豹の獣人。その隣で犬人族の若者二人が居心地悪そうに座っている。
 ちなみに黒豹の獣人ギャガンは自らの罪を認め、情報を吐き出した事で極刑では無く国外追放という扱いとなった。
 更に、彼の部下である隊員達はギャガンの指示に従っただけという形になり、一ヶ月の自宅謹慎という軽い処罰ですんでいた。

「ねぇ隊長、なんでこんな事になってるんです?」
「全部、ミシマ達の所為だ。砂竜とどうにかするには二人が必要だと陛下を説得してな……」

 先程まで回復の為に眠っていたミハイに、ステフがミシマとミラルダを鼻先で指し示しながらぼそりと呟く。
 そんな二人の前でソファーの背に腕を回し、足を組んだギャガンが口を開く。

「餌にされるだけってのは俺も同感だ。軍隊が水も食料もねぇ砂漠を行くには、足の遅い大型の砂上船で大量に物資を運ぶ必要がある。狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」
「そうですね。ですから我々も砂竜に手が出せずにいたのです」

 ギャガンの言葉に一人用のソファーに腰かけたランザも同意した。

「だよな」

 ギャガンはランザにニヒルな笑みを浮かべながら頷く。
 そんな二人の話を聞きながら健太郎けんたろうは浮かんだ疑問をミラルダに伝えた。

「コホー?」

 そういえば魔人族はどうやって砂竜を操っていたんだろ?

「ん? どうやってかい?……ねぇ、グリゼルダ、魔人族は何で砂竜を操れるんだい?」
「角だ。この角は周囲の魔力の流れを感知出来るだけでなく、動物等の知能の余り高くない生き物を使役出来る。それを利用して砂竜を操っていた」
「コホーッ?」

 じゃあ移動中に襲われてもグリゼルダに操って貰えば?

「グリゼルダ、別の魔人族が操っている砂竜をどうにか出来るかい?」
「私より力の弱い相手なら可能だが……」
「フンッ、上が出てくりゃどうにも出来ねぇってか」
「何故、貴様はいつもかんに障る言い方をするのだッ!?」
「へッ、俺はずっとこれでやって来たんだ。いまさら変えるつもりはねぇ」
「コホー……」

 ギャガンは何でこう尊大なのか……王様にも宰相のジャルガにもため口だったし……。

「確かにねぇ……ギャガン、あんた実は結構偉い人なのかい?」

 健太郎のジェスチャーを読み取ったミラルダが代わりにギャガンに尋ねると、彼の代わりにランザがその疑問に答えてくれた。

「ギャガンの家は代々優秀な武人を輩出した名家ですよ。何代か前には王になった者もいたと記憶しています」
「へぇ……あんたみたいのが王様だったら家臣は大変だったろうねぇ」

「あ? テメェ殺されてぇのか?」
「あんたと同じで率直な感想を言ったまでだよ」
「チッ、生意気な半獣だぜ……」

「……しかしどうするかねぇ……ミシマ、あんた、こうもっと大きい異界の乗り物に変形出来ないかい?」
「コホーッ?」

 もっと大きな? ……そうだなあ……砂漠を走れるもっと大きくて荷物も積める……。
 そういえば確か砂漠を走るレースとかあったなぁ、アレにはバイクやSUVの他にトラックとかも参加していた筈……。
 トラックかぁ……。



 健太郎がボンヤリと宙を眺め砂煙を上げて爆走するトラックを想像していると、カシャカシャと音が響き、次いでミラルダの叫びが健太郎の耳に飛び込んで来た。

「ミッ、ミシマ!?」
「何だこりゃ!?」
「やっ、やはり貴様はゴーレムとは違う!! 普通のゴーレムはこんな変形など出来んッ!?」
「ああ、歴代の王が座った椅子がッ!?」
「ドンドン大きくなるぞッ!?」
「たっ、陛下、退避を!!」

 ステフの声で一行は慌てて執務室から退避、廊下から変形する健太郎を見守る。
 バキバキと執務室を破壊しながら健太郎の体は変形を続け、やがてそれはワンボックスタイプの大型トラックへと形を変えた。

「ブルンッ……」

 今度はトラックか……はぁ……トラン○フォーマーじゃないんだから……。

「変形出来ないかとは聞いたけど、こんなトコで変形するんじゃ無いよッ!! 王様の部屋が滅茶苦茶じゃないかッ!?」
「ブルブルブル……」

 ごめんよミラルダ、でも変形は途中で止めるとか出来ないみたいなんだ。

「ギャハハッ!! スゲェじゃねぇかゴーレムッ!!」
「笑いごとではありませんッ!! この部屋にある物は歴代の王が使い、次の王にも受け継がれていくのですよッ!!」
「別にいいじゃねぇか、何でもいつかは壊れるんだからよぉ。それよりゴーレム、それは中に乗れるのかッ!?」

「ブルブルブル……」

 えー、多分乗れるとは思うけど……。

 ギャガンの言葉に反応し健太郎がドアの事をチラリと思い浮かべると、それに反応してかガチャリと運転席と助手席のドアが開いた。

「へへッ、一番乗りだぜッ!!」
「ムッ、ズルいぞッ」

 ギャガンが素早く運転席に乗り込み、続いて彼に対抗心を燃やしたグリゼルダが助手席に座る。

「あんたら、ここは王様の部屋だよッ!? 一旦降りるんだッ!!」
「知るかよッ、オラ、ゴーレム、早く動けよッ!!」
「おお、なんだこの椅子は……フカフカで包み込まれるようだ……」
「ブルン、ブルブル……」

 いや、乗られると人型に戻れないんだが……。

「チッ、何、グズグズやってんだッ!! サッサと動け……こいつかッ!?」
「ブッ、ブル!? ブルブルブルブルッ!?」

 あっ、何だッ!? かっ、体が勝手にッ!?

 ギャガンがハンドルを握り、適当にペダルを踏むと健太郎の体は彼の意思に反して前進を始めた。

「ああ、そのタペストリーは国の歴史が描かれたッ!?」
「ミッ、ミシマ、止まるんだよッ!!」
「ブルブルブルブル!!」

 俺にも止められないんだよぉッ!! ギャガン、止めるんだッ!!

「へへッ、こんな面白れぇもんがこの世にあるたぁなぁ……」
「ギャガン、お前ばかりズルいぞッ!! 私にもやらせろッ!!」
「あ? やりたきゃ俺を倒して席を奪うんだなぁ!! オラッ!!」

 そう言うとギャガンは更にアクセルペダルを踏み込む。

「ブルンッ!!」

 アッ、そこ、そんなに強く踏まないでッ!! ああ、かっ、勝手に体が動いちゃう!!

 バキバキと部屋を仕切る壁を破壊しながら、健太郎が変化したトラックは王宮の天幕から飛び出した。
 残されたのは茫然と走り去った健太郎を見送ったミラルダ、踏まれてタイヤの跡の付いたタペストリーを抱え、ハラハラと涙を流すランザ、そしてハハハッと渇いた笑いを漏らすステフとミハイだった。
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