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第四章 獣人と魔人

新しい仲間

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 岩の大地に転がった黒豹の獣人ギャガン。
 彼は意識を取り戻した時、何が起きたのか理解出来ず茫然と流れる雲を見ていた。
 やがて自分が青いゴーレムに完全に敗北したのだと悟り、ガバリッと身を起こす。

 視界の先には緑色に輝く目がこちらにじっと視線を送っている。

「……何で殺さねぇ?」
「コホーッ」
「何言ってんのか分かんねぇよ……チッ、おい半獣女ッ!!」

 ギャガンの声でミラルダがピョコッと馬車の荷台から顔を見せた。

「……」
「このゴーレムが何って言ってんのか教えろ」
「直接喋っていいのかい?」
「面倒な話を蒸し返すな! サッサとしろ!」
「負けた癖に偉そうな奴だねぇ」

 ミラルダはそうぼやきつつ馬車を降りると、健太郎けんたろうに歩み寄り手で口元を隠し囁きかける。

「ねぇ、ミシマ、この黒豹はなんで裸なんだい?」



「コホー……」

 殴ったら拳が光って……気づいたら鎧も服も弾け飛んでた。

「拳が光るねぇ……」

 ミラルダは健太郎の右手にチラリと目をやると、やれやれと肩を竦めた。

「おい、コソコソ話してねぇで質問に答えろ。何で俺を殺さなかった?」
「コホー」
「ふんふん……悪い奴でも殺すと後味が悪いから、だってさ」

「チッ……んな下らねぇ理由かよ……んで、俺をどうする気だ? まさかこのまま無罪放免じゃねぇよなぁ?」
「コホーッ」
「なになに……何で自分達殺そうとしたのか? だって……これ結構面倒だね」
「コホー」

 分かってくれたかミラルダ。俺も君とレベッカ婆さんとの橋渡しは疲れたよ。

「あん時ぁ悪かったよ……」
「余計な事、喋んじゃねぇよ……何で殺そうとしたか……言った通り、宰相の命令だ」
「……じゃあ、何で宰相は殺そうとしたんだい?」
「宰相は魔人族の国、エルダガンドと繋がってる。砂竜が暴れてるのもその一環だ」
「そんな宰相様が……?」

 声に視線を向けると、馬車から降りたステフが目を丸くして尻尾をピンと立てていた。
 そのステフの後ろにはグリゼルダが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ている。

「グリゼルダ。今の話は本当かい?」
「……」
「言ってやれよ。ジャルガは国を売るつもりだってよ」
「貴様……」

 ギリッと歯を噛みしめたグリゼルダの反応を見るに真実なのだろう。

「コホー?」
「……なんであんたはそんな簡単に情報を教えてくれるのか? だって」

 健太郎の疑問にギャガンは牙を噛みしめ悔しそうに答えた。

「俺は剣には絶対の自信があった……だがそのゴーレムは俺の渾身の一撃を剣ごと砕きやがった……ジャルガにはエルダガンドにそれなりの地位を用意すると言われていたが、正直、そんな事どうでも良くなった」
「えっと……つまりどういう事だい?」
「俺はそのゴーレムに付いて行く事に決めた。いつか俺の剣で真っ二つにする為になぁ……情報はその為の前金みたいなもんだ」
「コホー……」

 えー、真っ二つとか言ってる人と一緒にいたくないんですけどぉ……。

「ついて来るって、あたしらはラーグの冒険者だよ。知っての通りラーグじゃ獣人が嫌われてて……」
「知った事か、駄目だと言っても勝手について行くだけだ」
「コホー……」

 はぁ……面倒な事になったなぁ。でもあいつ諦めそうにないしなぁ……しょうがないか……キューといい黒豹といい、なんで俺に危害を加えようとする奴ばかりが仲間になるんだ……。

「コホー……」
「受け入れるんだね? ……しかし、なんだかおかしな事になったねぇ……そうだ、グリゼルダ、あんたはどうすんだい?」
「どうするとは?」
「国に帰っても処罰されんだろ? どこかの国に逃げるのかい?」
「…………暗部として動いていた私に行く場所など……」

 解放しろと言ったグリゼルダだったが、その先の展望を持っていた訳では無かった。
 仲間の下へ戻った所で情報を漏らしたと疑われ処分されるのが落ちだ。
 だからといって組織の庇護の下、活動して来たグリゼルダに組織以外の伝手は無く……。

「じゃあ、あんたも一緒に来るかい?」
「貴様らと?」
「黒豹も無理矢理ついて来るみたいだし、一人も二人も変わんないよ。その代わり二人とも砂竜を追い払うのに協力しておくれ」
「コホーッ」

 だな。グリゼルダの情報があれば対処法も見つかるだろうし、黒幕のジャルガの事を王様に伝えればロガエストの協力も得られるかも、そうなれば村の女の人を返してってのも頼みやすい。

「うん、ミシマの言う通りだねッ!」

 ニコニコと笑ったミラルダに二人に歩み寄ったステフが困惑気味に問い掛ける。

「ミラルダ、俺達にはその……ミシマの言っている事が皆目わからんのだが……」
「そうだぞ、半獣女、きちんと通訳しろ」
「まったくだ。何故、身振り手振りだけでそこまで正確に読み取れるのだ?」

 ギャガンの言葉にグリゼルダも同調する。

「いや、慣れというか、勘というか……」
「フンッ、どうせそのゴーレムに夜の相手でもさせているのだろう?」
「何、貴様らそういう関係なのかッ!?」

 ギャガンとグリゼルダの言葉をミラルダは顔を真っ赤に染めて否定した。

「ち、違うよッ!! ミッ、ミシマはパーティを組んでる大事な仲間ってだけで……」
「何を本気になっている、冗談に決まっているだろう?」
「ムッ、そうなのか?」
「かっ、揶揄うんじゃ無いよッ!!」

「コホーッ……」

 何だろうかこの状況は……。
 そう言ってため息を吐いた健太郎と同様にステフも同様この状況に困惑しているようだ。

「ともかく、首尾を決めよう。半獣女、お前が意見を取りまとめろ」
「ミラルダだよ……ふぅ、グリゼルダも協力するって事でいいんだね?」
「……私は……」

 振り返り尋ねたミラルダにグリゼルダは目を伏せ口ごもる。
 そんな彼女に健太郎は歩み寄り手を取った。

「コホー?」

 行く場所が無いんだろ? なら一緒に来なよ。

「なっ、何だッ!? 引っ張るな」

 健太郎はグリゼルダの姿に、かつて家を失ったばかりの自分を重ねていた。
 どうしていいのか分からず、毛布を詰め込んだ旅行鞄を抱えた健太郎の手をそのホームレスの男は握り、公園へと導いてくれた。
 色々あったが彼のおかげでともかく生き延びる事が出来た。
 今度は自分の番だ。グリゼルダの手を引きながらその時の健太郎はそんな事を思っていた。

 その様子を呆然と見ていたステフは、ギャガンの傍に座り今後の予定を話し始めた四人を見て慌てて駆け寄った。
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