紺碧のミシマ ～ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる～ Vol.1

第三章 ヤクザな伯爵と冒険者

プランB

　バイクにその身を変形させた健太郎けんたろうにフィリスと将吾は戸惑いの声を上げる。

「何なのよ……一体何なのよソレッ！？」
「クソッ、あんなに走り回られちゃあ近づけねぇッ！！」

　テレビドラマ等で見かける、暴走族に絡まれた人達の様に将吾とフィリスは、自分達の周囲を回る健太郎達をキョロキョロと首を回し追う。

「魔力よ、我が敵に見えざる一撃を、衝撃フォースッ！！」

　走り回る健太郎の上からミラルダが魔法を放つ。
　魔力の弾が将吾を襲い、彼は剣を叩き付け何とかそれを凌いだ。

「チッ、あいつ等走りながら攻撃を……フィリス、障壁を張れッ！！」
「わっ、分かったわッ！　万能なる魔の力よ、苦難を退ける壁となれ、障壁シールドッ！！」

　フィリスの張った白く淡い光を放つ直径三メートル程の半円形の壁は、ミラルダが再度放った魔力の衝撃波を間一髪で弾いた。

「ふぅ、サンキュー、フィリス」
「それはいいんだけど……どうするの将吾？」

　珍しく不安げな表情を見せたフィリスに、将吾はニヤッと笑みを返す。

「手はある、フィリス、俺が囮になってあいつをひきつけるから、お前はもう一度、重力魔法を」
「でも、重力魔法でもあのゴーレムは……」
「狙うのは獣女だ。あいつをバイクから引きずり降ろしてつかまえりゃ、ゴーレムはもう何も出来ねぇ」
「分かったよッ！」

　将吾が障壁から走り出ると健太郎は彼にターゲットを移した。
　近接戦闘に特化した将吾を沈黙させれば、ミラルダに危険が及ぶ事は無いと考えたのだ。

「パラリラパラリラッ！！」

　ミラルダ、まずは将吾をッ！！

「将吾を狙うんだね！？　了解だよッ！！」

　練習したおかげで場内を爆走する健太郎に乗っていても、ミラルダは危なげなくバランスを取り呪文を詠唱していく。
　このバランス感覚は彼女の出自、獣人の血による物かもしれない。

「衝撃フォースッ！！」
「またそれかよッ！　舐めやがって！！」

　魔力の弾丸である衝撃フォースは見え辛いとはいえ、空間の歪みとして視認出来る。ましてや加速というチートスキルを持つ将吾にとって捌く事は難しく無かった。
　他の魔法を使えば将吾を倒す事は出来るだろうが、それは彼に深く傷付け殺してしまう可能性があった。
　健太郎もミラルダも二人を殺す気は無かった為、あえて殺傷力の低い衝撃を選択したのだ。

　そんな風に将吾を追っていた健太郎とミラルダだったが、健太郎がターンの為に減速した瞬間、彼の背に乗っていたミラルダが苦痛の呻きを上げた。

「ブイィィィン！？」

　ミラルダッ！？

「クッ……体が……重い……」

　そう言うと彼女は変形した健太郎の上で突っ伏し、魔法の触媒である杖を取り落とした。

「よくやったフィリスッ！！　後は馬を止めりゃあ俺達の勝ちだ！！」
「フフッ、ようやく生意気な半獣人に引導を渡せるわ」

「パラリラパラリラッ！！」

　クソ、こいつら……仕方ない、プランBだ！！　ミラルダ、しっかり掴ってろッ！！

　健太郎はブォンブォンッと二度エンジン音を響かせ、ミラルダに合図を送った。
　その合図を聞いたミラルダは、ゆっくりとではあるが、フロントフォークから突き出たハンドルを握る。

　健太郎とミラルダは基本、魔法によるヒットアンドアウェイ攻撃で将吾たちを無力化しようと考えていた。
　しかし、相手はスキル持ちの転移者と一流と評判の魔法使いだ。どんな番狂わせが起きても不思議では無い。
　そこで、何か起きた時の対抗手段として別の攻撃方法を用意していた。

　出来ればこの技は使いたく無かったが……。

「ミシマ……お願いだよ……なるべく……手加減してやって……おくれ……」
「ブイィィィン！！」

　分かっている、任せてくれッ！！

　健太郎はエキゾーストノイズでミラルダに応えると、彼女を乗せたまま将吾に向かいタイヤを軋らせた。

「あ？　唯の突進なんぞに当たるかよッ！！」
『唯の突進じゃないさッ！！！！』
「グオッ！？」

　健太郎が変形したバイクで言えば燃料タンクから、左右にスピーカーの様な物がいつの間にか突き出ていた。
　そのスピーカーから発生した、大音量の音の波が将吾の鼓膜を直撃し彼の動きを一瞬止めた。

『これで終わりだッ！！！！』
「パーパーパーパパパパパーパーパーパーパー！！！！」

　叫びと共に有名なギャング映画のテーマを響かせながら健太郎は将吾の体を翳める様に走り、ハンドルを引っかけはね飛ばした。
　その一撃は将吾の体を浮かせると同時に彼の体に横回転を加える。

「ブルルルァアアアアアッ！？」
「将吾ッ！！」

　健太郎の突進の勢いのまま、スケート選手の様に凄まじい速さで回転しながら宙を舞った将吾は、闘技場の大地にシュタッと華麗に着地した後、ふらつき四つん這いになると、盛大に嘔吐し自分の吐しゃ物の上にベチャッと音を立て倒れ動かなくなった。

「……嘘……将吾……」
「パラリラパラリラッ！！」

『次はあんただ、フィリス！！！！』

　リアタイヤを滑らせながら停止した健太郎のヘッドライト部分に据えられた緑色のカメラアイが光を放つ。

「いやぁ……ゲロはいやぁあああッ！！」
「ブイィィィン！！　パーパーパーパパパパパーパーパーパーパー！！！！」

　エキゾーストノイズと映画のテーマが闘技場に響き、その直後、「プギャアアアアッ！！」というフィリスの悲鳴が闘技場に木霊した。
　闘技場の地面に落下し、転がりながら吐しゃ物を撒き散らしたフィリスの姿に観客全員がどん引きし、客席は沈黙に包まれたという。