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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

昆布とタコと健太郎

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 蜥蜴人リザードマンに囲まれ銛を突き付けられたミラルダ達を、宇宙戦艦モードの健太郎けんたろうはジリジリしながら見守った。
 ここで自分が何かすれば蜥蜴人達はミラルダ達に銛を突き刺すかもしれない。
 それを考えれば下手に動く事は出来なかったのだ。

 やがて彼らの一人が連れて来たこげ茶色の鱗を持つ蜥蜴人がミラルダの手を取った事で、健太郎は自分でも意識しない内に人型モードへ変形、背中のスラスターから推進剤を吹き出し一気にミラルダの下へと飛んだ。

「コホーッ!!」

 ミラルダに何する気だッ!!

「あ、あの巨体が一瞬で人にッ!?」
「プシーッ!?」
「シャシャッ!!」

 宇宙戦艦から人型に変形した健太郎を見て、こげ茶色の鱗の蜥蜴人、ノッフリの他、周囲の蜥蜴人からもどよめきが上がる。

「ミシマ!? 止めるんだッ!! この人は何か頼みが……」
「コッ、コホーッ!?」

 えっ、そっ、そうなのッ!? クッ、上がれぇッ!!

 ノッフリを弾き飛ばそうとしていた健太郎は、ミラルダの制止を聞いて体を反らし何とか軌道を変える。

「コホー……コホーッ!?」

 ふぅ……危なかったぜ……あっ!?

 ホッとため息を吐いた健太郎だったが、スラスターダッシュの勢いは消えておらず、ミラルダ達、仲間とそれを取り囲んでいた蜥蜴人の上を飛び越え、浜辺の奥に生えていたヤシの林に突っ込み、木に弾かれて再び海に飛ばされた。



「コホーーーーッ………………」

 わああぁぁぁぁ………………。

 ジャプン。

「はぁ……何やってんだい……」

 ヤシの木の反動で飛ばされ海に落ちた健太郎を見て、ミラルダは顔に右手を当てため息を吐きつつ首を振った。

「アレが君達の仲間……確かミシマだったか?」
「ああ、ミシマは異界人で体も異界のゴーレムなんだ」
「先程、見た通り、色んな物に変形出来る」

 ミラルダの説明をグリゼルダが引き継ぐ。

「さっきは多分だけど、あんたがあたしの手を握ったから、なんかされるって勘違いしたんだと思うよ」
「そうか……すまん、島の大事にかつてこの島を救ったトラス様と同じラーグの冒険者が現れた……運命だと年甲斐もなく興奮してな」
「島の大事……何が起きているんだい?」
「聞いてもらえるのか?」

 困り事があるらしいと知ったイレーネが割り込み、微笑みを浮かべてノッフリに話しかける。

「ええ、勿論!! その代わり、ンネグラ族の族長と面会を……」

 そのイレーネの前にミラルダはスッと左腕を持ち上げた。

「何よ? 困り事を解消して族長に許可を貰うんでしょう?」
「その前にこの人達が何に困っているのか聞いて、それを解決する方が先だよ」
「何でよ? その後、どうせ頼むんなら交換条件にした方がいいじゃないッ?」
「会わせてくれる、くれないに関わらず困り事は解決する。その上で頼んでみてダメなら別の方法を考えるさ……この人達にも都合ってもんがあるだろうしねぇ」

 ミラルダがそう言って笑うとイレーネは不満そうに眉根を寄せた。

「まどろっこしいわね……あなた達はそれでいいの?」

 イレーネはギャガン達を振り返り尋ねる。

「ミラルダがお人好しなのは最初っからだ。そのお人好しで私はここにいるからな」
「だな。ミシマとミラルダに付き合うなら、この程度の事は折りこみ済みだぜ」
「確かにね。迷宮でもメルディスの願いを叶えたりしたし……」
「……非効率だわ」

 呆れかえったイレーネが首を振っていると、ザバザバと音を立てて健太郎が海から上がって来た。



 その首には昆布が巻き付き、頭には何故かタコが乗っている。

「コホー……」

 ふぅ……ひどい目にあったぜ。

「ミシマ、大丈夫かい? って、なんだいその頭の奴は……?」

 健太郎に駆け寄ったミラルダは、健太郎の頭にへばり付くタコにを見て顔を顰めた。
 ノッフリのミラルダへの対応と、巨大戦艦から人サイズになった健太郎を警戒したのか、蜥蜴人達は包囲を解き、遠巻きにミラルダと健太郎を眺めている。

「コホー……」

 何故だか知らないけど、何度はがしても頭にくっついて来て……もしかしてコイツも竜と同じで俺に美味そうな匂いを感じてるのかも……。

「美味しそうな匂いねぇ……ふぅ……とにかく、その頭のは海に帰して、ノッフリさんの話を聞こうじゃないか」
「コホー……コホーッ!!」

 分かった。ほら、海にお帰り……ってしつこいな君ッ!! いい加減にしないといくら俺でも怒るよッ!!

 健太郎はそう言いながら頭にへばり付いたタコを引き剥がそうとするが、体表のぬめりで滑る事とタコが必死でしがみ付いている事で引き剥がせない。

「……コホー?」

 ……すまん、ミラルダ。コイツ取ってくれる?

「えっ、そいつをかい……?」

 ラーグには海が無い為、当然、ミラルダもタコを見た事が無い。
 ウネウネと足をうごめかせるその姿は、彼女にはとてもグロテスクに見えていた。

「ええっと……ギャガン、こいつをミシマから引き剥がしてくれないかねぇ」
「ああん? ……そんな気味の悪いもん触りたくねぇ」
「グリゼルダは……」
「ミシマが引っ張っても剥せない物を私が剥せる訳ないだろう?」
「パムは……」
「やってもいいけど、グリゼルダと同じで無理だと思うよ」

 ミラルダはイレーネに目をやったが、彼女は引きつった顔でフルフルと首を振っていた。
 そんな一行を見かねたのか、青い鱗の蜥蜴人がスタスタと健太郎に近づき、プシュと鼻を鳴らして健太郎の頭にへばり付いたタコを一瞬で引き剥がした。

「コッ、コホーッ」

 あっ、ありがとう。

「プシュシュ、シャアアアア」
「それは今夜の夕食にするそうだ」
「えっ、コイツを食べるのかい!?」
「プシュシュッ、トラス様の仲間も同じ様に驚いていたよ……心配ない、トラス様もお仲間も全員美味いと食べていた。ラーグの民の口にも合う筈だ」

 青い鱗の蜥蜴人、オミノミの言葉を通訳したノッフリはミラルダの反応を見て楽しそうに笑った。

「プシュプシュ、プシャーッ」
「シャアシャア、プシュ」
「取り敢えず、村に行って腰を落ち着けて話すとしよう。老いた身で立ち話は辛いでな」

 ノッフリはオミノミに何事が伝え、そう言って一行を村へといざなった。
 他の蜥蜴人も銛を肩に担ぎ、村へ続く道へと歩みを進めている。
 どうやら健太郎の間の抜けた姿に蜥蜴人達は警戒を解いたようだ。

「コホーッ!!」

 へへッ、結果オーライだぜッ!!

 そんな蜥蜴人たちの姿を見た健太郎がギュッと親指を立てた手を突き出すと、ミラルダ達はやれやれと苦笑を浮かべたのだった。
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