上 下
35 / 132
放浪開始・ブドパス編

34.エルフと再会したよ

しおりを挟む
「さてと、それじゃ俺たちも市内に出てみるか」
「はい! ええと、確かマルゲア島から対岸へはバスと船が出てますね……どっちにしますか?」
「そうだな……船にしよう。確か船の近くにトラムの停留所があったよね」

 バスは何だかんだでエステルで乗ってたしな……それにエステルには国境以外で船で渡るような川がなかったし、スローヴォとの国境は橋でつながってて船は禁止だった。そもそも俺はスローヴォに行ったこともなかったけど。
 そんなわけで船には興味がある。すごく興味がある。

「……ふふふ」
「エリナさん? どうかした?」
「いえ、何かトーゴさんもそんな表情するんだなって思ったら何か可愛くて」
「……そんな変な顔してた?」
「変じゃないですけど、何か無邪気な感じで」

 いかん、年甲斐もなく興奮してたか……いや、でも転生後に年甲斐っていうのも何かおかしい話……ではなく。

「とにかく、時間もそんなにないし船着き場に行こう」
「あ、待ってください。船は西河岸行きと東河岸行きに分かれているみたいです。市内中心部へ行くには東河岸行きの船に乗る必要があるので、そちらに行きましょう」
「むしろエリナさんそれよく分かったね?」
「あそこに案内板がありましたし。ジェルマ語でも簡単に書いてあったので、私でも読めたんです」

 言われてその看板を見ると、なるほど、確かにそんな風に書いてある。前世でも看板に英語が併記されていたけど、あんな感覚なんだろうかな? 距離は……ここから大体400メートルってところか。

「なるほど、それじゃ行こうか」
「はい!」

 さっきも言ったけど、このブドパスという街はぱっと見でもエステルと全然違う。これはいろいろ期待が持てそうだ。



 船……というか水上バスに乗って市内に入った俺たちは、取り敢えず総合職ギルドに向かっていた。少し遅くブドパスに入った上に、検問の待機列でサンドイッチを食べたきりで物足りなさを感じていたので、何か軽く食べられないかな……なんて思ったからなんだけど。
 ちなみに船は片道60フィラー……10フィラーが1穴あき銅だって話だから、大体日本円にすると300円程度か。しかも夜遅くには運航していないらしく、帰りはトラムに乗ってキャンピングカーまで帰らなきゃならない。

 それにしても――

「本当に大きな街ですね、ブドパス」
「うん、エステルと比べるととんでもない大都会だねコレ……俺たち完全にお上りさんになってるよ」
「まあ実際私の場合はヘルシンキと比べてしまいますから、完全なお上りさんほどの衝撃は……って、考えたらトーゴさんだって東京を知ってるじゃないですか」
「……まあ、確かにそうなんだけどね」

 正直ここで意識的に前世と比べるのはいかんと思います。まあ知らず知らずにって言うんだったらしょうがないところあるけど。

「それよりも俺はここの物価水準がエステルより高いんじゃないのかって疑ってるよ」
「ああ……観光地とか主要都市が地方より物価高いのはよくある光景ですからね……」

 そう考えると宿もエステルより高い、のはほぼ間違いないのかな……改めてあの車作っといてよかった……

「って、あれ? あそこに駐車してあるの、もしかしてさっきの……確かレニさんの魔動車じゃないですか?」
「え?」

 エリナさんが指さした方を見ると、確かに見覚えのある魔動車が停まっていた。街ゆく魔動車を色々見てみても、ここまで小さい軽トラ的な魔動車はなかったからまず間違いないだろう。
 けど荷台の幌は取り払われていて、中にあったはずの茶檀もない。あんな目立つのをこんな街中で盗むなんてこともあり得ないだろうから……ということは、目の前にあるこのデカい建物がレニさんも言ってたマイルズ商会なんだろうか。

「それにしても検問のヨハンさん、マイルズ商会について何か言いたげだったけどアレ何だったんだろう」
「ああ、直接納入先の商会ですよね。でも考えたら木工ギルドがあるのに通さないで商売するなんて変じゃないですか?」
「うん、それは確かに気になるんだけど……」
「それにレニさんがこの街に来たことがないってのももっと気になります。つまり今までは商会の人がレニさんのところに行って買いつけて来てたってことじゃないですか。それが何で……」
「ああ、確かにそれはその通りだね」

 もっとも商会の人が買い付けてたのか、単に茶檀の噂を聞いて呼んだのか……茶檀はこの世界では高級木材らしいから、何かあるのかもしれない。
 ……よし。

「ちょっと覗いてみる?」
「覗く、って……もしかして商会の中をですか? そんなことしたら思いっきり不審者ですよ!」
「んー、じゃあ聞き耳立てるくらいで」
「聞き耳……んー、それならまあ……」

 いいのかよ。っていうかまあ、玄関のドアも分厚そうだし外で聞き耳立てたくらいじゃ中の会話なんか聞こえてこないと思うけどね……あ、もしかしてそれが理由か? ということは聞き耳立てるって言っても表に立ってるだけデスヨーみたいな面を……
 あ、やっぱり! ……まあいいか、俺も気にはなるけど積極的に関わろうとは思わないし……
 なんて思ってたら、突然玄関のドアが開いて噂のレニさんが出てきた。

「あれ……あなたたちは確か検問のところで……」
「あ、やあ。偶然ですね。レニ=ドルールさん?」
「レニでいいですよ、あまりフルネームで呼ばれるの慣れてないですし。確かマルゲア島の駐車場にいたと思ったんですけど、どうしてここに?」
「軽く夕飯を食べに行こうかと、取り敢えずで総合職ギルドに向かってるところなんですよ……って、エリナさんどうしたの」
「あの、レニさんの言ってることが分からなくて会話に入っていけないんですけど……」

 ああ、そういえばレニさんの喋ってるのは高地マジェリア語だったっけ。こっちの言葉はジェルマ語しか話せないエリナさんにはちょっときついか……

「すいませんレニさん、エリナさんが分からないからジェルマ語で話して……って、確かレニさんもジェルマ語話せませんでしたよね」
「ジェルマ語は……音がイガイガしてて苦手です……」
「……しょうがない。レニさんとエリナさんの言葉は俺が翻訳しますよ。ちょっとテンポ悪くなるけど……エリナさんもそれでいい?」
「はい、お願いします。ごめんなさい、私が言葉をちゃんと勉強していないせいで……」

 いや、何度も言うけどこんな短期間であれだけ喋れてる時点で相当レベル高いからね? ……これで会話に関してはどうにかなったけど、それよりも。

「レニさん、何か元気ない? 何かあったんですか?」
「え? あ、ああ……そう見えますか?」
「そこまではっきりと見えるわけじゃないですけど、雰囲気的に」

 普段のレニさんを知ってるわけじゃないから憶測でしかないけど、どうにも雰囲気が暗い。まるで何かを失敗したような――

「マイルズ商会との取引がうまく行かなかったとか?」
「え、そうなんですか?」
「いえ、そういう訳では。……ただ、直接納入した割には村で木工ギルドに買い取ってもらっていたのと金額が変わらないなって思って……」
「……だって。え、輸送費とか上乗せしてくれなかったんですか?」
「輸送費に関してはもともとギルドで買い取ってもらっているものだったので、最初からただなんですけど……ギルドを通さない場合は、本来かかるはずの仲介手数料分の半分を上乗せして支払われるのが慣例なのに」
「……だって」
「何かケチな話ですね……」

 というかそもそもの話、ギルド内部のシステムとかよくわかってないんだよな俺たち。



---
木工ギルドは相変わらずケチだなあ(
でもこれマジェリアだからこの程度のケチさで済んでるのかもしれないけど(何かの伏線っぽく

そしてあと二週間ちょっとなので告知を。
コミックマーケット95、12/30(日曜・二日目)にてサークル参加します。
スペースはツ-37a、サークル名はAxiaBridgeです。
同人の方で作ってるゲーム関連の小説本になります。



次回更新は12/17の予定です!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

ひたすら楽する冒険者業

長来周治
ファンタジー
意識低い系戦士のだらだら冒険記。吉日更新。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

灰色の冒険者

水室二人
ファンタジー
 異世界にに召喚された主人公達、  1年間過ごす間に、色々と教えて欲しいと頼まれ、特に危険は無いと思いそのまま異世界に。  だが、次々と消えていく異世界人。  1年後、のこったのは二人だけ。  刈谷正義(かりやまさよし)は、残った一人だったが、最後の最後で殺されてしまう。  ただ、彼は、1年過ごすその裏で、殺されないための準備をしていた。  正義と言う名前だけど正義は、嫌い。  そんな彼の、異世界での物語り。

処理中です...