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第12話 差し出された手
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「ウルソンから手を離せ!!」
大きな物音と共に今しがた掠れた声で呼んだ青年が怒鳴りながら入ってきた。タキシードを脱いでおり、軽装だ。
「まさか、君の王子様が迎えに来るなんてね。」
フッ、と笑ったダンレンは面倒そうにこめかみを押さえながら呟く。
「大丈夫か、ウルソン。さあ、僕らの邸に戻ろう。」
そう言いながら、ダレスはウルソンに手を差し出した。まるで、本物の王子様みたいだ・・・。
けれど、ウルソンは差し出された手を取るのを躊躇する。戻った処で今夜の彼の相手は 自分ではない。自分に与えられるのは、恋しい人が美少年たちと戯れた痕跡を片付ける仕事。それならば、この熱を持て余したままダンレン様のベッドで眠る方が良い。ベッドから出て、ワインを飲みはじめたダンレン様は面倒そうで、もう自分を抱く気など消えたのだろう。ダンレン様だってただの気まぐれ、俺を愛しているわけじゃない。
「・・・ダレス様、ありがとうございます。」
見られてしまった情けない姿、ウルソンは、ダレスの前で泣いたことなどなかった。ベッドの横にたたんであるバスローブを着る、良くできたメイドだと感心する。火照る身体を真っ白なバスローブで隠すと、ウルソンは主に跪いた。
「申し訳ありません。しかし、今夜だけは私も客人、・・・邸へは戻りません。ダンレン様・・・、どうか今夜だけ貴方の部屋で眠らせて頂けないでしょうか?」
ダレスはその返事に「何故だ、ウルソン!」と声を荒らげ、専属騎士の腕に手を伸ばした。けれど、それは兄の手によって阻まれる。
「恋心のわからない奴め。」
ダンレンは呆れたようにダレスを見た。
「構わないけど、僕が君を一晩ただ安眠させてくれる男だと本気で思っているのかな?」
目を細め、ワインを飲むダンレンは挑発するように言う。それに...、とウルソンの耳元に近づく。
「薬の効果は、どうする。君に媚薬まで盛った男だ。すやすやと眠るウルソン君を犯すかも...。」
ウルソンは身体の奥から感じる疼きに気が付かない振りをして、ニヤリと口角をあげた。
「ククッ...、ご冗談を。私は酒を飲みすぎただけです。まあ、たとえ薬が本物でも一晩眠れば効果など消えるでしょう?」
「あはっ! ウルソン君の笑った顔、初めてみたよ。最高にえろ、、グッ‼」
鈍い音がした。突然、ダンレンの体勢が崩れた。倒れ込みはしなかったものの、顔をしかめて左頬を押さえている。
「おい、兄上・・・。ウルソンに薬を盛ったのか?」
ダレスは怒っていた。返答次第ではもう一度、殴るつもりでいるのだろう。拳が強く握られている。
「っ...、ああ、僕の店で一番強力な媚薬をね。ダレス、お前も一度使ったことがあるだろう?」
痛み耐えながらダンレンが笑う。ゴッ!とまた、鈍い音がする。また、知りたくもないことを知ってしまった。ダレス様は誰を抱きたくて、誰にこんな強力な薬を使ったのだろうか。薬のせいか、酒のせいか、今日は無性に涙腺がゆるい。ウルソンは、溢れそうな涙で痛む喉に気が付いて、俯いた。
「ウルソン、戻るぞ・・・。」
ダレスからは聞いたことのない、冷やかな声。
けれど、今夜だけは・・・。
「...、いや、です。」
ウルソンは、主から顔を背けた。
「行くぞ、ウルソン!!」
怒鳴る声に、ビクリと肩が震える。何が彼を怒らせているのか、ウルソンはたった一晩、専属騎士の仕事を兄の部屋で休むだけだ。
「一晩だけ...今夜だけ、ですから...。」
「・・・・・そうか、わかった。」
ウルソンは安堵する、自分で言っておいて同時にまた寂しさが広がる。ダレスはウルソンの側を離れると、ダンレンに近づいた。話しているようだが、聞こえない。何かを受け取ったダレスはこちらに戻って来る。一体どうしたのかと、ウルソンは小首を傾げた。
「ダレス・・・様? んむぅっ...⁉」
「飲め。全部飲み干せ、残すなよ。」
ダレスは受け取った小瓶をウルソンの口に押し当てると、鼻を摘まんで酸素を奪った。残すなと、言われなくても流れ込んでくる液体と呼吸ができない苦しさに飲み込むしかない。
ごくっ...ごくっ...。
「...はっ、、はぁ...はぁ...。」
瓶の中身が無くなるのを確認すると、ダレスはようやく指先と小瓶を離した。
「あ、あれ、?」
視界が傾いていく・・・、身体の力が抜ける。ウルソンはそのまま床に倒れ、意識を失った。
大きな物音と共に今しがた掠れた声で呼んだ青年が怒鳴りながら入ってきた。タキシードを脱いでおり、軽装だ。
「まさか、君の王子様が迎えに来るなんてね。」
フッ、と笑ったダンレンは面倒そうにこめかみを押さえながら呟く。
「大丈夫か、ウルソン。さあ、僕らの邸に戻ろう。」
そう言いながら、ダレスはウルソンに手を差し出した。まるで、本物の王子様みたいだ・・・。
けれど、ウルソンは差し出された手を取るのを躊躇する。戻った処で今夜の彼の相手は 自分ではない。自分に与えられるのは、恋しい人が美少年たちと戯れた痕跡を片付ける仕事。それならば、この熱を持て余したままダンレン様のベッドで眠る方が良い。ベッドから出て、ワインを飲みはじめたダンレン様は面倒そうで、もう自分を抱く気など消えたのだろう。ダンレン様だってただの気まぐれ、俺を愛しているわけじゃない。
「・・・ダレス様、ありがとうございます。」
見られてしまった情けない姿、ウルソンは、ダレスの前で泣いたことなどなかった。ベッドの横にたたんであるバスローブを着る、良くできたメイドだと感心する。火照る身体を真っ白なバスローブで隠すと、ウルソンは主に跪いた。
「申し訳ありません。しかし、今夜だけは私も客人、・・・邸へは戻りません。ダンレン様・・・、どうか今夜だけ貴方の部屋で眠らせて頂けないでしょうか?」
ダレスはその返事に「何故だ、ウルソン!」と声を荒らげ、専属騎士の腕に手を伸ばした。けれど、それは兄の手によって阻まれる。
「恋心のわからない奴め。」
ダンレンは呆れたようにダレスを見た。
「構わないけど、僕が君を一晩ただ安眠させてくれる男だと本気で思っているのかな?」
目を細め、ワインを飲むダンレンは挑発するように言う。それに...、とウルソンの耳元に近づく。
「薬の効果は、どうする。君に媚薬まで盛った男だ。すやすやと眠るウルソン君を犯すかも...。」
ウルソンは身体の奥から感じる疼きに気が付かない振りをして、ニヤリと口角をあげた。
「ククッ...、ご冗談を。私は酒を飲みすぎただけです。まあ、たとえ薬が本物でも一晩眠れば効果など消えるでしょう?」
「あはっ! ウルソン君の笑った顔、初めてみたよ。最高にえろ、、グッ‼」
鈍い音がした。突然、ダンレンの体勢が崩れた。倒れ込みはしなかったものの、顔をしかめて左頬を押さえている。
「おい、兄上・・・。ウルソンに薬を盛ったのか?」
ダレスは怒っていた。返答次第ではもう一度、殴るつもりでいるのだろう。拳が強く握られている。
「っ...、ああ、僕の店で一番強力な媚薬をね。ダレス、お前も一度使ったことがあるだろう?」
痛み耐えながらダンレンが笑う。ゴッ!とまた、鈍い音がする。また、知りたくもないことを知ってしまった。ダレス様は誰を抱きたくて、誰にこんな強力な薬を使ったのだろうか。薬のせいか、酒のせいか、今日は無性に涙腺がゆるい。ウルソンは、溢れそうな涙で痛む喉に気が付いて、俯いた。
「ウルソン、戻るぞ・・・。」
ダレスからは聞いたことのない、冷やかな声。
けれど、今夜だけは・・・。
「...、いや、です。」
ウルソンは、主から顔を背けた。
「行くぞ、ウルソン!!」
怒鳴る声に、ビクリと肩が震える。何が彼を怒らせているのか、ウルソンはたった一晩、専属騎士の仕事を兄の部屋で休むだけだ。
「一晩だけ...今夜だけ、ですから...。」
「・・・・・そうか、わかった。」
ウルソンは安堵する、自分で言っておいて同時にまた寂しさが広がる。ダレスはウルソンの側を離れると、ダンレンに近づいた。話しているようだが、聞こえない。何かを受け取ったダレスはこちらに戻って来る。一体どうしたのかと、ウルソンは小首を傾げた。
「ダレス・・・様? んむぅっ...⁉」
「飲め。全部飲み干せ、残すなよ。」
ダレスは受け取った小瓶をウルソンの口に押し当てると、鼻を摘まんで酸素を奪った。残すなと、言われなくても流れ込んでくる液体と呼吸ができない苦しさに飲み込むしかない。
ごくっ...ごくっ...。
「...はっ、、はぁ...はぁ...。」
瓶の中身が無くなるのを確認すると、ダレスはようやく指先と小瓶を離した。
「あ、あれ、?」
視界が傾いていく・・・、身体の力が抜ける。ウルソンはそのまま床に倒れ、意識を失った。
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