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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜

フィアンセ様には恋人がいる!

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 俺の婚約者が、白昼堂々と浮気をしている……。

 小柄で可愛らしい少年とキャッキャウフフ腕を組み校内を散歩し、鼻の下を伸ばす王子。最近、アタシにはやけに冷たくて、ご無沙汰だと思っていたら、あんなどこの馬の骨とも知れない少年こむすめなんかとっ!!
 キィーッとハンカチを噛み締め、うらめがましく睨みつける真似事をしていると、トントンと肩を叩かれた。

「何してんの~?」
「現場を目撃した人妻ごっこだよ。」
「ひとづま…? ああ、あれか。いいの? 公ではないとは言え、フランドールくんは婚約者でしょ?」
「…良いとか悪いとかっていうより、俺の命が危ういというか……。」

 そう、危ういのだ。
 あのまま二人が上手くいってしまえば最悪、断罪ルートに入ってしまう。
 大体、あの少年の登場が早すぎる。  
 俺の存在が時間を狂わせたか、もしくは俺のような存在が他にもいるのか…。
 どちらにせよ、焦った接触は得策じゃない。
 正直ふざけている場合ではないけど、もう、ふざけるしかない。
 実は嫉妬してるのも、事実だ。
 友達同士でも嫉妬は良くあることだろ?
 俺とは目も合わせてくれないくせに、って少しくらい思っても良いじゃん?

「へ、へぇ、物騒だね。まぁ、人妻ごっこなら色々できるんじゃない? たとえばさ…。」

 いたずらげな微笑みを浮かべたキルトは、俺の腰を引き寄せた。
 自分より少し小柄な男に正面から抱きしめられ、上目遣いで見上げられる。
 さては、キルトのおふざけスイッチがオンになったんだな?

「奥さん、寂しくなっちゃったんですか。旦那さんじゃ物足りないんじゃない? どうかな、僕が満足させてあげますよ。」
「そんなー、いけないわー、アタシには愛する夫がぁーー。」  

 キルトの胸に腕を突っぱね、態とらしい棒読みで俺も悪ふざけに乗っかる。すると、キルトは何故か不機嫌そうな顔をして、自分の腰を押し付けてきた。えっ、なんで? 突っぱねた手首を捕らえたキルトは、そのまま俺に顔を近付けてくる。ついに鼻先が触れ合うのではないかというところで、動きがひたりと止まった。

「ドキっとした?」
「はは‥…、迫真の演技だな。俳優とか向いてるんじゃないか?」
「やだね、舞台俳優なんて金にならないもん。」

 悪ふざけに飽きたのか、キルトは俺から離れて、さらっと舞台俳優への悪口を言う。しかし、キルトの演技は確かに上手かった。俺の棒読み人妻の何倍も、犬系の年下浮気相手感が出ていた。そうだな、どちらかと言うと人妻に夢中になる青年というより、人妻が夢中になる青年。
 
 つい現状を忘れて関係のない事を考えはじめてしまった。俺はブンブンと頭を振り思考を飛ばす。グングン伸びる俺の背丈が憎いと思えるほど、ウェルギリウスと少年の姿が人混みの中でもよく見えた。気になって仕方がない、それでも視線を逸して見ないふりをする。あのまま、二人がくっつくならその方が良いじゃないか。ウェルギリウスは愛する人と結ばれることができて、俺は貴族を辞めて騎士になれる。このまま、婚約破棄も夢じゃない。……夢じゃない。

「なんだよっ…、ちょっとむかつく。」
「えっ、フランドールくん本当に嫉妬?」
「ちげーし。」

 ニヤニヤ笑うキルトを尻目に俺は歩き出した、もうすぐ授業がはじまる。
 俺にとって、真のヒロイン登場は多大なるイレギュラー。
 今は大人しくしながら、様子を見るのが一番だろう。

 関わるのなんて、絶対NG!

 
 そう、思っていたが……。



「足手まといにならないよう、精一杯頑張りますっ、よろしくお願いします!」

 リアゼルと名乗った少年は勢いよく頭を下げると、深々と長いお辞儀をした。ふわふわと柔らかそうな茶髪とおしとやかなつむじ。今は忙しい時期ではないはずの生徒会に呼び出され、嫌な予感がしたら、これだ。

「よろしくお願いします。副会長のベェルシードです。」
「凄い魔力量だね…、驚いたよ。僕は書記のリリー、こっちはレオンだよ。よろしくね。」
「ちぃーさくてかわいいね、誰かさんと違って。」

「フランドール・メディチだ、よろしくな。」

 レオンの小言には、いい加減慣れたので無視させてもらう。いつも何かしら言ってくるので、内心イラッとするが、俺は大人なので聞き流してやる。子どものおフザケに付き合ってやるほど暇じゃない。俺は平然を装い軽い挨拶をした。その間、リアゼルの表情を伺うが、にっこりと微笑まれた。大きな瞳やほんのりと赤らむ頬は可愛らしい。俺とは正反対だ。うん、人気のありそうな子だ。レオンに関しては、すでにデレついているような気さえする。

 平民であり編入生であるというのに、いきなりßエスクラスに入り、おまけに王のお墨付きと教会の後ろ盾付き。ウェルギリウス皇太子殿下の恋人、もしくは婚約者ではないかと噂されているリアゼルは今や有名人。勉学魔法共に優秀でこれだけの人達に推されれば、生徒会に入るに決まってる。というか、そもそもゲームのシナリオ通りだ。バグなのは、むしろ俺の方。だが、表情に動揺を見せないリアゼルを見るに俺を知っている訳ではなさそうだが…。いや安心するのは、まだ早いな。

「顔怖いよぉ? ただでなくても大きくて威圧的なのに、さっきから無表情のまま。どうしたの、何か不機嫌になる理由でもあるのかな、君。」
「レオン殿っ!」

 ウェルギリウスと俺が婚約者であることを知っているからこその煽りだろう。
 挑発するレオンをベェルシードが咎め、一歩前に出た。
 そんなベェルシードの肩に手を置き引き止める。

「ベェル、気にするな。」
「しかし!」
「大丈夫ですよ、俺にもそういう時期がありました。無邪気で自由なことは良いことですよ、ですから。」
「ほう…。言われているよ、レオン。」
「うるさいっ。」

 リリーにクスクスと笑われて、レオンは何も言い返せずに顔を赤くした。
 いつまでも自由に言わせるのも癪なので、少し意地悪をしてしまった。
 ウェルのことがあってから控えていたんだけどなぁ…。

「まぁ、なんだかんだ仲の良い生徒会だ。分からないことがあれば、何でも聞いてくれ。」
「はいっ!」

 俺はリアゼルと手を握り合った。 
 なんか良い子そうだ、と思ってしまう。

 
 それからというもの、リアゼルは何故か俺に懐いた。小柄なリアゼルはちょこちょこと小走りで後ろを着いてくる。体格差に配慮がなかったなぁ、なんて思いながら最近はゆっくりと歩くようにしている。 少年は真面目なタイプで、しばしば俺を質問責めをするから俺よりも説明の上手い、ベェルやリリーに聞いた方が良いのではないかと勧めれば「ご迷惑でしたか?」と子犬のように瞳を潤ませた。慌てて「そんなことない! 俺の説明では不十分かと思ったのだ。」と伝えれば、「そんなことはありません! フランドール様に教えて頂きたいのです。」という。慕ってくれる子には弱い俺。本音を言うと、もうゲームのシナリオなんかどうでもいいくらいリアゼルが可愛い。それもキラキラした目で学園が楽しくて仕方がないというのだから、絆されるのも悪くないだろう。

 まぁ、その度にウェルの視線が痛くて仕方がないのだが…。




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