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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜

“犬”の手も借りたい※

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「好きだ、フランドールくん。
 ウェルギリウス殿下のことは忘れたって良いだろう…?」

 静かな声と共に吐息が耳に吹きかかる。もしも俺の心が乙女だったら、この熱いバックハグとセリフにキュンキュンなるものを感じただろう。ん、待て、コイツ今なんて言った?

「ウィチルダくん、今、好きとか言った? あっ、ごめん、やっぱ俺の聞き間違いっ。」
「聞き間違いじゃないよ。いつの間にかフランドールくんのことを好きになってた。ねぇ、キルトって呼んでよ。」

 後ろから抱きしめたまま力を込められる。ぎゅうぎゅうっと俺を抱きしめるウィチルダくんは少し背伸びをしていた。恐る恐る振り返って表情を伺えば、どこか不安気で心配しているみたいな雰囲気。待てよ、もしかしてだけど…。抱きしめる腕から逃れようとするが案外力が強くて抜け出せない。ううん、困った。力ずくで行くしかないか。

「うわっ! えっ⁉ な、何⁉」
 
 仕方なく俺はウィチルダ…、キルトを背に乗せ、持ち上げると自分のベッドへ投げた。背負投げ~である。キルトは混乱してキョロキョロと辺りを見渡しながら目を見開いた。

「そんな顔するな…。心配ない、ちゃんと分かってる。全く馬鹿だな、もっとマシな嘘を吐けよ。」
「……っ、ちがっ。」
「まさか、本当に心配してくれているとは…。疑って悪かったな。」
「…え?」

 キルトは上体を上げ、ベッドの上で引き止めるみたいに否定の言葉を吐いた。けれど、どこかやはり不安を隠せない表情に、少しでも和らげばと微笑み返してみる。それから、ハッと思い出して、ベッドの端に座り、窓を開け伝書鳩から手紙とぶら下げている何かを受け取った。

「慰めようとしてくれたんだよな。話、聞いてもらえてちょっとスッキリしたわ、ありがとな。」
「…そう、いう、つもりじゃ。」

 俯きがちに小さく呟く、変な所が謙虚なやつだ。ふたりでベッドに座ったまま、俺はアシュルからの手紙を開いた。手紙はいつも、兄さん大好き、とか早く帰ってきて、とかそういう内容が多い。拙い文字で一生懸命に書かれた手紙は愛しくて一枚たりとも捨てられない。こんなにも可愛い弟を持てばブラコンにならざるを得ないと思う。

『兄さん、どうして最近返事がないの? 忙しいことは分かっていてもさみしいです。なので贈り物をすることにしました。僕の作った香です、一人でいるときに開けてみて下さい。』

 さ、さ、さみしいだと?!
 なんて、可愛いんだ、アシュル!
 ごめんなっ、返事、今すぐ書くから待ってろよ!
 というか、待て待て…。
 アシュルからのプレゼント、だと?
 しかも手作り?!
 
 俺は舞い上がり、すぐさま伝書鳩がぶら下げていた袋を開け中身を取り出した。現れたのはとても小さな瓶だった。銀色の紐が巻き付けてあり、中の液体は白っぽい。香だなんて、オシャレなものを作れてプレゼントできる我が弟が尊い! 小瓶をぶら下げ、眺めて堪能する。ああ、開けるのが楽しみだ。一体どんな香りがするのだろう。
 
「ね、ねぇ、それって、まさか弟くんからじゃないよね?」

 開けようと小さなコルクに苦戦していると、不意にキルトが話しかけてきた。俺は待ってましたとばかりに笑顔で弟の素晴らしさを語るべくキルトを見た。

「んっ、そうだぞーっ。香を作ったらしい、プレゼントとして贈ってくれたんだ。魔法が上手くて器用でな、自慢の弟なんだ。」
「魔法が上手い…そうだよね。ねぇ、その小瓶、開けないほうがっ!」

 きゅぽんっ、と音を立ててコルクが開く。
 キルトの静止の声と同じタイミングだった。

「へっ? んんっ⁉ んむ~~っ⁉」
「匂いを嗅いだらだめだ!」

 間抜けな声を出した俺の口と鼻をキルトが突然、手で覆った。完全に呼吸を奪われる。苦しさに藻掻くとキルトが馬乗りになって抑え込む。やばい、苦しい、酸素…っ!

「息を止めて、吸ってはいけない! ああ、早く瓶の蓋を閉めないとっ。」

 キルトが必死に何かを言っているが、よく分からない。
 ああ、酸素、苦しいっ、ダメだ。
 耐えられず、口や鼻を抑えつけるキルトの手首を掴み引き剥がした。
 ようやっと開放された口が一気に酸素を取り込む。
 ぜーぜーと肩を動かしながら荒い呼吸を繰り返した。

「なっ、にっ、すんだっ!」

 俺はやっとの思いで声を出し、腹の上で馬乗りなったままのキルトの肩を掴んだ。キルトはというと額に手を当て天を仰いでいる。小瓶が転がって、中身が布団に溢れてしまっている。なんてことだ! アシュルの手作りの香が‼ 掬おうと慌てて瓶の小さな口に溢れた水分を宛がう。ねっとりとした感触が指先に触れた。それと、同時に香ったのは、甘い、匂い。

「~~~っ、?、??」
「……吸っちゃったかな。」

 あ、頭がクラクラする。

 甘くゾクゾクとした感覚が頭から足先を掛けた。起こしていた上体がふらふらとベッドに沈む。力が抜けて身体がびくびくして…。心拍数がどんどん上がり、心臓が早すぎるほど脈打ちはじめた。段々と落ち着いていたはずの呼吸が乱れて荒くなる。身体がどんどん熱を持ちはじめた。

 この匂い知ってる……。
 バニラみたいな、甘くて、くらくらして…。
 アシュルの匂いだ…、アシュルの精液の匂い。
 
「うっ、ぁ…、ひぃっ…!」

 俺の上に乗っていたキルトが動いただけなのに身体が何故か快楽を感じた。服や布が擦れるだけで電気が流れたみたいにビクビクする。下半身が熱を持って、そそり立っている。な、なんで?! ああああ、頼むっ、とりあえず動くなっ、動かないでくれ…!

「『一人のときに』か、確かにその方がいい。君の弟の髪色、銀だったよね。小瓶に巻き付いてる…。すごいよ、まだ学園にも通っていないのにこんな魔術を掛けれるなんてさ。フランドールくん、弟に随分執着されてるね。」

 どうしよう、触りたい。
 早く吐き出してしまいたい。
 でも、身体も手も力が入らない。 

「あ、あしゅ、?」

 冷たい手が伸びてきて、額を撫でる。気持ちいい。その手が顎を撫で首、喉仏、鎖骨と段々下に降りてくる。指先がへその辺りをするすると円を描きながら焦らす。ちゃんと、触って欲しい。苦しいんだ…、自分じゃ触れなくて、だからイかせてっ。おねがい、……。この熱から早く開放して欲しくて瞼がじんわり熱くなる。

「やだ、あしゅる…っ。んっ…、つらいからぁ……。」
「…っ、幻覚作用かな。フランドールくーん! 戻ってきて、僕だよ、キルト、アシュルじゃない。」
「なんでだよぉ、やだっ、おねがいっ……触って? 苦しい、からだ動かない…ぅう、ぐすっ…。」

 なんで?
 なんで触ってくんねぇの? 

 眼の前にはアシュルがいるのに、そのアシュルはいつものように触れてはくれない。焦らすみたいに腹部を撫でつづけるだけだ。  

 
 好き…。
 アシュルが好き。
 アシュルが好きだからアシュルに触って欲しい。

「どうしよう、苦しそうだし…。一度出せば落ち着くかな。」
「アシュ…、好きっ、ね…んっ……好きだ、あしゅる。すきっ、すぅき、ちゅーして?」
「僕はアシュルじゃないよ。……一回だけしてあげるから、ちょっと黙っててくれない?」
「ひぃあ…っ!」

 求めていた刺激が伝わる。
 なんだかアシュルの手、大きくなったみたいだ。
 ただ上下に擦る動きに雑さを感じて、ムッとした。

「あっ、あ、ぁあしゅるぅ、ちゅーは? んん…、あっ、はっ、いっつもしたがるのに、なんでしてくんねぇの……?」

 俺ばっかりアシュルが好きで馬鹿みたいだ…っ。
 涙が溢れて止まらない、もう全然感情のコントロールができない。

「ーーっ、ホント、勘弁してよ。」
「ぁ、あ、ぁあ! イっちゃ…、でるっ、やっ、ちゅう…んぁっ…してっ……ぁ、ああっ、はっ、ん…っんん~~~っ!」

 乱暴な動きだったが、身体はすぐに絶頂を迎えた。余韻でびくりと震える。先からはとっぷりと白濁が漏れて、ベッドのシーツを汚していた。絶頂する瞬間に与えられた唇の感触は酷く満足感を与えたけれど、どこか物足りなさも感じた。達した後の乱れた呼吸を、はーはーと無意識に整える。

「…どうやって解けば良いんだ。」

 ゆったりと頭を持ち上げた中心を見て、キルトが頭を抱えていることなど、また疼き出した身体のせいでフランドールは気づけなかった。


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