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41話 告白
しおりを挟む僕は夢を見ているのだろうか?
銀二郎は膝上くらいだが蓮の身体は腰まで海に浸かっている。真冬の海で靴のまま、蓮のよく履いているお気に入りであろうジーンズやジャンバーまで濡らしていて・・・。彼が此処にいるはずがない、自分のために海に飛び込むわけがない、そんな風に考えてしまうとやはり現実味を感じなかった。こんなこと、自分にとって都合が良すぎる。
「蓮くん、風邪、引いちゃうよ︙?」
独り言みたいに呟いた。
「ははっ、お前が言うのかよ。
こんな時に呑気だな。」
やさしく微笑まれて銀二郎は、やっぱり夢なのだと確信した。自分は、死んでしまったんじゃないだろうか? とさえ思えてしまう。それぐらい、幸せだった。
蓮の腕がゆっくり伸びできて、銀二郎のやわらかく短い黒髪を愛おしげに撫でる。まるで、子どもをあやすみたいに涙に濡れた頬を指先で拭っていく。
「帰ろう、銀二郎。迎えに来た。」
「︙︙なんで?」
帰れない。帰ったら、もしも由鶴から逃げたら、もっと恐ろしいことが待っている。みんなに迷惑を掛けてしまう、それなのに帰る理由なんてない。それにアパートはすでに解約させられていて、帰る場所すらもう無いのだ。まとまらない思考でぐるぐると考えていると、憂鬱なことばかりで銀二郎は俯いた。どうして帰るの、どこに帰ればいいの、と小さく呟く。そんな銀二郎を蓮は凍えそうな海から引き上げて、再度抱きしめる。
それから、ちゅっと唇を重ねるだけのキスをした。
それは、柔らかくて優しくて、まるで恋人同士がするみたいなキスだった。
「︙︙なに、これ︙。」
「銀二郎。」
大層な夢だ、と思いつつもリアルな感触に困惑する。
そんな銀二郎を蓮は真っ直ぐと見据え、真剣な眼差しを向けた。
「銀二郎、好きだ。帰ろう、俺と。」
「︙︙ゆ、めっ? んっ︙ふぁ︙。」
銀二郎の言葉を遮るように再度口吻が落ちる。少し背伸びをした蓮はふっくらとした唇を優しく舐めた。ぴくりと震える腰を抱くと、何かを言いたげに開いた口へ隙かさず侵入した。今度は、丁寧に大事にしたいという気持ちを込めて舌を絡めた。
自分の気持ちをわかって欲しい。
この男を大切にしたい、甘やかしてやりたい。
信じないと言われたら、もういらない、お腹いっぱいだと言うまで何度だって伝える。
「好きだよ。夢なんかじゃない。」
「うそ︙。」
「嘘じゃない、銀二郎が信じるまでキスしてやる。」
「へ? んんっ、ぁっ︙ふっ、んんんー!」
何が起きているのかも呼吸の仕方もわからず、銀二郎はパシパシと蓮の背を叩いた。すると離れた唇にふわりと微笑まれ、身体が熱を持ち始める。ドクドクと鼓動が高鳴り、顔が熱くなるのを感じた。なんだかフワフワとした心地。
「銀二郎︙︙?」
銀二郎がフラフラとし始め、蓮はどうしたのかと声を掛けた。そのうちに身体がもたれてきて、慌てて抱きとめた。が、流石の体格差に蓮は負けた。王子様が助けに来たお姫様は王子様より遥かに屈強なのだから。
車内から今まで黙って見ていた悠馬がズルズルと今にも倒れそうなふたりの男の異変に慌てて飛び出した。力無い銀二郎を蓮の代わりに受け止め、上気する頬を見て首筋に触れた。
「まずいな、熱がある。そりゃ冬の海に浸かったらこうなるわ。」
首筋などに比べて脚や指先は凍ったように冷たい。悠馬は銀二郎を担ぎ上げると、さっさと車に乗せ、蓮を連れ車をあっという間に走らせた。
由鶴はというと、突然ハンカチのようなもので薬品を嗅がされて気絶させられ、そのまま別の車に乗せられていた。
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