上 下
8 / 10
本編

7

しおりを挟む
 どんなことがあろうと、次の日は必ずやってくる。そして、仕事も当たり前にある。休む暇なんてない。人間の心模様なんて気にすることなく日々は永遠と続く。死ぬまで、永遠。はぁ、と深く溜息を吐いて司は、自分で作った弁当をちびちびと食べる。こんな日は、腹も大して空かない。

 ブーブー。

 ポケットに入れていたスマホが鳴り、取り出す。いつも来るのは、広告か会社か奏くらい。まぁ、しばらく奏から連絡が来ることはないだろうけれど…。

「えっ、、」

 表示されている名前に目を見開く。
 それは、絶対に来ないだろうと思っていた奏からのメッセージだった。

〈今夜、行く〉

 そっけなくも思える、短い文。
 なんと返せばいいのか、分からなかった。しばらく悩んだが、いつの間にか昼休憩の時間も終わり。残してしまった弁当をしまって、スマホの画面を閉じた。結局、メッセージには既読だけ付ける形となり返信はできないまま。気が付けば、業務を終えて帰路に着いていた。

 一歩一歩が重い。
 帰れば、奏がいる。どんな顔をして会えばいいのだろう。
 
「あっ……」

 奏が家に来るということばかりに頭が回っていたが、司は重要なことを思い出した。

『オレがやりたいときに司のこと犯していいってこと?』



「…せっくす、するのか、、」

 そのことに気が付いて、司はふらふらとしゃがみこんだ。大きな体で小さくうずくまり、ぅ~~と呻く。一体、どうすれば良いんだ。そうやって、しばらくしゃがみこんだ。

「司…? どうしたの?具合、悪い?」

 声をかけられ顔を上げると、そこには心配そうな顔をした奏が立っていた。
 あ、隈ができてる…、めずらしい。
 具合悪い?と聞いてきた奏の方が、あまり体調がよくなさそうだった。
 俺は、予期せず現れた奏に驚きつつもふるふると首を横に振って立ち上がった。

 覚悟を決めろ俺、男だろ。
 
「ちょっと、仕事で疲れただけだ」

 よく考えてみろ。
 好きな相手に、好きな男に、奏に抱いてもらえるなんて、こんな幸運なことないだろ。
 むしろ、楽しむんだ。
 そうだ、これから俺はこの関係を楽しむべきなんだ。

「うん、行こう」
「え、あっ、つかさっ、」

 司は、奏の腕を掴んでズンズンとアパートまで歩き出した。
 司の大きな歩幅で、あっという間に部屋までたどり着く。
 そうして寝室の扉まで開けた司は、奏をベッドの上に押し倒した。

「悪いが、このままじゃできないから準備してくる。すぐ終わらせる、待っててくれ」
 
 そう言って足早に風呂場へ向った司を奏は慌てて引き止めた。

「待って!待ってよ…、そういうんじゃない!」

 ピタリと動きを止めた。
 二人の視線が互いに木材でできた床を見る。

「そういうんじゃなくて、、その、ごめん」

 ああ、やっぱり、あの日はどうかしていたんだ。俺みたいな男を誰が好き好んで抱いたりなんかする。自惚れも良いところじゃないか。司は小さく自嘲的な笑みを浮かべて、そっと掴まれた腕を引き離した。

「ごめん、俺の方こそ。そういうんじゃないよな」

 自分で言って、余計に胸が苦しくなる。

「その、オレ、知らなくてッ! 司が初めてだったのとか、ってっきり慣れてるのかと思ったからっ。ほんと、ごめん…。身体、辛く、ない、、?」

 司は、ああそんなことか、と顔を上げた。
 俺の好きな人は、優しい人なんだ。
 そんなことを聞くためにわざわざ会いに来てくれたんだ。

「みての通り、俺は丈夫だからな」
「そっか、、なら安心した」
「おう、それだけか?」
「…えっと」
「なんだ、まだ何かあるのか」
「司の初恋って、誰なの?」

 真っ直ぐに見据えられて目が合う。奏は何故こんなことを聞くのだろう。わからない。それに、答えることはできない。本人眼の前にして言えるわけがない。

「どうして、そんなことを聞くんだ」
「それは…、その、」
「よくわからないが、まぁ良い。今日は悪いが帰ってくれ。少し疲れているから休みたい」
「オレが………だから…」

 ボソボソと言うものだから何と言ってるのか聞き取れない。

「ごめん、聞こえない」
「っ、オレが、司のこと、好き、だから」
「…は?」
「だから、知りたい、、ごめん、、あんな事しておいて、、色々、傷つけることしたのに、、」

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

捕まえたつもりが逆に捕まっていたらしい

ひづき
BL
話題の伯爵令息ルーベンスがダンスを申し込んだ相手は給仕役の使用人(男)でした。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...