ドイツ人のジャガイモ

坂田火魯志

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第三章

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「ドイツもドイツ人も好きだしさ」
 「食べもので誰かを馬鹿にする趣味はないつもりだよ」
 「ただな、やっぱりって思ってな」
 「ドイツだからだってな」
 「確かにドイツっていえばジャガイモだよ」
  オヤジもこのことを否定しない。
 「ソーゼージ、ビールと並んでな」
 「それでこの店でもか」
 「ジャガイモ出るんだな」
 「そうなんだな」
 「それも」
 「そうさ、よかったら食うかい?」
  親父はあらためて二人に尋ねた。
 「サービスしとくぜ」
 「ジャガイモ食えっていうんだな」
 「ここで」
 「少なくともドイツ料理食う為に来たんだろ」
  親父は二人にそのことも問うた。
 「興味があって入ったんだろ」
 「まあな、それはな」
 「そう言われるとそうだよ」
  その通りだと答えた二人だった、このこともその通りだ。
 「モーゼルワインとかも気になってな」
 「それで来たんだよ」
 「じゃあモーゼルも飲んでな」
  そのうえでだというのだ。
 「色々食ってくれよ」
 「ジャガイモもか」
 「それもだよな」
 「そうだよ、是非食ってくれよ」
  ジャガイモをというのだ。
 「後悔はしないからな」
 「それじゃあな」
 「今からな」
  二人は親父の言葉を受けてだ、そうしてだった。
  並んでカウンターの空いている席に座った。それから店の中のメニューを見てだ。自分の前に来ていた親父に言った。
 「酒はモーゼルな」
 「まずこれな」
 「それでソーセージにな」
 「これもな」
  ソーセージはイタリアでも普通に食べるので抵抗はなかった。
 「あとアイスバイン」
 「それとだよ」
  そしてだった、遂に。
 「ジャガイモを茹でたのに」
 「パンケーキにな」
  ジャガイモのそれをというのだ。
 「そういうの頼むな」
 「ザワークラフトもだけれどさ」
 「とりあえずこれな」
 「これで頼むな」
 「わかったよ、ただな」
 「ただ?」
 「ただ何だよ」
  二人は親父の今の言葉に問い返した。
 「一体」
 「何かサービスでもしてくれるのか?」
 「モーゼルの前にな」
  それを飲む前にだというのだ。
 「ビールサービスするけれどな」
 「あっ、ビールか」
 「ビールをかよ」
 「ソーセージにジャガイモっていったらな」
  それにアイスバインとザワークラフトもである。
 「やっぱりビールだろ」
 「ドイツ料理らしくか」
 「それか」
 「ああ、それだろ」
  だからだというのだ。
 「だからサービスでそれぞれ一杯ずつ出すからな」
 「最初はビールか」
 「ビール飲めっていうんだな」
 「黒ビール出すからな」
  まさにドイツだ、そのビールだった。 
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