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第一章 世界の果てに咲く花
終わりを待つ日々 18
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「良いか、ガキども。この町の宿ってのはな、一階が大衆食堂兼酒場になっていて、メニューによってはお前達みたいなガキどもは頼めないモノがあるんだ」
「なんで貴方は詳しいのかしら?」
イリーズの肩の上で、ウェンディーが白い目をサラーマに向けている。
「人生経験ってヤツだよ。まあ、いいから聞けって。二階が宿になってるんだが、この宿の中にも特殊な造りのものがあってな。それこそガキどもには詳しく教えられない、色んな大人の行為が行われているらしい」
「だから、何で貴方がそんな事を知っているのかしら?」
「そこはホラ、あの、何て言うか、知的好奇心とかそういう、あの、ねえ?」
ウェンディーに追求されて、サラーマはしどろもどろになりながら彼女に助けを求める。
「私に聞かれても困るわよ。教えていただいているガキの立場なものですから」
鼻で笑う様に、彼女は答える。
「イリーズ、世の中の女ってのは冷たいよな?」
「それは時と場合にもよるんじゃないですか?」
「いや、男にはやらなければならない時の為に、知っておかねばならない事があるんだ。引くに退けない時ってのがあるのは、わかるだろイリーズ」
「あんた、何を誘導してんの?」
サラーマがイリーズを味方に引き込もうとするのを、彼女はサラーマを叩き落として止める。
「ぷぎゃ」
「ま、まあ、趣味嗜好は人それぞれありますよ」
「イリーズ様、無理にフォローしなくても良いですよ。馬鹿が調子に乗りますから」
「お前達、何でイリーズにはそうなのに、俺にはこうなんだよ」
サラーマが飛び上がって抗議している。
「まあ、だってサラーマだし。このメンバーで私が唯一タメ口で行きやすいってのもあるかも」
「僕にも敬語なんか使わなくても良いですよ?」
イリーズが笑顔で彼女に言う。
「え? あ、こう言うとなんですけど、イリーズさんってすごく偉い人なんで、ちょっと遠慮しちゃうんですよ」
「偉いのは僕の先祖で、僕は何もしてないんですから、まったく遠慮なんか必要ありませんよ」
「そうだそうだ。遠慮する気があるなら、俺にするべきだぞ」
サラーマがアピールしているが、彼女はサラーマを手で払って相手にしない。
実際、イリーズには独特の雰囲気があるのに対し、サラーマは恐ろしく強力な存在である事は間違いないが、どこか気安い印象が強い。
この二人に対しては、それぞれの持つ雰囲気に引っ張られているところが強い。
そうやって街を歩いている時、店に並ぶ物の一つが彼女の目に飛び込んできた。
「大体お前は……、あん? どうした?」
一点を見つめて動かなくなっていた彼女に、サラーマは尋ねる。
そこには、いかにも魔法使いとでもいう様な、黒いつばの広いとんがり帽子が飾ってあった。
「何だ? 頭でも冷えたか?」
今まで前を飛んでいたサラーマが、彼女の肩の上に乗る。
「何か、あの帽子可愛いなって思って」
「マジで? あのインチキ魔術師っぽい帽子が? あんまり俺の趣味じゃねーな」
「案外似合うかもしれませんね」
イリーズが笑いながら言う。
「どっからどう見ても魔法使いだな。いっその事お前、箒に乗って空飛べよ」
サラーマが諦めた様に言う。
「せっかくだから、ここで帽子も買っていきますか」
「ええっ、い、いや、別にそんなつもりじゃなかったから」
彼女は慌てて否定したが、イリーズに背中を押されて入店する。
「いらっしゃいませー。あら、イリーズ様じゃないですか」
店に入ると、店員がイリーズに気付く。
「どうも。そこの帽子を頂けますか?」
イリーズはストレートに要件を伝えると、こう言うやり取りに慣れているのか、店員の女性は笑いながらとんがり帽子を持ってくる。
「服と一緒に買い忘れたんですか?」
「まあ、そんなところです」
イリーズはそう言うと、帽子を受け取ると彼女に被せる。
彼女は目を見開いて驚いている。
これまでの経験が役に立たないとでも言う様に、彼女は硬直して口をパクパクしている。
「はい、どうぞ」
イリーズに言われて、彼女は恥ずかしそうに帽子の広いツバを掴むと、それで火でも付いたかと思うほど火照った顔を隠す。
「可愛らしいリアクションですねー」
「女の子なんだなー」
店員の女性の言葉に、さらにサラーマが追い打ちをかける様に言うので、彼女はますます顔を火照らせるのを感じたので、さらに帽子で顔を隠す。
「あっはっは。面白いくらいウブな反応だな。そんな奴だったのか、お前」
「う、うるさいわね」
彼女は帽子で顔を隠し、喉を鳴らして自分の頬を叩く。
「サラーマ、せっかくのチャンスを棒に振ったのを分かってる?」
「あん? 何のチャンスだよ」
「今の帽子プレゼント、貴方がすれば見返せたんじゃないの? 恩を売れる機会だったのにね。これで大きな顔出来たんじゃないの?」
「うおーう、しまった。イリーズ、その帽子は俺からのプレゼントって事で頼む」
「いやー、今からはダメでしょうね。被せてあげる役をやらないと」
妖精の二人が言いたい放題なので、彼女は一度咳払いする。
「私、この恩には必ず報いますから!」
彼女が真っ赤な顔で固い決意を口にすると、イリーズはニッコリと笑う。
「僕はその言葉と気持ちだけで十分ですよ。どうも、ありがとうございました」
イリーズは店員の女性に笑顔で言うと、女性も笑顔で頭を下げる。
「こうして見ると、確かに似合ってはいるな。どこからどうみても魔法使いだ」
店を出て、サラーマが彼女の姿を見て言う。
黒くつばの広いとんがり帽子に、マントに見えなくもない黒いロングコート。本来すでに必要無いのだが、念のため持っている杖もあって、確かに見た目には魔法使いに見える。
金色の瞳もあって、この世ならざる迫力がある。
「見た目には確かに似合ってますね。街まで来た甲斐がありました」
「あんまりそんな事言わないで下さい」
彼女は恥ずかしそうに帽子で顔を隠す。
こう言う感情は、これまで彼女が感じた事の無い感情だった。
言葉にしづらいもどかしさ。これまでの彼女のマイナス感情と言うものは、憎しみや怨みであったが、この感情はそれとは違う。
だが、不快ではあるものの不愉快では無い。これまでに感じたことの無い感情は彼女を困惑させていた。
「イリーズ様、今日はもう休みましょう。イリーズ様もお疲れでしょう?」
イリーズの状態を最優先に考えているウェンディーは、今日一日の行動時間が長いイリーズを心配していた。
確かに普段から不健康極まりないイリーズが、今は更に生気すら感じられなくなっている。表情は柔らかい様に見えるが、よく見るとその表情もかなり無理して見える。
「ごめんなさい、私がワガママ言ってるから」
「いえいえ、僕が好きでやってる事ですから。むしろ謝られるこ僕が困ります。でも、お腹空いたし、今日は宿に泊まる事にしましょう。サラーマ、任せられますか?」
「おうとも、俺の一押しの所へ案内してやろう。覚悟しろ、ガキ共」
「覚悟ってなによ」
彼女は妙にテンションの高いサラーマに言うが、ある意味では彼女はサラーマに助けられたところもあった。
得体の知れない感情に振り回されている状態だった彼女だが、サラーマを適当にいじる事で通常の自分を意識する事が出来たのだ。
「ところでサラーマ、何でアナタが案内できるのかしら?」
「俺の知的好奇心は留まるところを知らないのさ! まあ、気にしたら負けとかそう言う類の話だ」
「なんで貴方は詳しいのかしら?」
イリーズの肩の上で、ウェンディーが白い目をサラーマに向けている。
「人生経験ってヤツだよ。まあ、いいから聞けって。二階が宿になってるんだが、この宿の中にも特殊な造りのものがあってな。それこそガキどもには詳しく教えられない、色んな大人の行為が行われているらしい」
「だから、何で貴方がそんな事を知っているのかしら?」
「そこはホラ、あの、何て言うか、知的好奇心とかそういう、あの、ねえ?」
ウェンディーに追求されて、サラーマはしどろもどろになりながら彼女に助けを求める。
「私に聞かれても困るわよ。教えていただいているガキの立場なものですから」
鼻で笑う様に、彼女は答える。
「イリーズ、世の中の女ってのは冷たいよな?」
「それは時と場合にもよるんじゃないですか?」
「いや、男にはやらなければならない時の為に、知っておかねばならない事があるんだ。引くに退けない時ってのがあるのは、わかるだろイリーズ」
「あんた、何を誘導してんの?」
サラーマがイリーズを味方に引き込もうとするのを、彼女はサラーマを叩き落として止める。
「ぷぎゃ」
「ま、まあ、趣味嗜好は人それぞれありますよ」
「イリーズ様、無理にフォローしなくても良いですよ。馬鹿が調子に乗りますから」
「お前達、何でイリーズにはそうなのに、俺にはこうなんだよ」
サラーマが飛び上がって抗議している。
「まあ、だってサラーマだし。このメンバーで私が唯一タメ口で行きやすいってのもあるかも」
「僕にも敬語なんか使わなくても良いですよ?」
イリーズが笑顔で彼女に言う。
「え? あ、こう言うとなんですけど、イリーズさんってすごく偉い人なんで、ちょっと遠慮しちゃうんですよ」
「偉いのは僕の先祖で、僕は何もしてないんですから、まったく遠慮なんか必要ありませんよ」
「そうだそうだ。遠慮する気があるなら、俺にするべきだぞ」
サラーマがアピールしているが、彼女はサラーマを手で払って相手にしない。
実際、イリーズには独特の雰囲気があるのに対し、サラーマは恐ろしく強力な存在である事は間違いないが、どこか気安い印象が強い。
この二人に対しては、それぞれの持つ雰囲気に引っ張られているところが強い。
そうやって街を歩いている時、店に並ぶ物の一つが彼女の目に飛び込んできた。
「大体お前は……、あん? どうした?」
一点を見つめて動かなくなっていた彼女に、サラーマは尋ねる。
そこには、いかにも魔法使いとでもいう様な、黒いつばの広いとんがり帽子が飾ってあった。
「何だ? 頭でも冷えたか?」
今まで前を飛んでいたサラーマが、彼女の肩の上に乗る。
「何か、あの帽子可愛いなって思って」
「マジで? あのインチキ魔術師っぽい帽子が? あんまり俺の趣味じゃねーな」
「案外似合うかもしれませんね」
イリーズが笑いながら言う。
「どっからどう見ても魔法使いだな。いっその事お前、箒に乗って空飛べよ」
サラーマが諦めた様に言う。
「せっかくだから、ここで帽子も買っていきますか」
「ええっ、い、いや、別にそんなつもりじゃなかったから」
彼女は慌てて否定したが、イリーズに背中を押されて入店する。
「いらっしゃいませー。あら、イリーズ様じゃないですか」
店に入ると、店員がイリーズに気付く。
「どうも。そこの帽子を頂けますか?」
イリーズはストレートに要件を伝えると、こう言うやり取りに慣れているのか、店員の女性は笑いながらとんがり帽子を持ってくる。
「服と一緒に買い忘れたんですか?」
「まあ、そんなところです」
イリーズはそう言うと、帽子を受け取ると彼女に被せる。
彼女は目を見開いて驚いている。
これまでの経験が役に立たないとでも言う様に、彼女は硬直して口をパクパクしている。
「はい、どうぞ」
イリーズに言われて、彼女は恥ずかしそうに帽子の広いツバを掴むと、それで火でも付いたかと思うほど火照った顔を隠す。
「可愛らしいリアクションですねー」
「女の子なんだなー」
店員の女性の言葉に、さらにサラーマが追い打ちをかける様に言うので、彼女はますます顔を火照らせるのを感じたので、さらに帽子で顔を隠す。
「あっはっは。面白いくらいウブな反応だな。そんな奴だったのか、お前」
「う、うるさいわね」
彼女は帽子で顔を隠し、喉を鳴らして自分の頬を叩く。
「サラーマ、せっかくのチャンスを棒に振ったのを分かってる?」
「あん? 何のチャンスだよ」
「今の帽子プレゼント、貴方がすれば見返せたんじゃないの? 恩を売れる機会だったのにね。これで大きな顔出来たんじゃないの?」
「うおーう、しまった。イリーズ、その帽子は俺からのプレゼントって事で頼む」
「いやー、今からはダメでしょうね。被せてあげる役をやらないと」
妖精の二人が言いたい放題なので、彼女は一度咳払いする。
「私、この恩には必ず報いますから!」
彼女が真っ赤な顔で固い決意を口にすると、イリーズはニッコリと笑う。
「僕はその言葉と気持ちだけで十分ですよ。どうも、ありがとうございました」
イリーズは店員の女性に笑顔で言うと、女性も笑顔で頭を下げる。
「こうして見ると、確かに似合ってはいるな。どこからどうみても魔法使いだ」
店を出て、サラーマが彼女の姿を見て言う。
黒くつばの広いとんがり帽子に、マントに見えなくもない黒いロングコート。本来すでに必要無いのだが、念のため持っている杖もあって、確かに見た目には魔法使いに見える。
金色の瞳もあって、この世ならざる迫力がある。
「見た目には確かに似合ってますね。街まで来た甲斐がありました」
「あんまりそんな事言わないで下さい」
彼女は恥ずかしそうに帽子で顔を隠す。
こう言う感情は、これまで彼女が感じた事の無い感情だった。
言葉にしづらいもどかしさ。これまでの彼女のマイナス感情と言うものは、憎しみや怨みであったが、この感情はそれとは違う。
だが、不快ではあるものの不愉快では無い。これまでに感じたことの無い感情は彼女を困惑させていた。
「イリーズ様、今日はもう休みましょう。イリーズ様もお疲れでしょう?」
イリーズの状態を最優先に考えているウェンディーは、今日一日の行動時間が長いイリーズを心配していた。
確かに普段から不健康極まりないイリーズが、今は更に生気すら感じられなくなっている。表情は柔らかい様に見えるが、よく見るとその表情もかなり無理して見える。
「ごめんなさい、私がワガママ言ってるから」
「いえいえ、僕が好きでやってる事ですから。むしろ謝られるこ僕が困ります。でも、お腹空いたし、今日は宿に泊まる事にしましょう。サラーマ、任せられますか?」
「おうとも、俺の一押しの所へ案内してやろう。覚悟しろ、ガキ共」
「覚悟ってなによ」
彼女は妙にテンションの高いサラーマに言うが、ある意味では彼女はサラーマに助けられたところもあった。
得体の知れない感情に振り回されている状態だった彼女だが、サラーマを適当にいじる事で通常の自分を意識する事が出来たのだ。
「ところでサラーマ、何でアナタが案内できるのかしら?」
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