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第一章 世界の果てに咲く花
蜂起 10
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六の少女は雪の巨人の肩に登り直し、自らの頭を破壊した雪の巨人の腕を駆け上がって収容所の防壁の方へ飛ぶ。
このままではまだ届かなかったが、六の少女は雪の巨人に魔力の塊を放つ。
出来ればギリギリまで隠しておきたかったが、出し惜しみして失敗していては話にならない。
図書室には、無造作に販売されていない類の魔導書も入っていた。その書物があれば単純な攻撃魔術という条件付きだが、身に付ける事が出来る。
魔力の流れは初日しか参加しなかった授業の中で学んでいる。その時には熱を加える魔術だったが、攻撃魔術もおおよそ同じである。
六の少女が放った魔力の塊は、雪の巨人の上半身を吹き飛ばす。
その爆風は空中にいる六の少女の小柄な体をさらに飛ばし、有刺鉄線の張られた収容所の防壁の上まで運ぶ。
勢いがつき過ぎていたので、六の少女は木の杖となった片足を有刺鉄線の巻かれた柱に突き刺す様に蹴り出す。
生身の足でやったら足の裏が血塗れになっているところだが、こう言う時には役に立つ。もちろん付け根の部分や股関節にはダメージを受ける事になるが、有刺鉄線に直撃よりはダメージは小さい。
破壊力の割に爆音は無いので、亜人達の起こしている蜂起の騒ぎに水を差す様な事も無い。
雪の巨人の上半身だったモノはただの雪の塊になり、今では不自然な積雪状態が出来ただけである。いかに魔力で生成されたとはいえ、こうなっては動きようがない。
六の少女は防壁の上から西の大地に目を向ける。
そこは生命が生きる事を許さない、呪われた大地。
確かにそう聞いていたし、図書室にあった大量の本からもそういう情報を得ていた。
しかし、実際に防壁の上から西の大地を見ると、同じ様に雪に覆われた穏やかな大地が広がっている。
防壁の西は断崖になっているので、六の少女の予想以上に高さがある。不自然極まる断崖なので、何かしらの魔術の結果なのだろう。
下は森の様だが、とても飛び降りれる様な高さではない。森は北にも南にも広がっているが、西の方に行くと森は途切れて街の様なモノも見える。
(人が住んでるのかな? でも、壁を壊しただけじゃこの断崖は降りれないし、今はこの戦いに集中しよう。冬の間にこの断崖を降りる方法を考えれば、西に逃げれそうね。呪われた大地じゃなければ、だけど)
足元に広がる未知の世界を見ながら、六の少女はそう考えていた。
すでに亜人達は寮では無く本校舎の方へ移動しているようなので、六の少女も防壁の上から正門へ向かおうとした。
その瞬間、六の少女は背中に強く鋭い衝撃を受けた。
危うく防壁から落ちそうになるが、六の少女はかろうじて踏みとどまる。が、その直後、六の少女の背中に焼き付く様な想像を絶する痛みが走り、余りの激痛に叫び声も上げられず意識が飛びそうになって防壁の上に倒れこむ。
何が起きたか理解出来ない上に、冷静に考えようとすると背中から来る激痛がそれ以外の情報を遮断してしまう。
とにかく痛みが酷かったが、状況を確認しようと無理に目を開く。
雪のせいか痛みのせいか、視界は白くぼやけてフラッシュバックしているが、そんな中で自分の周りだけが白ではない色が雪を染めている。赤く染まる雪の原因が、自分の身の回りにあるようだ。
(何コレ。血? もしかして私の血? 切られた?)
雪の舞う冷たい外気の中で、それでも背中だけが焼かれているかの様に痛む。それを意識してからは痛みだけでなく、自分の脈拍に合わせて血液が背中から流れ出していくのも分かる。
「おや、切断出来ると思ったんですが。さすがに頑丈ですね」
空からふわりと防壁の上に現れた人物が、外気に負けない冷たい声で悠然と近付いてくる。
この場に現れるはずの無い男が、六の少女の背後にいる。
「しょ、ちょう……?」
「おやおや、切断できなかったどころか、まだ状況を把握出来る余裕がありますか。これは私の予想を超えていますね」
所長は警戒した様子も無く、無防備かつ無造作に六の少女に近付いてくる。
この収容所の一斉蜂起で、所長は管理能力を問われているはずだった。監督不行届で吊るし上げられているはずだと思っていた。
研究機関の面々を危険に晒した事で怒鳴り散らされているところ、それを取り返す為に六の少女に雪の巨人をぶつけてきたのでは無かったのか。
六の少女はそう思ったのだが、所長はいつも通り悠然としている。
いつも会っていた所長室との違いがあるとすれば、ここが外で所長も厚手のコートを着ているくらいである。
「しょ、ちょう、どうして」
「それはご挨拶ですね。これは貴女が主催した祭りで、私は主賓では無いのですか?」
所長はむしろ笑顔を浮かべて、六の少女に尋ねてくる。
確かに六の少女の計画では、その通りだった。所長はこの一斉蜂起では、最重要の役割だった。
それはあくまでも責任を取らされる立場の話であり、混乱の中心にいるべき人物が六の少女が用意した、所長の役割だったはずだ。
その人物が笑顔さえ浮かべて、悠然と六の少女の前に現れる事など有り得ない。まして今、六の少女がいるのは主戦場や最前線では無く、奇襲の前段階のところに現れる事など考えられない人物が、目の前にいる。
「いや、正直心配したんですよ。もしかしたら、気持ちが折れて反逆自体を諦めてしまうのではないかと思いました。良かったですよ、ちゃんと暴れてくれて。これでここの亜人共を皆殺しに出来るわけですからね」
このままではまだ届かなかったが、六の少女は雪の巨人に魔力の塊を放つ。
出来ればギリギリまで隠しておきたかったが、出し惜しみして失敗していては話にならない。
図書室には、無造作に販売されていない類の魔導書も入っていた。その書物があれば単純な攻撃魔術という条件付きだが、身に付ける事が出来る。
魔力の流れは初日しか参加しなかった授業の中で学んでいる。その時には熱を加える魔術だったが、攻撃魔術もおおよそ同じである。
六の少女が放った魔力の塊は、雪の巨人の上半身を吹き飛ばす。
その爆風は空中にいる六の少女の小柄な体をさらに飛ばし、有刺鉄線の張られた収容所の防壁の上まで運ぶ。
勢いがつき過ぎていたので、六の少女は木の杖となった片足を有刺鉄線の巻かれた柱に突き刺す様に蹴り出す。
生身の足でやったら足の裏が血塗れになっているところだが、こう言う時には役に立つ。もちろん付け根の部分や股関節にはダメージを受ける事になるが、有刺鉄線に直撃よりはダメージは小さい。
破壊力の割に爆音は無いので、亜人達の起こしている蜂起の騒ぎに水を差す様な事も無い。
雪の巨人の上半身だったモノはただの雪の塊になり、今では不自然な積雪状態が出来ただけである。いかに魔力で生成されたとはいえ、こうなっては動きようがない。
六の少女は防壁の上から西の大地に目を向ける。
そこは生命が生きる事を許さない、呪われた大地。
確かにそう聞いていたし、図書室にあった大量の本からもそういう情報を得ていた。
しかし、実際に防壁の上から西の大地を見ると、同じ様に雪に覆われた穏やかな大地が広がっている。
防壁の西は断崖になっているので、六の少女の予想以上に高さがある。不自然極まる断崖なので、何かしらの魔術の結果なのだろう。
下は森の様だが、とても飛び降りれる様な高さではない。森は北にも南にも広がっているが、西の方に行くと森は途切れて街の様なモノも見える。
(人が住んでるのかな? でも、壁を壊しただけじゃこの断崖は降りれないし、今はこの戦いに集中しよう。冬の間にこの断崖を降りる方法を考えれば、西に逃げれそうね。呪われた大地じゃなければ、だけど)
足元に広がる未知の世界を見ながら、六の少女はそう考えていた。
すでに亜人達は寮では無く本校舎の方へ移動しているようなので、六の少女も防壁の上から正門へ向かおうとした。
その瞬間、六の少女は背中に強く鋭い衝撃を受けた。
危うく防壁から落ちそうになるが、六の少女はかろうじて踏みとどまる。が、その直後、六の少女の背中に焼き付く様な想像を絶する痛みが走り、余りの激痛に叫び声も上げられず意識が飛びそうになって防壁の上に倒れこむ。
何が起きたか理解出来ない上に、冷静に考えようとすると背中から来る激痛がそれ以外の情報を遮断してしまう。
とにかく痛みが酷かったが、状況を確認しようと無理に目を開く。
雪のせいか痛みのせいか、視界は白くぼやけてフラッシュバックしているが、そんな中で自分の周りだけが白ではない色が雪を染めている。赤く染まる雪の原因が、自分の身の回りにあるようだ。
(何コレ。血? もしかして私の血? 切られた?)
雪の舞う冷たい外気の中で、それでも背中だけが焼かれているかの様に痛む。それを意識してからは痛みだけでなく、自分の脈拍に合わせて血液が背中から流れ出していくのも分かる。
「おや、切断出来ると思ったんですが。さすがに頑丈ですね」
空からふわりと防壁の上に現れた人物が、外気に負けない冷たい声で悠然と近付いてくる。
この場に現れるはずの無い男が、六の少女の背後にいる。
「しょ、ちょう……?」
「おやおや、切断できなかったどころか、まだ状況を把握出来る余裕がありますか。これは私の予想を超えていますね」
所長は警戒した様子も無く、無防備かつ無造作に六の少女に近付いてくる。
この収容所の一斉蜂起で、所長は管理能力を問われているはずだった。監督不行届で吊るし上げられているはずだと思っていた。
研究機関の面々を危険に晒した事で怒鳴り散らされているところ、それを取り返す為に六の少女に雪の巨人をぶつけてきたのでは無かったのか。
六の少女はそう思ったのだが、所長はいつも通り悠然としている。
いつも会っていた所長室との違いがあるとすれば、ここが外で所長も厚手のコートを着ているくらいである。
「しょ、ちょう、どうして」
「それはご挨拶ですね。これは貴女が主催した祭りで、私は主賓では無いのですか?」
所長はむしろ笑顔を浮かべて、六の少女に尋ねてくる。
確かに六の少女の計画では、その通りだった。所長はこの一斉蜂起では、最重要の役割だった。
それはあくまでも責任を取らされる立場の話であり、混乱の中心にいるべき人物が六の少女が用意した、所長の役割だったはずだ。
その人物が笑顔さえ浮かべて、悠然と六の少女の前に現れる事など有り得ない。まして今、六の少女がいるのは主戦場や最前線では無く、奇襲の前段階のところに現れる事など考えられない人物が、目の前にいる。
「いや、正直心配したんですよ。もしかしたら、気持ちが折れて反逆自体を諦めてしまうのではないかと思いました。良かったですよ、ちゃんと暴れてくれて。これでここの亜人共を皆殺しに出来るわけですからね」
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