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第一章 世界の果てに咲く花
蜂起 1
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一ヶ月は絶対安静を言われていた六の少女だが、動けるようになってからは体中包帯を巻いて、杖をつきながらでも徘徊するようになった。
ルーディールもメルディスも、この少女が大人しくしているとは思っていなかったが、今のところは捕まえようと思えばいつでも捕まえられる上に、今の彼女は逃げようとしても逃げ切れるほど動けない。
なので行動範囲も極端に狭い。
それでも六の少女は本館から寮へ移動して、一階の食堂へ移動していた。
今の六の少女ではあの謎の干物を噛む事は出来ないが、彼女はあの謎の干物に興味があった。
あの干物は一日に一切れを補充されるシステムなのだが、六の少女はその現場を見た事が無かった。また、あの干物の正体も気になるところだったので、食堂で待っていれば補充に来るのではないかと思ったのだ。
とても逃げて回れる状態では無い事は、六の少女も自覚しているので、あえてルーディールにもメルディスにもスパードにも、寮の食堂で休んでいると伝えている。
食堂は基本的には無人である。
強制労働に出された亜人達は夜にならないと帰ってこないし、収容所に残る亜人達はいつでも食事に来れるのだが、朝から夜までは授業があるのでそれほど行動に自由がある訳では無い。
なので食堂に集まるのはある程度決まった時間なのが常である。
六の少女がこっそり食堂に入り、一冊は持って来た本を読んでいると、聞きなれない音が聞こえてきた。
重く軋む音がすると、食堂の壁一面の干物の棚の床の一部が持ち上げられ、見たことのない小人が三人ほど皿を持って現れた。
「兄者! 誰かおるぞ!」
「おお、本当だ! 珍しいのう」
小人は六の少女に気付くと、甲高い声を上げて驚いている。
六の少女も驚いていた。
小柄な六の少女と比べても、この小人は腰くらいしか無い。三人とも老人の様な顔をしているが、行動はキビキビしている。
「亜人?」
「否。我らは妖精である」
六の少女の質問に、三人の小人の内の一人が答える。
「ヌシ等は補充を済ませるべし」
「御意じゃ、兄者」
三人の小人の内の二人が食堂の棚に謎の干物を補充していく。
「ねえ、コレって何かの干物なの?」
「干物か。惜しいのう。ベースは干物であるが、これは我が一族の保存食である」
兄者と言われた小人は、六の少女の前の椅子に座って答える。
「海には特大の魚がおってのう。それを塩漬けにしたモノが主になっとるのだが、それだけでは栄養も偏る上に、塩分を取りすぎる。健康を考えてもそれは良くないのである」
小人は会話が楽しいのか、六の少女の質問に気持ち良く話している。
「我々はこの食事をここに補充する様に契約を交わしたゆえ、こうやって補充しているのである。ここでは気に入ってもらっている様で、我々も毎日補充しているのが楽しいのである」
小人は誇らしげに言う。
残念だが、この干物の味はあまり好評とは言えない。常に飢えている亜人達が、自分の分の食料だけで満足しているのがその証拠なのだが、この妖精達はここがどんな場所なのかも知らないのかもしれない。
ただ、この小人達は無くなった干物を補充する事だけを目的としている様で、毎日一定量を補充しているのが、この干物を気に入っている証だと捉えているのだろう。
「この食べ物って、地下にいっぱいあるの?」
「うむ。あと三百年分はある。遠慮せずに食べるが良い」
「兄者、その者は食事出来そうにないぞ」
補充を済ませた小人の一人が、大怪我をしている六の少女を見て言う。
「ううむ、実にその通り。ここでたまに見かける者は怪我人が多いのである。怪我には気をつけるが良い」
小人の言葉を聞く分には、やはりこの小人達はここがどう言うところなのかを知らず、ただこの謎の干物を補充するだけの存在らしい。
所長が契約している妖精か、召喚獣というところだろう。
確かにこれなら食費も人件費もかからない。
「では我々は行く。体には気をつけるが良い」
小人達三人組は六の少女に別れを告げると、また床下へと帰っていく。
この量の食事を常に用意して、まだ三百年分は残っていると小人達は言っていた。味はともかく、栄養などには妙に気を使っている様でもあった。
この施設では食料に困る事は無い。水も本館にも寮にも屋上にタンクを用意されているので、水に困る事は無い。しかも冬になれば雪が嫌と言う程降るので、収容所に残る亜人達であれば簡単に蒸留する事もできる。
こう言うシステムを見ると、所長の有能さが見えてくる。
食料の確保の手間は想像以上に面倒であり、不満も溜まるところではあるが、徹底した恐怖で抑えながらも毎日の食事を用意する。味が悪くても飢え死にする事も無く、栄養失調で倒れる事も無い様に考えられているのだ。
強制労働に耐える体力を維持出来るという事は、いざという時には暴れる事も出来ると言う事ではあるのだが、所長はそれを鎮圧する自信もあるのだろう。
寮の部屋で四の少女が言っていた事があったが、この収容所でも当然暴動が起きた事はあるらしいが、今のところ成功例は無い。
今の所長が何代目の所長かは分からないが、歴代の所長は暴動が起きたとしても力で押さえつける事が出来たようだ。今の所長も当然その実力はあるが、どちらかといえば未然に防ぐ事の方が向いていると、六の少女は考えていた。
少なくとも現所長は戦闘能力の高さは、六の少女も右足を失った事で低くない事は知っている。だが、所長の怖さは戦闘力以上に、あの全てを読み取っている様な態度と、魂さえも凍えさせそうな声である。
この収容所から逃げる事を考える場合、所長対策は必須であり最大の障害でもある。
一人では太刀打ち出来ないので、やはり一斉蜂起が最も効果的だと六の少女は思う。
協力者として必要な人物の一人はメルディス。彼女以外にこの収容所の亜人を掌握出来る者はいない。
それともう一人。
強制労働に出ている亜人をまとめている人物である。
収容所に残る亜人達とは接点が無いので、六の少女も詳しくは知らないが、数百人の亜人達を集団で行動させる場合、リーダーを立てるのが効率が良い。
必ずそう言う人物がいる。
メルディスは全体の統括も行なっているが、収容所側のリーダーである。収容所から出る事の無い彼女が、強制労働側をリアルタイムで管理する事は出来ない。
(さっきの小人に聞いとくべきだったかな?)
六の少女はそう思ったが、先程の妖精達もここで亜人にあったのは珍しいと言っていたので、情報には疎いと思われる。
六の少女の周りでその情報を知っていそうな人物は、所長、メルディス、ルーディールと言ったところだが、所長は論外、メルディスとルーディールは知っていても六の少女を警戒しているので、そう簡単には教えてくれそうもない。
つまり、役職にない亜人に聞くのが一番だが、そうすると情報が漏れる恐れもある。
役職に無い亜人で知っていそうなのは、四の少女である。
彼女は好奇心旺盛なので、情報通でもある。
食堂までは来れるようになったとはいえ、まだ階段はキツいので部屋には戻れない。この食堂で待っていればいずれは来るだろうが、体力的にそれまで待ってはいられない。
(診療所に戻って、メルディスに聞いてみるか)
六の少女はそう考え、診療所へ戻る。
ルーディールもメルディスも、この少女が大人しくしているとは思っていなかったが、今のところは捕まえようと思えばいつでも捕まえられる上に、今の彼女は逃げようとしても逃げ切れるほど動けない。
なので行動範囲も極端に狭い。
それでも六の少女は本館から寮へ移動して、一階の食堂へ移動していた。
今の六の少女ではあの謎の干物を噛む事は出来ないが、彼女はあの謎の干物に興味があった。
あの干物は一日に一切れを補充されるシステムなのだが、六の少女はその現場を見た事が無かった。また、あの干物の正体も気になるところだったので、食堂で待っていれば補充に来るのではないかと思ったのだ。
とても逃げて回れる状態では無い事は、六の少女も自覚しているので、あえてルーディールにもメルディスにもスパードにも、寮の食堂で休んでいると伝えている。
食堂は基本的には無人である。
強制労働に出された亜人達は夜にならないと帰ってこないし、収容所に残る亜人達はいつでも食事に来れるのだが、朝から夜までは授業があるのでそれほど行動に自由がある訳では無い。
なので食堂に集まるのはある程度決まった時間なのが常である。
六の少女がこっそり食堂に入り、一冊は持って来た本を読んでいると、聞きなれない音が聞こえてきた。
重く軋む音がすると、食堂の壁一面の干物の棚の床の一部が持ち上げられ、見たことのない小人が三人ほど皿を持って現れた。
「兄者! 誰かおるぞ!」
「おお、本当だ! 珍しいのう」
小人は六の少女に気付くと、甲高い声を上げて驚いている。
六の少女も驚いていた。
小柄な六の少女と比べても、この小人は腰くらいしか無い。三人とも老人の様な顔をしているが、行動はキビキビしている。
「亜人?」
「否。我らは妖精である」
六の少女の質問に、三人の小人の内の一人が答える。
「ヌシ等は補充を済ませるべし」
「御意じゃ、兄者」
三人の小人の内の二人が食堂の棚に謎の干物を補充していく。
「ねえ、コレって何かの干物なの?」
「干物か。惜しいのう。ベースは干物であるが、これは我が一族の保存食である」
兄者と言われた小人は、六の少女の前の椅子に座って答える。
「海には特大の魚がおってのう。それを塩漬けにしたモノが主になっとるのだが、それだけでは栄養も偏る上に、塩分を取りすぎる。健康を考えてもそれは良くないのである」
小人は会話が楽しいのか、六の少女の質問に気持ち良く話している。
「我々はこの食事をここに補充する様に契約を交わしたゆえ、こうやって補充しているのである。ここでは気に入ってもらっている様で、我々も毎日補充しているのが楽しいのである」
小人は誇らしげに言う。
残念だが、この干物の味はあまり好評とは言えない。常に飢えている亜人達が、自分の分の食料だけで満足しているのがその証拠なのだが、この妖精達はここがどんな場所なのかも知らないのかもしれない。
ただ、この小人達は無くなった干物を補充する事だけを目的としている様で、毎日一定量を補充しているのが、この干物を気に入っている証だと捉えているのだろう。
「この食べ物って、地下にいっぱいあるの?」
「うむ。あと三百年分はある。遠慮せずに食べるが良い」
「兄者、その者は食事出来そうにないぞ」
補充を済ませた小人の一人が、大怪我をしている六の少女を見て言う。
「ううむ、実にその通り。ここでたまに見かける者は怪我人が多いのである。怪我には気をつけるが良い」
小人の言葉を聞く分には、やはりこの小人達はここがどう言うところなのかを知らず、ただこの謎の干物を補充するだけの存在らしい。
所長が契約している妖精か、召喚獣というところだろう。
確かにこれなら食費も人件費もかからない。
「では我々は行く。体には気をつけるが良い」
小人達三人組は六の少女に別れを告げると、また床下へと帰っていく。
この量の食事を常に用意して、まだ三百年分は残っていると小人達は言っていた。味はともかく、栄養などには妙に気を使っている様でもあった。
この施設では食料に困る事は無い。水も本館にも寮にも屋上にタンクを用意されているので、水に困る事は無い。しかも冬になれば雪が嫌と言う程降るので、収容所に残る亜人達であれば簡単に蒸留する事もできる。
こう言うシステムを見ると、所長の有能さが見えてくる。
食料の確保の手間は想像以上に面倒であり、不満も溜まるところではあるが、徹底した恐怖で抑えながらも毎日の食事を用意する。味が悪くても飢え死にする事も無く、栄養失調で倒れる事も無い様に考えられているのだ。
強制労働に耐える体力を維持出来るという事は、いざという時には暴れる事も出来ると言う事ではあるのだが、所長はそれを鎮圧する自信もあるのだろう。
寮の部屋で四の少女が言っていた事があったが、この収容所でも当然暴動が起きた事はあるらしいが、今のところ成功例は無い。
今の所長が何代目の所長かは分からないが、歴代の所長は暴動が起きたとしても力で押さえつける事が出来たようだ。今の所長も当然その実力はあるが、どちらかといえば未然に防ぐ事の方が向いていると、六の少女は考えていた。
少なくとも現所長は戦闘能力の高さは、六の少女も右足を失った事で低くない事は知っている。だが、所長の怖さは戦闘力以上に、あの全てを読み取っている様な態度と、魂さえも凍えさせそうな声である。
この収容所から逃げる事を考える場合、所長対策は必須であり最大の障害でもある。
一人では太刀打ち出来ないので、やはり一斉蜂起が最も効果的だと六の少女は思う。
協力者として必要な人物の一人はメルディス。彼女以外にこの収容所の亜人を掌握出来る者はいない。
それともう一人。
強制労働に出ている亜人をまとめている人物である。
収容所に残る亜人達とは接点が無いので、六の少女も詳しくは知らないが、数百人の亜人達を集団で行動させる場合、リーダーを立てるのが効率が良い。
必ずそう言う人物がいる。
メルディスは全体の統括も行なっているが、収容所側のリーダーである。収容所から出る事の無い彼女が、強制労働側をリアルタイムで管理する事は出来ない。
(さっきの小人に聞いとくべきだったかな?)
六の少女はそう思ったが、先程の妖精達もここで亜人にあったのは珍しいと言っていたので、情報には疎いと思われる。
六の少女の周りでその情報を知っていそうな人物は、所長、メルディス、ルーディールと言ったところだが、所長は論外、メルディスとルーディールは知っていても六の少女を警戒しているので、そう簡単には教えてくれそうもない。
つまり、役職にない亜人に聞くのが一番だが、そうすると情報が漏れる恐れもある。
役職に無い亜人で知っていそうなのは、四の少女である。
彼女は好奇心旺盛なので、情報通でもある。
食堂までは来れるようになったとはいえ、まだ階段はキツいので部屋には戻れない。この食堂で待っていればいずれは来るだろうが、体力的にそれまで待ってはいられない。
(診療所に戻って、メルディスに聞いてみるか)
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