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第六夜

四人は名乗る

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『……』

 重い沈黙がリビングの中に沈んでいる。

 俯いている人間がふたり。
 カオルも、一条の妹さんも、ふたりともただテーブルを眺めている。
 
 妹さんはたまにカオルの方をチラチラと見ているが、カオルはずっと顔を伏せてしまっている。椅子の端っこの方に座って、少しでも俺の近くに居ようとしているのがわかる。

「はい、おまたせ」
「ああ、悪いな。客人にお茶淹れさせちゃって」
「いいのいいの、私がやりたいって言ったんだから。このお茶っ葉はとっておきだから、素人には任せられないのです。どうぞ、カオルくん。マイストロー持ってるなんてすごいね」
「あ、ありがとうございます……」
「あさひも、どうぞ」
「うん……」

『……』

 カラン、と氷が揺蕩う音が響く。なんだろうか、これは。まるでお見合いのような雰囲気だ。互いに出方を窺っているような、重苦しい空気が場を漂っている。正直言うと気まずい。

 カオルは人見知りなために喋り辛いのだろう。昨日一条と少しは話せたようだが、心を許すまではできていないのかもしれない。

 妹さんもカオルと近い気質のような印象だが、俺に怯えている様子も窺える。俺が小粋な冗談の一つでも言えれば気が休まるのだろうが、残念ながらそんな素養は持ち合わせていない。

 一条はマイペースに自分で淹れた紅茶を楽しんでいる。二人が黙りこくっている様子を見ても、特に気を揉んでいる様子もない。

「……そういえば、今日はどうしたんだ?」
「どうしたって、何が?」
「いや、どうしてウチに来たのかと思って」
「だって、昨日は有耶無耶にして帰っちゃったから。改めてカオルくんにご挨拶をと思って……あ、まだ自己紹介もしてなかったね、私たち」

 こほん、と一条はわざとらしく咳ばらいを挟むと自身に手を向けて話し始めた。

「改めまして、私は一条夕美いちじょうゆうみ。鹿島くんと同じ大学に通ってる同期の大学生です。よろしくね、カオルくん」
「よ、よろしくお願いします……」

 カオルは控えめにぺこりと頭を下げた。

「で、こっちが私の妹の一条朝日いちじょうあさひ
「っ……い、いちじょうあさひですっ……よ、よろしくお願いしますっ!」

 蚊の鳴くような声で、それでも勢いだけは良い自己紹介と共にあさひはお辞儀をした。

「あさひはプリンに釣られてついてきちゃうような子だから、ぜひカオルくんには甘党仲間として仲良くしてあげてほしいな」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! プリンに釣られたなんて言わないでよ!」
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫。カオルくんも甘い物好きらしいから、いっしょにプリンを食べたら仲良くなれるよ」
「そ、そうじゃなくてっ……!」

 明らかに人付き合いが得意そうでない甘党が釣られたプリン。俺の胃には荷が重そうだ。

「あーっと、俺は鹿島建かしまけんだ。一条と同じ大学に通ってるって説明があったけど、今は休学してる。よろしくあさひちゃん……っと、名前で呼んでも大丈夫か? 一条だとお姉さんと被るからな」
「はっ、はい……えと、か、鹿島さん……」
「で、こっちが弟」
「……か、鹿島かおるです。よろしくお願いします」
「よ、よろしく……か、カオル君……」
「うん、えと……一条さん……」

 どうやらカオルは年の近いあさひを名前で呼ぶのが気恥ずかしいらしい。逆にあさひは年齢が離れている俺を名前で呼ぶのが気まずいのだろう。これは本人たちの気持ちの問題か、もしくは俺と一条の差のせいだろうか。

 とにかく、これでようやく四人の自己紹介が終わった。
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