上 下
32 / 114
第四夜

義兄弟は戻れない

しおりを挟む
「カオル……おいっ、カオル!」
「んんぅ……?」

 声をかけるとカオルが眠そうに返事をした。一応起きたらしいが、まだ目は開いていない。

「まだ眠いよ……」
「お前、なんで俺のベッドに寝てるんだよ」
「ケン君のベッド……?」

 カオルの片目がぱちりと開くと、きょろきょろと部屋の中を見渡した。

「あぁ、そういえば……えへへっ♪」

 カオルの顔にふにゃっとした笑みが浮かんだ。どうやら起きた直後は寝ぼけていたのか、自身の部屋だと思っていたらしい。

「おい、なんだその笑みは……。お前なにかイタズラでもしてないだろうな?」
「してないよー。ただケン君といっしょに寝たいって思ったから、夜中に忍び込んだだけー」

 カオルがぴとりと体にくっついてきた。昨日の夜からカオルはずっと上機嫌だ。風呂でも、夕食中も、ニコニコと軽やかに会話を弾ませていた。まさか勝手に布団に潜り込んでくるほどに甘えん坊モードだとは思わなかったが。

「お前、俺の寝相が悪かったらどうすんだよ。寝てる最中にベッドから叩き落してた可能性だってあるんだぞ」
「ケン君はオレにひどいことしないもーん♪」

 カオルの様子は調子に乗っていると言ってもいい。その気持ちもわからないでもないが。

 カオルにとって俺は唯一の介護者だ。自身の命を握っている存在と言ってもいいだろう。その俺が、カオルに口での性的奉仕を行ったのだ。

 通常の介護ならある程度の筋力と優しさがあれば誰でも行える。しかし性的介護は、口淫は違う。それは特別な相手でないと難しい行為だ。

「えへっ……♪」

 俺がカオルを特別扱いした行動を見せたことできっと安心したのだろう。カオルの世界では頼れる人間が俺しかいないから、その俺から特別な愛を感じ取れたことが嬉しいのだろう。

 ふたりの日常における愛情でカオルを安心させきれなかったのは俺の落ち度だ。思っているだけじゃ伝わらない。それは当たり前のことだから。

「少し早いけど起きるか」
「えー、もうちょっと寝てたいなー。ケン君もいっしょに寝ようよ」
「早く起きればそれだけ家事が早く終わるし、メシの準備にも時間をかけられる。俺は起きるよ」
「……じゃあ、俺も起きる」

 カオルが体を起こせと俺にせがんだ。カオルも一人で体を起こせないわけじゃないが、最近はずっとこうだ。

 カオルの体を支えて起こしてやると、カオルが急に声を上げた。

「どうした?」
「ケンく~ん?」

 カオルはニヤニヤと笑っている。嬉しそうに笑みを零しているという表現がぴったりな顔だ。

「ふふー♪ 朝から元気だねー?」
「ん?」
「……えっちー♪」

 エッチ。その言葉でようやく合点がいった。カオルは身体を起こした時に俺が勃起していることに気づいたのだろう。それで、また自分が役に立てると思ったのだろう。

「またオレにしてほしいの?」
「これは朝立ちだよ。別に欲情してるわけじゃない」
「あさだち?」
「生理現象だよ。くしゃみとかあくびと同じだ。ほら、もう落ち着いてきてるだろ?」

 朝立ちは起きた時に勝手に勃起してるという現象だが、体が目覚めるにつれて勝手に鎮静化する。俺の勃起ももう外目からではわからないほどに落ち着いている。

「……ほんとだ」
「だから、別にカオルが気にしなくても大丈夫だよ」
「んー……」
「カオル?」

 カオルは俺の胸に頬を寄せると、上目遣いで俺の瞳を見つめた。

「でも、大きくなったことには変わりないでしょ?」
「まあ、そうだな……」
「ケン君はしたくないの?」

 ここでしたいと言えば、カオルは喜んでしてくれるのだろう。むしろ、カオルの目はしたいと言ってほしそうだった。

「……朝っぱらからすることじゃないだろ」
「じゃあ、また勉強が終わったらする?」
「……カオルがしたいならな」
「えへへっ……じゃあ、今日も勉強がんばるね♪」

 ああ、ついに条件を付けて性行為を許容してしまった。性行為を日常に組み込んでしまった。

 これでもう、俺とカオルの関係は普通には戻れなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

魔族のペット(ネコちゃん)はご主人さまのモノなので

えい
BL
魔族のペットシリーズ。 魔族では強い人間をペット(ネコ)として調教して飼う風習がある。 餌は魔族の精液。ネコ同士でも腹の足しにはなる。ネコ同士でも交尾する。(好き嫌いはある) 両腕のないセンと両脚がなく視力、言葉を持たないナナと、魔族の中ではまともな方のレヴィの話し。 ※レヴィ×セン×ナナ ※センとナナはリバ有

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

食われノンケの野球部員

熊次郎
BL
大学野球部の副主将の荒木は人望も厚く、部内で頼りにされている存在だ。 しかし、荒木には人には言えない秘密があった。

【R18】義弟と義兄の家庭の事情

赤沼
BL
失業中で主夫になっている洋平。 奥さんの弟で、洋平の義弟である恭二。 このふたりには誰にも言えないヒミツがあった。 そんなふたりの家庭の事情。 表紙絵 白猫ナポリ様

水球部顧問の体育教師

熊次郎
BL
スポーツで有名な公明学園高等部。新人体育教師の谷口健太は水球部の顧問だ。水球部の生徒と先輩教師の間で、谷口は違う顔を見せる。

ギリドル!~義理の弟が推す男の娘アイドルが女装した義理の兄だとは言えない件!~

湊戸アサギリ
BL
地元から離れた街で暮らす敏郎。ある日推しの地下アイドルに会いに地元から義理の弟・幸男が来ることに。幸男の推しが実は自分が女装した『男の娘アイドル』のアンナだと言えない敏郎は幸男への想いを抱えつつ、自分をアイドルにした社長・来栖に肉体関係を持ち仕事と同時に調教もされていて…… むっつりアイドルオタク義弟×秘密の男の娘アイドル義兄の衝撃義兄弟BLが始まる!! 女装と男の娘と義兄弟BLが好きな方々、よろしくお願いします!! 今後性描写もありますのでR18にしています。 カクヨムのみの連載のつもりでしたが、こちらでも連載することにしました。 2021/12/4 サブタイに※がある回は性描写があります。かなり生々しいものになるかと…… 2023/6/20 表紙をAIイラストに変更しました。内容が内容だけにお借りしたものだと迷惑かけそうなので……

処理中です...