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主従
安堵
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玲が俺を見ている。
いつまでも返事をしない俺を不思議に思っているのだろう。
ついてきてはくれないのかと不安に思っているのだろう。
普段の人形じみた凛々しい顔は見る影もなく――
凛とした立ち居振る舞いも消え失せていて――
――今、俺の目の前には従者である玲は居らず――
――唯一の頼りである兄に縋り怯える、弟が立っていた。
「……安心しろ、玲」
「っ!?」
頭が判断したのか。
体が知っていたのか。
どちらなのかはわからないけれど、自然と手が動いていた。
「玲が望むなら、俺はついていくから。だから、そんなに不安がらなくても大丈夫だ」
「はっ、はぃ……」
玲のさらさらとした髪の上で掌を滑らせる。
優しく、壊れないように。
何度も、安心できるように。
思えば、これは初めての行為かもしれない。
夜伽の最中に玲の頭を掴むことはあれど、撫でたことは無かったかもしれない。
もしかしたら、憶えていないだけであったのかもしれないけれど。
しかし、こんな気持ちで撫でたことがないのは確かだ。
「っ……」
親父にも、あの人にも、俺は頭を撫でられた記憶はない。
だからおそらく、玲もされたことはないのだろう。
これは、あまりに遅すぎるのかもしれないけれど。
こんなこと、贖罪に数え上げるほどのことでもないだろうけれど。
しかし、玲に対して兄らしい振る舞いができたことが――
――玲を一人の弟として扱えたことが、少しだけ誇らしかった。
俺は宗田の連中とは違うのだと、そう思うことができたから。
「っ……っ……」
「……」
今更だが、玲は頭を撫でられることを嫌がってはいないようだった。
親しい相手でも頭を触られるのは嫌だという人もいるが、玲はそれには当てはまらないらしい。
むしろ、玲は俺の掌を押し上げんとばかりにしているくらいだ。
背伸びをして。
つま先立ちをして。
掌に頭を押し付けてくる。
自身の手が邪魔でその表情はわからないけれども、少なくとも玲が喜んでいるらしいことは確かだろう。
頭を撫でられたことなんてなくて、行為の意味も知らないであろう玲がここまで反応しているのだ。
もしかしたら、なでなでには本能に働きかける作用でもあるのかもしれない。
「……」
「ぁっ……ぅっ……」
しかし、俺はいつまで玲を撫で続ければいいのだろうか。
俺から優しくした手前、玲がなでなでを求めているのに手を引くのはなんとなく忍びなくて――
「……」
「はっ……はぅっ……」
――止め時を見失った結果、俺は玲がハゲないか心配になるくらいまで撫で続けることになってしまった。
いつまでも返事をしない俺を不思議に思っているのだろう。
ついてきてはくれないのかと不安に思っているのだろう。
普段の人形じみた凛々しい顔は見る影もなく――
凛とした立ち居振る舞いも消え失せていて――
――今、俺の目の前には従者である玲は居らず――
――唯一の頼りである兄に縋り怯える、弟が立っていた。
「……安心しろ、玲」
「っ!?」
頭が判断したのか。
体が知っていたのか。
どちらなのかはわからないけれど、自然と手が動いていた。
「玲が望むなら、俺はついていくから。だから、そんなに不安がらなくても大丈夫だ」
「はっ、はぃ……」
玲のさらさらとした髪の上で掌を滑らせる。
優しく、壊れないように。
何度も、安心できるように。
思えば、これは初めての行為かもしれない。
夜伽の最中に玲の頭を掴むことはあれど、撫でたことは無かったかもしれない。
もしかしたら、憶えていないだけであったのかもしれないけれど。
しかし、こんな気持ちで撫でたことがないのは確かだ。
「っ……」
親父にも、あの人にも、俺は頭を撫でられた記憶はない。
だからおそらく、玲もされたことはないのだろう。
これは、あまりに遅すぎるのかもしれないけれど。
こんなこと、贖罪に数え上げるほどのことでもないだろうけれど。
しかし、玲に対して兄らしい振る舞いができたことが――
――玲を一人の弟として扱えたことが、少しだけ誇らしかった。
俺は宗田の連中とは違うのだと、そう思うことができたから。
「っ……っ……」
「……」
今更だが、玲は頭を撫でられることを嫌がってはいないようだった。
親しい相手でも頭を触られるのは嫌だという人もいるが、玲はそれには当てはまらないらしい。
むしろ、玲は俺の掌を押し上げんとばかりにしているくらいだ。
背伸びをして。
つま先立ちをして。
掌に頭を押し付けてくる。
自身の手が邪魔でその表情はわからないけれども、少なくとも玲が喜んでいるらしいことは確かだろう。
頭を撫でられたことなんてなくて、行為の意味も知らないであろう玲がここまで反応しているのだ。
もしかしたら、なでなでには本能に働きかける作用でもあるのかもしれない。
「……」
「ぁっ……ぅっ……」
しかし、俺はいつまで玲を撫で続ければいいのだろうか。
俺から優しくした手前、玲がなでなでを求めているのに手を引くのはなんとなく忍びなくて――
「……」
「はっ……はぅっ……」
――止め時を見失った結果、俺は玲がハゲないか心配になるくらいまで撫で続けることになってしまった。
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