上 下
88 / 185
兄と弟と弟だった人

慣れてきたキャッチボール

しおりを挟む
 それから、キャッチボールと呼べるかどうかも微妙な生温い行為が続いた。

 俺は玲に向かって下手投げでふんわりとボールを投げて。
 玲はそのボールをキャッチできたりできなかったり。

 キャッチできてもグローブに入ることは稀で、
 失敗した時は地面を跳ね転がるボールをとてとてと追いかける。

 そしてその小さな手にボールを収めた後は――

「どうぞ」
「ああ」

 俺に駆け寄ってはボールを手渡ししてくる。

 これではキャッチボールをしているというよりは、犬のボール遊びだ。
 ボールのキャッチが下手な分、犬よりも程度が低い可能性もある。

「いくぞー」
「はいっ……!」
「よっ」
「っ……ぁっ……」
「……」

 数をこなす内に危険ではないと理解したのか、今では玲はすっかりキャッチボールに慣れている。
 怯えることなく両の目でしっかりとボールを追いかけられていて、
 グローブもしっかりと前に出すことができていて、
 そして結構な高確率でエラーをする。

 予想できたというか、わかりきっていたというか、玲の運動神経はかなり絶望的らしい。
 生まれ持った素質なのか、運動経験が少ないせいなのかはわからない。
 わかるのは、どれだけ数をこなしても一向にキャッチが上手くならないということだけだ。

「どうぞ」
「……ああ」

 しかし、ボールを持ってくる玲の顔はどこか満足気な気がする。

 正直このキャッチボールは幼児を相手にしているくらい幼稚だけれども。
 まともな娯楽の経験がないからか、それでも玲は楽しめているのかもしれない。

 一方、付き合わされている俺としては退屈なことこの上なかった。

 ただただ優しくボールを投げて、
 そして玲がノロノロとボールを返しに来るのを待つだけ。

 親と子の関係であればこの行為でも充実感を味わえるのかもしれないけれど、俺の相手は玲だ。
 何が楽しくて玲の為にこんな退屈に甘んじなければならないのか。

 せめて玲に耳と尻尾でも生えていれば、その反応で退屈を紛らせたのかもしれないが。
 しかし、それなら犬相手に遊んでいる方がまだマシか。

「っ……!」

 久方振りに玲が腕と胸でボールを挟む形でキャッチした。
 相変わらずグローブをしている意味の無い捕球だけれども、それでも玲は達成感を得ているようだ。

「どうぞ」
「……」
「一宏様?」
「玲、そろそろボールを投げてみないか?」
「えっ……」

 いい加減我慢できなくなってきた。
 本当は珠美が言い出してくれないかと待っていたが、これ以上は待っていられない。

 玲もキャッチボールに慣れてきているし、もうボールを投げるくらいならできるだろう。

「……かしこまりました。では、僭越ながら私が一宏様にボールを投げさせていただきます」

 そんな畏まるようなことでもないはずなのだが。

 玲は硬い所作で俺から5メートルほど離れると――

「では……参ります」
「おう」
「ふっ……」

 ボールを持った手を下から降りあげた。

「…………」

 ふわりと浮いたボールは放物線を描いて――

「…………」

 ――そして、玲の手から3メートルほど離れた地面にバウンドして転がり、
 俺のつま先にぶつかった。

「…………」
「…………申し訳ありません」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男

湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です 閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

女子に間違えられました、、

夜碧ひな
青春
1:文化祭で女装コンテストに強制的に出場させられた有川 日向。コンテスト終了後、日向を可愛い女子だと間違えた1年先輩の朝日 滉太から告白を受ける。猛アピールをしてくる滉太に仕方なくOKしてしまう日向。 果たして2人の運命とは? 2:そこから数ヶ月。また新たなスタートをきった日向たち。が、そこに新たな人物が!? そして周りの人物達が引き起こすハチャメチャストーリーとは! ちょっと不思議なヒューマンラブコメディー。 ※この物語はフィクション作品です。個名、団体などは現実世界において一切関係ありません。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

処理中です...