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一日目:いつものふたりで、いつもどおりに

それは自己を晒す行為

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「と、とにかくさ、気持ちよくなるだけならひとりでもいいじゃんか……」

 しばらくしても喋りださない抄を見かねて、ボクはなんとか口を開いた。
 どう考えてもボクよりも抄の方が傷が深く、フォローしなければという義務感に駆られたのだ。

「……」

 そんなボクの言葉に、抄は返事こそしなかったものの顔を上げてコクコクと頷いてみせた。
 その顔ははにかんでいるものの、大分気を持ち直したようだった。

「それで、ショウはセックスをすると相手のことが深く知れるって言ってたけど、相手を知る方法はそれ一つしかないわけじゃない。現に、ボクはショウのことを良く知っている」

 当然だがボクは抄とセックスをしたことはない。
 それでも、ボクと抄は親友と称せるほどには付き合いが深く、互いのことを良く知っている。

「ああ、俺もタクの事は良く知ってるな」
「そうだろ? 別にボクたちは何も難しいことはしてない。ただ気が合って、一緒に楽しいことをしてただけだ。ショウ曰く、心理戦やら騙し合いが必要なセックスなんてしなくてもお互いの事を知れて、気持ちよくなるだけならそれこそ一人で事足りる。それなら、ショウがセックスに固執する理由はなんなんだ?」

 ボクの言葉を受け止めて、抄は満足気に微笑みながらうんうんと頷いてみせた。
 どうやらボクは抄好みの質問をしたらしい。
 気まずかった雰囲気ももうどこかへ行ってしまったようだ。

「タクの言いたいことはわかるぜ。現に、俺が人となりを良く知っている人間を上位から数えれば、それは家族とタクだ。俺がセックスをしたことがある人間は皆無だ。だから、俺が人を深く知るためにセックスを好むのは理に適っていない。一見そう見えるかもしれない。でもさ、俺がタクのことを良く知っているのは、それだけ時間をかけたからじゃないか?」
「あー……」
「わかったか? セックスならさ、一夜で相手を知ることができるんだよ。一週間で7人の人間を深く知ることも可能なんだ」

 可能だとしても、それを実行する人間がいるとも思えないけれども……今の発言が抄の実体験なのかどうかを訊ねることはボクにはできなかった。

「それに加えて、人と人が仲良くなって、交流を深めて、互いを知るのには、気が合うかどうかが重要だと思わないか? 俺とタクは仲違いすることもなく疎遠にもなってないけど、少なくとも気が合っていないと無理だっただろ?」
「そうだろうけど……それはセックスも同じじゃないのか? 気が合わない相手とはしないだろ?」
「初見の相手と気が合うかどうかなんて、すぐにはわからないだろ? セックスはさ、相手を知ることができるだけじゃなくて、気が合うかどうかまでわかるんだよ」

 まるでセックス万能説だ。

「相手のことを知れる。気が合うかどうかもわかる。なんなら、気が合わなくても一度始めたらとりあえずで最後まではするから、気が合わない相手のことまで知ることができる。その代わりに難しいんだ。セックスまで行くのも、セックス自体もな」

 これが抄がセックスに熱を上げている理由。
 知らない相手とのセックスを否定するボクに、知らないからこそセックスが最善なのだと諭す根拠。

「ま、セックスだけじゃわからない部分もたくさんあるけどな。でもそれは逆も言えて、セックスをしないとわからないこともある。俺とタクとの間でもな」

 それは自然と。
 示し合わせたわけでもなく。
 ボクと抄の視線が交差した。

『……』

 諦観しているような。
 微笑んでいるような。

 はたしてその瞳にどのような思いが込められているのか。
 これからどれだけ時が流れようとも、きっとそれだけはボクにはわからないのだろう。
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