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親睦偏
ホテルで物思いに耽りました
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翠がツキといっしょにラブホテルに入るのはこれで3度目であり、
翠の人生単位でもこれが3度目である。
つまりは翠はツキ同伴でしかラブホテルに来たことがなく、
3度も来ているのにこの施設の本来の目的を果たしたことは1度も無い。
しかも、ラブホテルに来ている相手からは好意を向けられていて、自身も少なからず好意を持っているのだ。
それなのに未だ童貞となると、何も知らない人からはヘタレだと揶揄されそうなものだけれど。
しかし、相手の性別を知ればそれも仕方ないと納得されることだろう。
女性は同性だとしても、女子会なるラブ以外の目的でラブホテルを利用することがあるらしい。
一方で男性のそういった話は聞いたことがない。
男子会なるものの存在も、ラブホテルをラブ以外の目的で利用することも。
したがって、互いに性別が男性である翠とツキがここに来た時は、いつだってラブが目的だった。
1度目は、ツキが翠にラブをしたと誤認させるためで。
2度目は、女性だと誤認していたツキとラブをするためで。
3度目である今回は――
「…………」
静かな部屋の中にシャワーの水音が響く。
2回目の時と同じように、翠を部屋に置いてツキがシャワーを浴びている。
ツキはラブをする気満々なのだろう。
ツキが誘って、翠はそれに乗ってここまで来たのだから。
翠もする気なのだと思うのが自然だ。
ツキの誘いに乗った以上、翠にその気が全くないわけではない。
場合によっては、そうなっても仕方ないという覚悟は持っている。
あの時のように、涙を流して嫌がるような醜態は晒さない。
しかし、ツキとのラブを心から望んでいるわけでもない。
同性とのラブに対する生理的な嫌悪感はまだ残っている。
同性相手に童貞を捧げてよいのかという葛藤もある。
そして何より、今日童貞を捨てれば、明日からツキとの関係が逆転してしまう。
今まではツキが翠を求めていた。
けれどラブをすれば、きっと翠がツキを求めることになる。
今までツキに食われてきた童貞たちと同じように。
明日にはツキは次の童貞を探し始めていて、翠には見向きもしなくなるのだろう。
本当に性質が悪い。
人のことをこれだけ煽っておいて。
人の価値観をこれだけめちゃくちゃにしておいて。
いざそっち側に踏み込めばさようならなのだから。
翠が童貞を失くしたら興味を失くすのに、
童貞の間はあんなにも構ってくるのだから。
ツキを繋ぎ止めるには、それこそ物理的に繋いでおくしかないらしい。
鎖でつないで、監禁して、奴隷にするしかなくて。
ツキもそれを望んでいる。
しかしそんなことは翠にはできない。
ツキは見込みがあるとか言っていたが、自分のことは自分が一番わかっている。
どれだけツキに惹かれていようとも、犯罪紛いのことは翠にはできない。
だからいっそのこと、ここでツキとの縁を切るという選択肢もある。
童貞でなくなればツキは興味を失くし、家に押し入ってくることも、デートに誘って来ることもないのだから。
翠がツキのことを忘れられるのであれば、きっとそれが一番平穏な選択肢だ。
ただ、問題なのは――
「簡単には忘れられなさそうなんだよな……」
今も目を瞑れば、ツキの顔が思い出される。
無邪気で、
楽しそうで、
可憐で、
すぐ隣で笑っている姿が脳裏に焼き付いている。
そんなツキと一線を越えておいて、全てを忘れなければならないなんて。
それこそ、無理難題ではないだろうか。
翠の人生単位でもこれが3度目である。
つまりは翠はツキ同伴でしかラブホテルに来たことがなく、
3度も来ているのにこの施設の本来の目的を果たしたことは1度も無い。
しかも、ラブホテルに来ている相手からは好意を向けられていて、自身も少なからず好意を持っているのだ。
それなのに未だ童貞となると、何も知らない人からはヘタレだと揶揄されそうなものだけれど。
しかし、相手の性別を知ればそれも仕方ないと納得されることだろう。
女性は同性だとしても、女子会なるラブ以外の目的でラブホテルを利用することがあるらしい。
一方で男性のそういった話は聞いたことがない。
男子会なるものの存在も、ラブホテルをラブ以外の目的で利用することも。
したがって、互いに性別が男性である翠とツキがここに来た時は、いつだってラブが目的だった。
1度目は、ツキが翠にラブをしたと誤認させるためで。
2度目は、女性だと誤認していたツキとラブをするためで。
3度目である今回は――
「…………」
静かな部屋の中にシャワーの水音が響く。
2回目の時と同じように、翠を部屋に置いてツキがシャワーを浴びている。
ツキはラブをする気満々なのだろう。
ツキが誘って、翠はそれに乗ってここまで来たのだから。
翠もする気なのだと思うのが自然だ。
ツキの誘いに乗った以上、翠にその気が全くないわけではない。
場合によっては、そうなっても仕方ないという覚悟は持っている。
あの時のように、涙を流して嫌がるような醜態は晒さない。
しかし、ツキとのラブを心から望んでいるわけでもない。
同性とのラブに対する生理的な嫌悪感はまだ残っている。
同性相手に童貞を捧げてよいのかという葛藤もある。
そして何より、今日童貞を捨てれば、明日からツキとの関係が逆転してしまう。
今まではツキが翠を求めていた。
けれどラブをすれば、きっと翠がツキを求めることになる。
今までツキに食われてきた童貞たちと同じように。
明日にはツキは次の童貞を探し始めていて、翠には見向きもしなくなるのだろう。
本当に性質が悪い。
人のことをこれだけ煽っておいて。
人の価値観をこれだけめちゃくちゃにしておいて。
いざそっち側に踏み込めばさようならなのだから。
翠が童貞を失くしたら興味を失くすのに、
童貞の間はあんなにも構ってくるのだから。
ツキを繋ぎ止めるには、それこそ物理的に繋いでおくしかないらしい。
鎖でつないで、監禁して、奴隷にするしかなくて。
ツキもそれを望んでいる。
しかしそんなことは翠にはできない。
ツキは見込みがあるとか言っていたが、自分のことは自分が一番わかっている。
どれだけツキに惹かれていようとも、犯罪紛いのことは翠にはできない。
だからいっそのこと、ここでツキとの縁を切るという選択肢もある。
童貞でなくなればツキは興味を失くし、家に押し入ってくることも、デートに誘って来ることもないのだから。
翠がツキのことを忘れられるのであれば、きっとそれが一番平穏な選択肢だ。
ただ、問題なのは――
「簡単には忘れられなさそうなんだよな……」
今も目を瞑れば、ツキの顔が思い出される。
無邪気で、
楽しそうで、
可憐で、
すぐ隣で笑っている姿が脳裏に焼き付いている。
そんなツキと一線を越えておいて、全てを忘れなければならないなんて。
それこそ、無理難題ではないだろうか。
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