上 下
28 / 149
追及偏

飲まれました

しおりを挟む
「お待たせしました」

 ツキがお盆を持って戻って来る。
 お盆の上にはカルーア、牛乳、おつまみの盛り合わせ、そして――

「ああ、すみません。飲みかけを持ってこさせてしまって」

 カウンターに放置してしまっていたウーロン茶も乗せられていた。

「いえ、私が強引に引っ張ってきてしまったのが悪いので。チェイサーとしてお飲みになられますか?」

 昨日のように酔い潰れるわけにはいかない。
 悪酔い防止として、ソフトドリンクは手元に置いておいた方がいいだろう。

「はい、いただ――」
「あの……もしよければ、私がいただいてもいいですか……このウーロン茶」
「え?」
「喉が渇いちゃって……だめでしょうか?」

 お盆をテーブルに置いたツキが、ウーロン茶の入ったグラスを両手で持った。

 熱っぽい瞳に赤らんだ頬は、喉が渇いても仕方ないと思えるほどに火照っているように見えてしまう。

「い、いや、それは飲みかけですから。新しいのを注文しますよ」
「……これがいいんです。これを、私にいただけませんか?」
「で、でも……き、汚いですよ……」
「……くすっ♡ 昨日あんなことまでしておいて、今さらそれを言っちゃうんですか?」
「っ!」

 それは、昨日も見たツキの笑顔。
 可憐さと恐ろしさを併せ持った、小悪魔/捕食者の微笑み。

 昨日ツキと体を重ねたのだとしたら、唇だって重ねていてもおかしくない。
 口でも、きっと下でも、体液の交換は行われていて。
 間接キスで動揺している姿は滑稽でしかないのだろう。

 グラスを持ったツキが隣に座る。
 これでもかとツキは体を密着させて、耳元へ口を寄せると――

「……いただきますね♡」

 殆ど吐息でしかなかったその宣言は、
 止める間もなく脳の中へとすり抜けていって――

 ツキは両手で持ったグラスを見せつけるようにして、茶褐色の液体を呷った。

「んっ……んっ……んくっ♡」

 こくこくと、飲んでることを強調するかのように喉を鳴らして。
 味わうかのように瞳を閉じながら。
 飲みかけのウーロン茶をツキは体内へと流しこんでいく。

 止めることもできずに、ただ眺めていることしかできない。
 魅了されるというのは、きっとこういうことなのだ。

 頭ではツキにペースを握られていることがわかっていても、
 心が屈服し始めているのを理解していても、
 気持ちよすぎて思考が服従に傾いてしまっている。

 脳をツキに侵されているというのに、
 むしろもっと犯してとせがんでしまいたくなるような、
 そんな感覚だ。

「ぷはっ……ごちそうさまでした♡」

 空になったグラスを、ツキはこつんとテーブルに置いた。

「アキラさんのウーロン茶、とっても美味しかったです……♡」
「そっ、それならよかったです」
「それじゃあ、すぐにアキラさんの為にカルーアミルクをお作りしますね。アキラさんは私の作ったカルーアミルクがお好きですもんね?」
「え、ええ……好きですよ」
「……ちゃんと、言ってほしいです」
「え?」
「むーっ……アキラさんは、誰の作ったカルーアミルクでもいいんですか?」

 唇を尖らせて、頬を膨らませて、ツキはわかりやすく不満を示して見せた。
 その仕草は見た目通りの天真爛漫さで、不満気なのに愛らしさが隠しきれていない。

「えっと……ツキさんの作ってくれるカルーアミルクが好き、です……」
「……えへへっ……ありがとうございます……」

 照れ笑いを浮かべながら、ツキは新しいグラスにカルーアミルクを作り始めた。

 昨日の時点では、ツキはどちらかというと人見知りな部類だと思っていた。
 しかし、今日のツキはあまりにも人懐っこくて甘え上手だ。

 親しい相手にはこうなる、ということなのだろうか。

「……あの、アキラさん。私も、飲んでいいですか?」
「ええ、もちろん。牛乳でもウーロン茶でも、ツキさんもお好きに――」
「これ、飲んでもいいですか?」

 そう言ってツキが掲げたのは作ったばかりのカルーアミルクだった。

「お酒ですか? でも、ツキさんはお酒は飲めないって……」
「飲めないですけど……飲んじゃいけないわけではないので……今日は飲みたいなーって思って……」

 どうやらツキは未成年ではなかったようだ。

 未成年と性行為に至った可能性がゼロになったことに安堵していると、
 胸にぽてんとツキの頭が降ってきて――

「アキラさん……私、酔っちゃってもいいですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男

湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です 閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします

不良の兄が突然女装に目覚めたらしいけどめちゃくちゃ可愛いかった話

綾菜
BL
熊金マサユキは兄貴の女装姿を見てしまった。 しかも困ったことにめちゃくちゃタイプ。 不良である兄貴ハルカのことは大嫌いだけど、女装した兄貴ハルちゃんにはデレる、デレる。 デレデレである。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

処理中です...