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第六章 第一節

深い夜

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ケンジとユキナは、皆が寝静まったのを確認すると、テーブルの椅子に向き合って座る。二人の間は、何と無く重い空気に包まれている。それもそうでしょう、二人共真剣な面持ちなのですから。

ユキナから切り出す。
「ケンジさん。タカシさんは、その…。」

ケンジは真剣な面持ちから一転して、明るい笑顔で
「大丈夫です。タカシなら、大丈夫です。」
「アイツには、俺も、ナオヤも、アイツの兄貴に御両親。ミーも、ユキナさん、貴女も居る。更には、親友のシゲノブが居る。皆んな、お互いを想い、お互いに見守っている。そんな恵まれたアイツが、死んだりなんてしないさ。」

ケンジの眼には、明るい笑顔とは裏腹に、涙が溢れていた。

それを聞きながら見ていたユキナは、頷いて
「そうね。皆んな居ますね。私もおチカラ添え、惜しまないわね。」

ユキナは笑顔で返す。

一呼吸置き、二人共コーヒーを一口啜る。

ケンジは徐に、昔話を始める。
「タカシが。アイツが最初に俺達の前に現れたのは、師匠が雪の降るクリスマスイブの夜に、ゴミ捨て場に倒れていたアイツを拾って此処へ連れ帰った時だったな。あの時のアイツは、障り猫に取り憑かれて、猫耳の少女に化けていたな。身なりがボロボロだったが、あの時のアイツを見て、皆んなあまりの可愛さに自分がお風呂に入れるんだって、喧嘩になって、同じ女性のユキナさんが自分が入れます!って言ったら、アイツ、自分は男だ。って怒って。その怒った顔も可愛いくて、皆んなキュンキュンしちゃってたな。」

ユキナも続けて
「そうそう、私が入れますって言ってるのに、男だなんて嘘つかないの!なんて、叱ってみたりね。」

ケンジは笑いながら
「はははは、そうでしたね。そんなアイツは、結局一人で風呂入ったかと思ったら、急に風呂場から悲鳴が聞こえて来て、皆んなで行ってみたら、アイツは、俺の身体は何処へいったんだよ~。此れは誰の身体なんだよ~。とか騒いでいたり。」

ユキナも笑いながら
「ふふふ。そうそれで、弟が元の身体に戻りたかったら、此処で修行しろ。て云う具合にね。」
「どれも懐かしい思い出ね」

ケンジ
「はい。そうですね。」

二人和んでいましたが、ケンジは急に思い出したかの様に
「おっと、その話も大事でしたが、今晩話しておきたかったのは、師匠の使い魔だった三姉妹のサキュバスについてです。」


ユキナ
「あぁ。あの三姉妹さんね。貴方達三人を探していたわね。」

ケンジ
「やはり、知っていましたか」
「如何して俺達なんかを主に?」

ユキナ
「それなんですけどね。本人達は伏せているけれども、サキュバス間の派閥争いで、どうしても、より魔力の強い主を求めているらしいの。只でさえ魔力の強い人なんて、珍しいじゃない?それが三人も揃っていて、丁度三姉妹の数にもピッタリ。そんな訳みたいらしいわよ。」

ケンジは溜息をはきながら
「はぁ。そんな事だろうと思っていましたが、まさかの予想をドンピシャで来るとは。単純と云うか何と言って良いやら。はぁ…。」
「それで、持っていた小瓶は恐らくは、媚薬かなんかだったんでしょうね。誘惑して主にするつもりだったと。はぁ。全く持って、単純。」

ユキナ
「なってあげなさいよ。主様に。あの娘たちはきっと貴方達のチカラになるわよ。」

ケンジは頭を抱えて
「そうかもですけど。サキュバスですよ。師匠みたいに振る舞える自信が無いですよ。」

ユキナは真剣な眼差しで
「其処は修行よ。頑張りなさい。」

ケンジは頭を抱えたまま
「はぁ…。やっぱり、なってやらないと丸く収まりませんかね。寝ながらでも考えときますよ。」
「もう寝ますかね?」

ユキナ
「そうね。もう、夜も深いわ。寝ましょうね。」

そう言うと、二人共コーヒーを飲み干して、自分の床の間へと向かう。
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