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幼少期編

12 喧嘩の後はきちんと謝るんです

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「かしこまりました。では、給仕に伝えておきますね。準備が整い次第ご案内致しますので、暫くこちらでお待ち下さい」

 そう言うとシンリーは出て行った。
 レティシアはベッドから降りると部屋をウロウロと歩き出した。

 スライディングの距離を測る為だ。

(スライディングは距離とタイミングが命……!)


 レティシアはヤル気満々だった。


 沈思黙考していると扉のノック音が聞こえた。シンリーが迎えに来たようだ。

(廊下でバッタリ出会うのが理想的! 偶然という名の奇跡が起きますように!!)

 シュミレーション通りに行くか分からないが、ぶっつけ本番で行くしかない。
 レティシアは覚悟を決めた。

「どうじょー」

 その声に扉のドアが開かれた。その先にいたのは……。


「……にいたま……」

 ユリウスが少し困ったように立っていた。

「レティシア……。少し、良いかな。君と、話がしたくて。……僕がここに居ることはシンリーさんも知っているから。……あの、……入っても、良いかな……?」
「ふ、ふあい!! どうじょ!!」

 混乱したレティシアはテンパった声で了承した。ユリウスは安心した様に微笑んで部屋へと入った。レティシアは混乱しながらも部屋のソファーへ誘導した。

 ユリウスが座るのを確認してからレティシアも向かい側に座る。

(しまった! スライディング土下座のタイミング逃した!!)

 ……こうなっては仕方がない。言葉で伝えるしかない。レティシアは勢いよく頭を下げた。

「「さっきはごめん!!」なちゃい!!」

 声が被る。
 驚いて顔を上げるとユリウスも下げた頭を上げる所だった。二人の視線が交わる。

「どうちて、にいたまがあやまりゅのでしゅか……?」
「どうしてって、レティシアに酷いこと言ったから……。レティシアこそどうして?」
「どうちてって、にいたまをひっぱたいちゃたかりゃ……。にいたまと、なかりょくなりたかったのに、あんなことしちゃたから…。……あにょ、わ、わたちのこと、きりゃいになちゃた……?」

 ユリウスはかぶりを振った。

「レティシアを嫌いになんてならないし、むしろ何も悪くないよ。悪いのは僕の方だ」

 そう言うと、少し辛そうに瞳を細め俯いた。

「……僕はね、大好きな父さん母さんと一緒にいられるだけで幸せだったんだ。……でも、父さんが死んだって聞かされて。死んだ父さんの後を追うように母さんまで。……二人の命を奪ったこの世界を心の底から恨んだよ。ルシータさ…義母さん…や義父さん…が家族になろうって言われた時も、どうせ口だけだと半ば自暴自棄になってた」

「にいたま……」

 ユリウスはゆっくりと視線を動かしてレティシアを見た。

「でもね、君の平手打ちのおかげで目が覚めたんだよ」
「ほぇ? めめめ…め、めじゃめた?!」

(……も、もしかしてMに目覚めちゃった? ごめんっそんなつもりはなかったんだけど……でもアリ、かもしれない)

「君が……レティシアが怒ってくれてなかったら、僕はきっと今も、そしてこれからも、この世界を恨み続けてたと思う。でも、そうじゃないってレティシアが気づかせてくれたんだよ」

 ゆっくりと立ち上がってレティシアの隣に座ると、レティシアの髪を優しく撫ぜた。

「……僕、頑張るよ。ちゃんと前を向いて生きていく。皆の気持ちに報いる為にも、自分自身のためにも。父さんや母さんも、きっとそれを望んでいるだろうから」

 真っ直ぐにレティシアの瞳を見つめた。

「……大切なことを気付かせてくれて、ありがとう。……レティ」

 ユリウスの憑き物がとれたような柔らかい笑顔に、レティシアは自分の馬鹿野郎な勘違いを頭から勢いよく追い出した。

 そしてさも『分かってくれると信じてたよ』と言いたげな優しい微笑みを浮かべた。

「どういたちまちて」

 最後だけは完全な顔詐欺だった。



 その後、不安だった筈の昼食はとても楽しいひと時となったことは、言うまでもない。
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