11 / 25
幼少期編
11 本当の兄妹になりたいんです
しおりを挟む「……この、ばかちんがーー!!」
パチーンっ!
三歳の平手打ちがユリウスの頬に炸裂した。手のひらが小さい割になかなかの音が中庭に響いた。
「こうしゃくけはへーみんをようしにしたぐりゃいで、かみぇいにきじゅがちゅくなんてあるわきぇないでしょ!! おとーたまとおかーたまはね、かんがえたしゅえにあにゃたをようしにしゅるときみぇたの!! かじょくにむかえりゅってきめたの! しょのきもちをむだにしゅるき!? こじいんがどりぇだけたいへんなとこりょか、あにゃただってほんとはわかってりゅでしょ! こどもなんだかりゃこーいうときはあまえりぇばいいんでしゅ! めいわくかけりゅとおもうのなりゃ、がんばりなたい! がんばってりっぱなこうしゃくのこになりぇばいいんでしゅ。
わたちの…ほんとのあにになってほしいのでしゅ!!」
一気に捲し立てて喋ったので息が上がる。ユリウスは呆然とそんなレティシアを見ている。
右頬には、くっきりと小さな手のひらの跡が付いていた。
その顔を見たレティシアはハッと我に返った。
呆然とレティシアを見つめるユリウスに、どう何を言えばいいか分からなくなり、混乱したレティシアは居た堪れなくなって庭に逃げる様に走り出した。
庭は美しい花ばなが咲き誇っている。イングリッシュガーデンのような中を通り抜け、庭木の間を暫く走り続けると突然視界が開け、先には花畑の中央に大きな噴水が見えた。
レティシアは近づいて噴水の淵に両手を置くと、勢いよく顔を項垂れた。
(……やっちまった……!!)
仲良くする筈が引っ叩いた上にキレてしまった。何をやっているんだ自分は。
レティシアは自責の念に苛まれた。
「レティシア様」
その声に顔を上げると、シンリーが花畑を歩いてくるのが見えたが、再び下を向いた。
「……シンリー。どうちよ……わたちにいたま、たたいちゃた……」
「レティシア様」
「にいたま、わりゅくないのに。あーゆことゆうのしかたないことなのに、たたいちゃた……」
瞳からあっという間に涙が浮かんでくる。
「……確かに叩いたのは良くありませんでしたね。でも、あの時仰られた言葉は、全て間違っておりません」
その言葉に涙がポロポロと流れ出た。シンリーはレティシアの前に屈み込むと、優しい眼差しを向けた。
「悪かった事は後できちんと謝れば良いのです。そうすればきっとユリウス様は許してくれます。私はそう、思います」
「ごめん…なさい…!」
堪らずシンリーの胸に飛び込むと、勢いよく大声で泣き出した。
「レティシア様、謝る相手が違いますよ」
優しくレティシアを抱きしめると、その背中を優しくあやす様にポンポンとリズムよく叩いた。
「大丈夫、大丈夫」
懐かしいその響きを聴きながら、止まらない涙を流し続けた。
***
気が付いたら自分の寝室に寝かされていた。泣き疲れて眠ってしまっていた様だ。
ゆっくり上半身を起こすと、窓をぼんやりと眺めた。窓から漏れる日差しの明るさからそんなに時間は経っていないのが窺い知れた。
部屋を見回してみたがシンリーは見当たらない。レティシアは大きなため息を吐いた。
(……やってしまった事は仕方がない。シンリーが言ってくれた様にきちんと謝ろう。もし許してくれなくても、仲良くなる事をやっぱり諦めたくない……!)
失敗してもクヨクヨして逃げ出す事はもうしないって心に決めたのだ。
レティシアとして生まれてまだ三歳。これしきの事でへこたれている場合ではない。
気合を入れるように両手で両頬を軽く叩いた。
謝るとしたら全力で謝らなければ。
(だったらあれをやるしかない……!)
スライディング土下座だ。もうアレしかない。
どのタイミングでスライディングするか悩んでいると、遠慮がちな小さいノック音とともにシンリーが部屋に入ってきた。レティシアが起きているのに気がつくと笑顔を浮かべてベッドに近づいた。
「お目覚めでしたか、レティシア様。ご気分はいかがですか?」
「だいじよーぶ。めーわくかけてごめんね」
「謝られることではございませんよ。……そろそろご昼食の時間でございますがいかがなさいますか? こちらにご用意することも出来ますが……」
気を遣わせてしまっている様だ。しかしここで逃げる訳にはいかない。意を結したようにはっきりとした口調で答えた。
「だいじょーぶ。たべにいく。ユリリュシュ…ユ・リ・ウ・シュにいたまといっしょにたべりゅ」
6
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる