上 下
5 / 40
幼少期編

5 お父様はイケメンなんです

しおりを挟む
 案内されて到着したのは重厚で立派な扉の前。
 立派な扉だが客間の扉の様な華やかさはない。どうやら執務室か書斎のようだ。

 初めての場所にちょっと興奮しているレティシアに気付くことなく、シンリーは扉をノックした。

「失礼致します。レティシアお嬢様をお連れ致しました」
「入れ」

 低音のハスキーボイスが部屋の中から聞こえた。その声を聞いてレティシアはシンリーが扉を開けると同時に中へ小走りに入った。

 部屋の中は落ち着いた雰囲気のザ・書斎な場所だった。窓がなく壁一面に本棚が並んでいる。
 中央にソファーとテーブルがあり、その奥にどこぞの社長が使いそうな重厚で立派な机があった。

 レティシアの父、レオナルドは中央のソファーに座ってこちらを見ていた。
 その後ろには執事のセバスが佇んでいる。
 セバスはグレーの長い髪を一つ括りにして、紺の目に片眼鏡モノクルを掛けた60歳位のとてもダンディーな執事さん。レオナルドの子供の頃からの爺やさんだ。レティシアを優しい眼差しで見ている。

「おかえりなたい! おとーたま!」
「ああ。ただいま、レティ」

 レティシアの父である、レオナルド・アームストロング公爵。
 柔らかいダークグリーンの髪にレティシアの右眼と同じエメラルドグリーンの瞳。190センチはありそうな高身長。高位な貴族の服が良く似合う美丈夫だ。

 レティシアは笑顔をいっぱいにして父に駆け寄った。

 レオナルドはソファーから立ち上がりレティシアの方に近寄ると、脚にしがみ付いたレティシアを優しく抱き上げた。

「誕生日おめでとう、レティ。プレゼントは気に入ってくれたか?」
「うんっ! かわいいネックリェシュあいがと! みてみて、にあう?」

 抱っこされながらネックレスを指差して、早速着けてますよーと言いたげにアピールした。

「ああ、とても良く似合う」

 いつもは鋭い眼光を放っている瞳が優しく細められる。いつも忙しいだろうに、レティシアを邪険に扱う事なく常に大切に扱ってくれる。レティシアはそんな父親が大好きだ。

(はい、最高の微笑み頂きましたー! 乙女ゲームのスチルの様なお顔をいつも間近に見られて至福でございますっ!!)

 父親に対する子供の心境とはかなり違う気もするが、気の所為にしておこう。

「おとーたま、おかーたまは?」
「その事なのだが。ああ、待てシンリー」

 退室しようとしていたシンリーを呼び止めた。

「君も聞いてくれて良い。結婚前からルシータの専属侍女をしていた君なら知っている人についての話だ。……先日、ルシータの妹君が亡くなった」
「ルシア様が……」

 シンリーは僅かに目を見開いた。

「ああ。その件でルシータは実家の辺境伯家に今も滞在中だ」
「……おかーたまの、いもーと?」

(お母様に兄弟が居るって言ってたかな?)

「おかーたまにいもーといたの?」
「兄と妹の三人兄妹だ。……まだ幼いレティには理解が難しいと思うが、ルシータの妹君はレティが生まれるずっと前に市井に下った方だ。なのでラシュリアータ辺境伯から除名されている」

(市井に下るって、確か平民になったって意味だよね……。という事はひょっとして)

「へいみんのひととけっこんしたかりゃ?」

 その言葉にレオナルドは目を見張ってレティシアを見た。

「……三歳なのに分かるのか。聡明な子だとは思っていたが、これ程までとは。……流石シータの子だ」

(しまった。今のは三歳らしくなかったかな……)

 嬉しそうなレオナルドを見て、やってしまったと冷や汗が出た。それにしてもお父様、お母様の名前を愛称で呼んじゃってますよ。

「ルシータと妹君は昔から仲が良かったと聞いている。病弱な妹君を心配し、最初は市井に下る事に反対だったが、頑なに相手を想う妹君に、いつしか応援する側になったと。そして辺境伯卿に勘当される形で平民となった妹君とは、内密に交流を続けていたらしい。レティを身籠ってからは手紙のやり取りだけになっていたが、最近その手紙が全く届かない事に不審を抱いたルシータが会いに行ったそうだ。その時には既に妹君の夫は事故で帰らぬ人となり、その心労でか妹君は病に臥せた状態でもう手の施しようの無い状態だったらしい」
「……びょーきでなくなたの?」
「ああ。妹君は病の事を黙っていたらしい。もっと気に掛けていればと、ルシータは自分を責めていたよ」

 レオナルドはレティシアをソファーに座らせると、やや厳しい眼差しで隣に座った。

「それでだ、ここからが本題となる。実は妹君には一人、子供がいた。今は七歳だそうだ」
「こども……」

 何やら途轍もなく嫌な予感がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚める、図書塔の姫 ~十年の眠りから覚めた私を待っていたのは、かつて手を焼いた生意気生徒でした~

虎戸リア
恋愛
帝国に滅ぼされた亡国エステライカの姫ーーエステルは同盟国のヘイルラント王国へと独り亡命した。 そんな彼女に与えられたのは、図書塔と呼ばれる小さな図書館と、出来が悪いと評判の第二王子ユリウスの家庭教師役だった。 兄である第一王子ヒューイといつも比較され、幼いながらもひねくれていたユリウスに、エステルは手を焼きながらも勉強や読書を通して、少しずつ距離を近付けていった。 しかしある日、ユリウスはエステルの気を惹く為に邪悪な宮廷魔術師に手を貸してしまい、邪神降臨の儀式の生贄に。しかしエステルがそれを身を挺して庇った結果、彼女は時が止まったまま眠りについてしまった……

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...