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【2】ざわめく森は何を知る。

73)何事も発想と使い方次第。

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 赤髪の講師の周りに魔力が集まり、熱気が増していく。二つ名の通り火の扱いに長けている様だ。詠唱しながら火球を生み出していく。6つ綺麗に並べると攻撃態勢が整ったらしい。


「喰らえ!『火球ファイヤーボール』6連発ゥッ!!」

 勢いよく6つの火球がそれぞれの軌道を描いて小柄な女性へと向かっていく。それに対して想定内だったのか「ほうほう」と観察している。


「基礎である火球ファイヤーボール大いに結構。じゃがな……」


  足元からシュルシュルと緑の蔦が出てくる。あの蔦は見覚えがある。アリオットが何かとよく使う非常に便利な蔦だ。


「水分をたっぷりと含んだ植物はなかなか燃えたりはしないぞ」



 蔦が絡み合い、1つの盾を作る。火球を1つ2つと受けても青々と緑が茂ったままだ。燃える様子は微塵もない。そのまま残りも全て受けきってしまう。


「ほれほれ!地面からでも空気中からでも水分を吸い取るなり何なりすればこの通り!火でも簡単に通用せんぞ」


 生徒達から「おおーっ!」「すげー!」と感嘆の声が上がる。赤髪講師に馬鹿にされた女子生徒は既に目を輝かせている。



「くそう!馬鹿にしやがって!まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」

 怒りで顔まで真っ赤にさせた赤髪の講師は次の呪文を詠唱する。更に強い火の魔法を使うのだろう。


「ほう!火力を上げるよな!?そうじゃろう、そうくるじゃろう!そういう時はな……」
「貫けェッ!『火炎槍フレイムランス』!!」


 同じ蔦ではあるが、今度は壁を作り出す。先程の盾よりも密集しているだけでなく、蔦と蔦の間に土が埋め込まれている。否、土を壁を作っている。



「より耐久性に優れたモノや相性の強いモノを一緒に巻き込んでしまうが良いぞ!土なら更に燃えやせんからのう!」


 火炎槍フレイムランスが蔦と土の壁に当たる。ボワッと炎が吹き出たが、当たった部分が黒くなっただけでやはり燃えてはいない。



「木属性はな、本当に使い方次第なんじゃよ。何せ植物の特性が千差万別でなぁ……」


 赤髪の講師の周りを風に乗せて花弁が舞う。

「うるせぇ!うるせぇよ!火こそ最強なんだよ!木だの草だの雑魚だろォ!こんなクソ花燃やして……アガァッ!!?」


 チリっと火花が散った瞬間、ドドドンと爆音と共に花弁が次々と爆ぜていく。中心には爆発に巻き込まれ、黒い煤だらけになった赤髪の講師がガクリと膝をついて倒れていた。



「あ、その花は爆弾の材料じゃから火気厳禁じゃよーってもう聞こえておらんか、呆気ないのう。さて学校長にあやつの件を報告せねばなぁ」


 爆風でフードがパサリと外れる。尖った耳、鮮やかな黄緑の長い髪が風になびいている。幼く見えるが彼女は長寿のエルフだ。森と共に生きるエルフだからこそ樹木や植物への知識はより深く、貶すことを許さない。
 ふぅ、と一息ついた後、手をスーッと払うと闘技場内は何事も無かったかのように元の状態へと戻った。



「まぁこんな感じじゃな。他にも香りの効果で虫系の魔獣を呼び寄せたり、逆に追い払う等もできる。木属性に興味のある者、植物関係を知りたければ薬学を受講すると良い。儂が教えているからの!」



 カカカッとにこやかに笑いながら授業の宣伝とは。ん?薬学?



「あ、あんたが薬学の先生なのか!?」
「おうさ。ということは私を訪ねてきたお客人ってのはお前達じゃな?まぁ儂はこの後このまま生徒達に教えるでの、約束通り午後なら話は聞くぞ」



 ほーれ!臨時の授業じゃー!とこちらの防御幕をいとも簡単に解いて生徒達を集め始めた。余程嬉しかったのか、生徒達も大喜びで飛び出していく。先程までの畏怖の表情は無く、誰しも興味津々で食いつく様に聞き入っている。「これならこう組み合わせて」「これは打ち消されて」等とどの属性の使い方も満遍なく教えられている。


 ところで人の授業をとって良いのか?などと考えていたら倒れていた赤髪の講師の場所に転送用の魔法陣が現れる。あっという間に描かれ、そのままシュンと消えてしまった。講師の契約違反とでもみなされたのか自動的に発動するタイプのモノだった。ということは転送先は学校長の部屋になるのだろう。そもそも何故あの様な者が講師として呼ばれていたのか疑問は残るが。

 とりあえず生徒達に変な偏見で教えこまれなくて良かったとは思う。生徒達に笑顔が戻った事を確認して再び観客席へと戻る。




 しかし思わぬ所で薬学の先生、要はハルの師匠に出会うとは。手紙を受け取る時にハルが言っていた事を思い出す。「師匠、一癖も二癖もあるからさ……応援しか出来ないけど、まぁ……頑張りな」と、かなり疲れた顔で話していたのだ。




「……うーん、これは無事に交渉できるのか……??」
「何を百面相しているんだお前は」

 考え込みすぎて複雑な表情だったのだろう、戻ったとたんにヴィクトールに鼻で笑われた。既に相手の見えない強さに飲まれかけているジークレストであった。

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