74 / 89
【2】ざわめく森は何を知る。
69)学校へいらっしゃい。
しおりを挟む朝食を終え、王命の証として紋章を受け取ると早速動くことにする。
まずは予定通り学校方面からだ。
王都グランスタ教育機関『グランフォート』。
王都の北側に位置しており、学校というよりも学園と言った方が的確かもしれない。「国民に基礎的な知識を身につけさせる」という何代か前の国王の信念から設立され、初めは座学用の校舎のみだったのが、次第に冒険者向きの戦闘スキルや職人向けの生産スキルの向上、魔法学、研究、商売学と様々な意見や要素を取り入れていくことになり徐々に大きくなっていった。もちろん地方からだと通学しにくいとの事で、希望者には学生寮まで用意されている。今や王都の北側には学校用の様々な施設が揃えられ、ある意味都市のような砦のような、そんな学校が出来上がってしまったのである。言い方を改めないのは初心を忘れるべからず、ということらしい。王都で『学校』と言えばここしかないのだ。
まぁ当然ここまで広く大きいと探し人も見つからない。まずは総合事務局から関連の校舎・施設を確認してもらう。ここでアポイントが取れればいいのだが、流石に広すぎてそこまで連絡が行き届かないらしい。関連施設の受付で、と言われてしまった。仕方ない。
調べてもらっている間に奥からヒソヒソと「もしかして破壊神?」「闘技場のアレの人?」「破壊神の片割れ……!」と聞こえてくる。大丈夫、今日は暴れないハズだ。
目的の人物は『生産棟』にいるという。調合関係だから生産系だとは思っていたが案の定だった。ただ、在学時には生産系に縁が無かった為に位置も建物もよく知らない。とりあえず地図を頼りに向かうことにする。これは戦闘系施設の隣……か?
「ほう、生産棟か」
「おわぁっ!?ってヴィクかよ、驚くだろ!っつか何でここに!?」
「お前と行動を共にしていた方が良さそうだと思ってな」
気配を消すのが得意なヴィクトールはたまにこの様な悪戯を仕掛けてくる。本人曰く「動きを観察しているだけでも面白い」と。このスキルのおかげで襲撃を受けにくいだけでなく、逆に襲撃し返していたり、目の前に本人がいるにも関わらず悪事を働こうとする者が炙り出されたり、と何かと便利だと言う。俊敏さも相まり、王子でありながらローグやアサシン向きの戦闘スペックの持ち主である。
「とりあえず例の闘技場の隣だな。ついでに闘技場も見ていくか?」
「あの跡直してないってヤツだろ。さっきも事務局で言われてたぞ、破壊神の片割れ」
言い争いをしながら敷地内を闊歩する。行き交う人々の視線が集まるが仕方ない。何しろ第一王子と騎士団の副団長……というよりも『伝説の破壊神コンビ』だからだ。
*****
2人は在学中ここまで仲良くは無かった。方や怪腕のジークレスト、方や音速のヴィクトール。行き着く先が同じでもその工程が真逆で衝突し合ったり、実力派・頭脳派の考え方、成績、感情面など常にお互いいがみ合っていた。今なら好敵手と言えば聞こえはいいのだろうが、とにかく気に食わない同士だったのである。もちろんヴィクトールは第一王子という事もあり取り巻きも非常に多かったのだが、そこは気配遮断のスキルで上手いこと巻いていた。今も昔も王族だからと言ってふんぞり返るような性格では無い。確実に一つ一つ力をつけていくタイプである。それがジークレストにとって「頭の固い奴!」と気に食わない理由の1つであったのだが。
ある日、学校の催し物のひとつである闘技祭が開催された。『武器のみ(魔法不可)』『魔法のみ(物理攻撃不可)』『どちらもあり』の3つのルールで開催され、当然2人共『どちらもあり』でエントリーしていた。お互い所属ブロックを順調に勝ち進んで行き、とうとう決勝戦でかち合うことになった。
その決勝戦は未だに語り継がれている。
闘技場も様々な攻撃、スキルに耐えられる様に建物自体がガッチリと造られている他、魔法による強化、更にブロックの一つ一つに耐久性増加の付与効果も掛けられており、観覧席も守られるだけでなく、建物全体が壊れるどころか欠けることすら無い筈だった。闘技スペースは自己修復機能を付けており、所定の場所から魔力を流せば元通りになる様にも設計されていた。そうして歴代の闘技祭は問題なく終わっていたのだ。
ところが。
武器部門、魔法部門が終わり、総合部門の決勝戦で闘技祭は終わりだった。そんな大トリの決勝戦。
お互いの得意武器を手に取り、構える。
方や大剣、方や双剣。互いに強化魔法を駆使して攻撃を受け、躱し、反撃し、魔法で気を反らせたり、相殺したり、何度も何度も火花が散る。精神攻撃は効果が無いのを知っているので使わない。ただ単純に力と力のゴリ押しだ。観客席も何度唾を飲み込んだのだろう。手に汗握る戦いが長い時間ずっと続いている。高い位置にあったはずの太陽は既に西へ傾き、夜が近づいている。お互いの体力もそろそろ限界であった。
0
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる