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【2】ざわめく森は何を知る。
63)共鳴、治療戦開始。
しおりを挟むザックが名付けにより魔力を持っていかれ、倒れてから10分しないうちに目を覚ました。元々の魔力量の高さや召喚獣との契約により慣れていたのだろうか。それでも目覚めてすぐに「うわっ!やらかしたっす!」と言うあたり彼なりの対策方法をしておくのを忘れていた様ではあるが。
「大丈夫です、10分位しか経ってない『マスター!身体に異変はないか!?ぶつけたところとかないか!?』……魔力回復薬いります?」
むぎゅっとアリオットの頬を押し退けて大精霊が飛んできた。おかげで首があらぬ方向に曲がったが、瞬時に使った回復魔法で大事に至らなかったから不問としておく。自己主張が激しいな、とちょっとだけムッとしたのは黙っておこう。
そんなやり取りのすぐ後にコンコンとドアをノックする音が響く。ガチャリと開くと暗殺蜂だった。
『遅くなって申し訳なく。女帝様の準備が整いました故、皆々様も謁見の間へ』
「ってことっす。俺は大丈夫っすから、行くっすよ」
いつもの様に翻訳しながら大精霊を脇に抱えて「アル君に何突進してるっすかー」とニコニコしながら頭をグリグリしいる。目が笑っていない。大精霊も『あだ!あだだだだ!』とじたばたしているが、ガッチリとホールドされているので抜け出せない。暗殺蜂も感覚が麻痺してしまったのか『南無……』と呟いているのが聞こえた。
*****
謁見の間。
既に女帝蜂は玉座に座っており、一同が揃うとスっと立ち上がってお互いに頭を下げる。
『皆様をお待たせして申し訳ありませぬ。我々の会議も方針が決まり、それぞれの部隊が動き始めております。そしてアサシンのから聞きましたがこの奥の間へ御用があるとの事。ご案内致します』
どうぞこちらへ、と部屋の右奥のカーテンをめくると扉があった。ザックがウィスプに声を掛ける。女帝蜂、ウィスプ、ザック、アリオットと精霊王達と続いていく。暗殺蜂は謁見の間で待機だ。
中の通路を突き進むと螺旋状の階段に行き着く。上へと続いており、何段か昇った頃には地中から地上に変わったのだろう、聞こえてくる音も空気も清々しさがあった。どうやら世界樹の幹内、耳を澄ませば内部をチョロチョロと水の流れる音が聞こえる。
やがてウィスプが『ここっス!』と反応した場所は重厚な鋼鉄の扉で閉められており、明らかに他の部屋とは扱いが異なる。
『やはりここでしたか』
女帝蜂の詠唱により鋼鉄の扉がピシピシと音を立てる。封印が施されていたのだろう、内側からも何かが剥がれる音がする。
『ここは世界樹の心臓部、核のある部屋です』
ギギギと重い音を響かせながら重厚な扉が開いていく。謁見の間よりも更に広い空洞、床も壁も全て世界樹の繊維だ。分厚くゴツゴツとした樹の皮の壁、部屋の中心に絡み合う蔦の柱。その柱の周囲、床と天井だけ絡み合い方が不自然だ。柱を中心に大きくも綺麗な円型、そして刻まれている複雑な模様。大事な物を護るかのように、その刻印は壁となっている樹木にも刻まれている。
「これ、魔法陣だ」
自然にそうなったのか、意図的にこうしたのかはわからない。ただ、その不思議な光景に思わず息を呑んだ。
「こりゃ確かに魔力が溜まる場所っすね。封印でどのくらいの規模かは読めなかったっすけど……」
大精霊が部屋の中心の柱へ向かい、場所を確かめる。間違いなくここが目的の場所らしい。
『木精霊の契約者よ、ここだ!もうひとつの種をここの核へ取り込ませるのだ』
柱の中心、魔力が集中している部分。生命力の力強さ、芽吹くようなあたたかさを感じる。
『種を取り込ませたら下の種とお前の木精霊、そしてこの大精霊を共鳴させる。お前はその共鳴を頼りに途切れた生命線を探し繋ぎ合わせるのだ。種を通して核から地底の霊脈へ直接魔力を送り込み、修復を促進させる』
『さっきの勉強会と似たような感じよ。ただ対象が大きくなっただけ。ゆっくりでいい、数日掛けて繋ぎましょ』
アングレウスとドリアードの言葉に対し、アリオットは静かに頷いた。あの感覚、不安はまだある。けれどここまで来たのなら……
(セラフィ、力を貸して!世界樹を治すよ!)
(ますたー!まってました!じゅんびばっちり!!)
「キミも力を貸してね」
『元よりそのつもりだ!我がマスターの為にもこのセインティスの力、存分に使うがいい!』
ギュッと種を握り締め、祈り、覚悟を決める。
柱の蔦を掻き分けようと両手を伸ばせばトプンと水の中に手を入れるような感覚。蔦の様に見えていたが、それ自体が魔力の塊だったらしい。そのまま奥へと手を入れれば握っていた種が核にスーッと取り込まれて行った。
種が取り込まれたことを確認すると大精霊が種と世界樹に意識を集中、共鳴を開始する。同じくセラフィの意識も共鳴により流れ込んでくる。そして2人に先導されるようにアリオットの意識も世界樹へと取り込まれていく。
こうしてアリオットの世界樹治療戦が幕を開けた。
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