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【2】ざわめく森は何を知る。
55)夢か現か。
しおりを挟む真っ暗な空間。
ふわふわと浮かぶ、チカチカと光るモノがポツンとひとつ。
それは上からゆっくりとゆっくりと降りてくる。
いや、浮いているのは自分の方で、自分がそこに落ちているのかもしれない。
それでも確実にその光に近づいていて。
届く距離まで近づいて、手で掬うように包み込む。
脚を伸ばせば地面があるとわかり、しっかりと踏みしめて立ち上がる。
手の中の光が奥へと行きたそうにしていたので、一緒に歩いてそちらへ向かう。
急に大きくゴツゴツとした壁に当たってしまう。でもどうやらそこが目的地だったらしい。
手のひらを解放すれば光がふわりと地面へ降り立つ。そのまま地面へ吸い込まれ、辺りが再び暗闇に包まれようとした時、ぴょこんと明るく輝く双葉が生えてくる。そこで目の前の壁が土ではない事に気がつく。
(あ、これは……もしかして……)
*****
「!?」
世界樹のあちこちに分散して捜索しているウィスプの一部が消えた。否、消された。
(ウィスプ、どうしたっす!?何があったっすか!?)
(『ザック~!あの場所だけは無理っス!相性悪くて近寄れないっス!あいつ、問答無用で消そうとするんス!怖いっス!』)
ウィスプと相性が悪い何かがそこにいるということ。消された場所は判明している。が、昨日そこには特に何も無かったはずだ。
(そこは俺が調べるっすよ。ウィスプは別の場所を、とにかく気をつけて調べてほしいっす。何かあればすぐに帰還するっすよ!)
(『うわぁん!すまねっス!他で頑張るっス!』)
アリオットはまだ目覚める気配がない。彼が起きてから動こうと思っていたが、ウィスプの件がどうにも気になる。
『ザック、動くー?』
「そうっすね、俺も捜索したいっすけど……」
『でもアルアルが心配なんだねー!ザックやさしー』
「アルアルって……!」
スラリー独自の空気にプッと吹き出してしまった。本当によく見ている相棒である。
『んじゃボクの出番だねー!分身置いておけばいいんじゃーん。言葉は通じないかもだけど、誰もいないよりきっとマシだよねー』
確かにセラフィもいないので戦闘蜂達の通訳できる存在がいないのだ。……スラリーもぽよぽよしていて通じはしないのだが、まぁ何かしらのリアクションはするのでわかりやすい……はず。
『いざとなったらアルアルを上に乗せて本体とぽよぽよ合体しに動けばいいよねー』
「それは合体というか合流っすね」
『そうとも言うねー』
とりあえず相棒のありがたい提案にのることにした。さっそくぷるるんと分裂して両手サイズの中スラリーが誕生する。ちなみにジークレストについていったのは片手サイズの小スラリー、本体は膝丈。膨らめば更に大きくなれるが。
「ところで副団長の方ってどうなってるんす?」
『あー、えーっと……うん、今は偉そうな人達と一緒』
「は!?」
偉そうな、と聞いて思い浮かぶのは団長のイグニスかヴィクトール殿下、もしくはリュシオン殿下か。いや、国王陛下と一緒にいるとかそんなまさか……。これは考えるのはやめよう、あの人の人間関係が本気でよくわからないからだ。
「……まあ副団長は副団長で何とかすると思うっすし、俺らも動くっすよ!」
『おっけー!ボクらもしゅっぱーつ!』
目指すはウィスプが消された場所。何があるのかをきちんと確かめなくては。
*****
誰かの声が聞こえた。
何かに呼ばれるような声が聞こえた。
名前を呼んでいた訳ではないのだが、微かに何かの声が聞こえたのだ。
ザック達が出て行ってからしばらく後、不思議な声でアリオットは目を覚ました。ここは何処だろうか。ぼーっとする頭を少しずつ働かせ、世界樹の中、戦闘蜂の拠点の客室であることを思い出す。ただし、いつの間に運ばれたのか、今が何時なのかはわからない。地下の為に窓はなく、朝か昼か夜か予想すらつかないのだ。
「僕は何でここに……」
セラフィの姿もなければザックもいない。どうしたものかと考えていると小さくなったスラリーがテーブルの上にいた。
「スラリー……なんか小さい?ザックさんはどこ?」
スラリーはぷるぷると揺れているままで何も反応がない。そのうちテーブルの上の食事、黄色い蒸しパンを手渡してきた。
「まずは食べろってこと?」
その問には頷くように縦に揺れる。ふわふわだけどしっとりした生地。誰が作ったのだろう、程よい甘さのおかげで頭の中がスッキリとしてくる。そして差し出されたホットミルクで一息。こちらにもハチミツが入っていたのだろう、心が満たされていく感じだ。
「まだちょっとあたたかい……ねぇスラリー、セラフィ知らない?」
スラリーがブンブンと横に振るう。全然知らないらしい。また世界樹の中を探し回っているのだろうか。
「んー。じゃあザックさんは?」
これにはもちろん、とぽよぽよ縦揺れ。手がかりが何も無いよりマシだ。歩いていればきっとセラフィも見つかるだろう。
「それじゃあザックさんのところに案内して……の前にもっと食べろって?」
蒸しパンのお皿を目の前に出され、もうひとつ、もうふたつと手を出す。お腹は確かに空いていて、あっという間にペロリと平らげてしまった。
「美味しかった!おかげで元気出たよ。ありがとう」
スラリーもきちんと食事を摂った事に満足して扉の方へ向かう。今度はちゃんと案内する気らしい。
「どこにいるのかな、案内よろしくね」
この時にはザックとセラフィの事しか頭になく、不思議な声の存在をすっかり忘れてしまっていた。声の主もとある理由で声が掛けられなくなっていた状態なのだが、それを知るのは割とすぐ後の事だった。
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