43 / 89
【2】ざわめく森は何を知る。
39.5)ザックの本気。
しおりを挟む「さ、今のうちに!」
「アル君、行くぞ!」
「は、はい!」
2人を送り出してから召喚陣の上に呼び出した門を開く。
闇のように黒く、青い炎を灯したおどろおどろしい大きな門。呼び出すのは自分が呼べる中でもとっておきの者だ。特殊な存在である為、消費魔力も大きい。ウィスプとアウルスを戻したのもそれが理由だ。が、こう敵に囲まれた状態では出し惜しみするわけにもいかないし、この者は適任であろう。
ノシッ。ノシッ。
門からゆっくりと出てきたのは闇をも飲み込むような漆黒の毛と全てを切り裂くような爪。見える牙は鋭く、口端からは黒い炎が垣間見れる。1つの身体に3つの首。漆黒の身体に光る6つの金色の瞳。低く唸る声はまるで地響きのようだ。更に長く優雅な尻尾は鞭のようにしなやかさも感じさせる。
冥府の門番、番犬として名高い存在。『ケルベロス』
ザックの呼べる、秘蔵の召喚獣のうちの1体だった。
「久しぶりっすねケルベロス。仲間がこの先で頑張ってるんで、ここから先にこいつらを通したく無いんすよ。もちろん邪魔してくるヤツも許さないっす。力を貸してくれるっすかね?」
『ハハハ!相変わらず口調が軽いな我が友よ!』
『ガハハ!いいぞいいぞ!勿論だとも!』
『クハハ!我らを呼んだということは存分に暴れてよいのだな?』
「おっけーっすよ!思いっきりやっちゃえケルベロス!」
ニヤリと笑うとそれぞれの声色で咆哮を響かせる。三方向に響き走る咆哮は数多のオークを怯ませる。動きが止まった所で近くの者には爪や牙で食らいつき、距離のある者には黒い炎の柱を、数体纏まっていれば尻尾で薙ぎ払う。
『フハハ!その炎は標的を焼き切るまで消えぬ地獄の炎よ!』
『友よ、森は極力壊さぬ様に尽力するが、細かい所は許せ』
「ケルベロスの炎は敵以外燃やさないの知ってるから構わないっすよ」
『ガハハ!さすが我が友!我らを知る者よ!』
ケルベロスは上機嫌で次から次へとオーク達を灰にしていく。あらかた片付いたところでヤツが現れた。
黒い瘴気の様なオーラを纏ったオーク、変異体だ。
『む。なんだアイツは。嫌な匂いだ』
『これは地獄行きの匂いだな。今のうちに門の中へ放り込むか』
『その前に大人しくさせるとしよう』
攻撃力を強化させ、爪で切り刻みにかかる。が、数発棍棒により防がれ、思った以上にダメージを与えられない。逆に腕を捕まれて投げ飛ばされる。
「ケルベロス!!!」
『グルルル!小癪な』
『無事だ、友よ。心配要らぬ』
『流石に腹立ったぜ』
積み上がった丸太の山から抜け出し、木屑や砂を振り払う。
ドシッと体勢を低く構えると、ケルベロスの両手足から紫紺の炎が噴き出した。
『穢れも呪も全て焼き尽くされるがいいわっ!!』
ケルベロスの前足が変異体オークの頭を捉え、そのまま地面へと叩き潰す。軽く地面がクレーター状に抉れたとこで地獄の炎をお見舞する。オークの身体は瞬時に灰となって風に散っていく。
『うーむ、まだ来るようだなぁ』
『面倒なヤツらよ。いっそのこと全てを燃やし尽くそう』
『ちと疲れるが仕方ないな』
変異体オークの2体目、3体目も現れるが、同様に叩き潰しては炎で瞬時に焼き尽くす。全てを狩り尽くすと手足の炎を引っ込めた。
「さすがケルベロス!頼りになるっす!」
『フン、容易い事よ。』
『友よ、どうする?我らを還すか、それともまだ奥にいるのも全て燃やすか?』
『余力があるなら付き合おうぞ』
ザックの鞄型魔法収納には魔力回復用のエーテルをふんだんに詰めてきた。更にはアリオットから受け取った回復薬もある。エーテルをグビっと飲み込み、世界樹を見つめる。
「目標はあの奥の世界樹っす。仲間もそこへ向かったっすから、追いかけつつ残党の駆逐!行けるっすか!?」
『まだまだ暴れ足りぬところよ!問題無いわ!』
『ならば行こうぞ!友よ、背に乗るがよい!』
『ガハハ!振り落とされるなよ!』
「ひぃっ!スラリー、頼んだっす」
背に乗った瞬間に大きく跳ねられ、振り落とされそうになる前にスラリーで固定する。還さずに残しておいて助かった。
ケルベロスは索敵しながらオークを倒し、先に行った2人を追いかける。世界樹で何が待ち受けているのかはわからないが、鍵となっているのは確かなのだ。
『世界樹、結界が弱っている。だから変な匂いのヤツらが蔓延るのだな』
『穢れ払いが得意なのは誰だったか』
『お喋りは後だ。蹴散らすぞ!』
容赦なく向かってくるオークにうんざりしつつ、成すべきことに集中する。敵はまだまだ多い。一つ一つを片付けながら、ザック達も先を急ぐのだった。
0
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる