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秋 睡蓮

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そこには仏壇があり、写真立てが置いてあった
「藤本さん。また、花を飾ってやって戴けますか?」
その横に置いてあったクマの形をした鉢植えを取ると藤本へと渡してくる
ソレを受け取ると藤本は持ってきた花を広げ
一本一本、飾っていく
「……可愛い人だね」
写真の中で、はにかんだような笑みを浮かべる女性
その写真見る藤本の目は優しく
この女性が(中)なのだと戸河内は納得した
「私も、手伝っていい?」
いつもの様に手際よく動かない藤本の手
その手に触れてやりながら頼んでみれば藤本は頷いてくれ
花の束を、戸河内へと渡してくる
「ゴメン。じゃ、これ。向こうの花瓶にお願いできるかな?」
「分かった」
受け取った花を花瓶へと生けてやり
そこで戸河内はふと写真の中の人物を見やる
今の藤本は、彼女にはどう映っているのだろうか、と
「……アナタが知ってる、彼じゃないよね」
きっと、この女性も嘆いている
都合のいい思い込みかもしれないが、もう苦しまないでほしいと思って居る筈だ、と
「樹?大丈夫?」
瞬間、ぼんやりとしてしまっていたのか、藤本の声でハッと我に帰る
大丈夫を返してやり、戸河内は花を生ける手をまた動かし始める
全てを飾り終えると、その場を後にした
外は、相変わらずの雨
帰り道も相傘で、歩みもゆるりと進んでいると
不意に、その脚が止まった
どうしたのだろうと様子を窺ってみれば
藤本が戸河内を掻く様に抱く
往来での行き成りなソレに道行くヒトが皆戸河内らを振り返り
戸河内は慌てだしてしまうが
触れた藤本の肩が小刻みに震えている事に気が付いた
泣いて、しまってる
顔こそ見えないがその事に
戸河内は藤本の手から傘を取るとソレを閉じていた
「……樹」
「泣いても、いいんだよ。だって、全部雨だから」
水と水を混ぜてしまえばどちらかなど解らなくなる
戸河内なりの気遣いに、今は縋ってしまおうと
全身ずぶ濡れになってしまうまで、その場に立ち尽くしていたのだった……
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