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秋 睡蓮

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翌日、午前中の講義も終わり昼休み
購買で購入したクリームパンにパクつく戸河内へ
「樹。あんた、なんかあった?」
傍らの友人からそんな指摘
戸河内がなぜにそんな事を聞くのかを問うてみれば
友人は態々派手に溜息を吐いて見せる
「……あんた、気付いてないの?」
「何が?」
友人が言わんとしている事が今一解らずに首を傾げてしまえば
目の前に鏡が突き付けられた
ソコに写る自分の顔はどうしてか、今にも泣きだしそうな顔をしている
「日を追うごとにその顔、酷くなってるんだけど。どうして?」
「……何でも、ないよ。大丈夫」
「だから!あんたがそうやって大丈夫って言うときは大丈夫じゃないんだってば!!」
無理矢理に浮かべた笑みも、付き合いの長い友人には見破られてしまう
全てを吐き出してしまえば楽になれるのだろうか
今の解らなくなってしまっている感情も、そして藤本への想いも
「……大、丈夫って、言わせてよ。そうじゃないと、私……」
自分が保てなくなりそうで、それが怖かった
これ程までに自分は弱かったのだろうか?
何かを想い、泣き出してしまう程に
「樹、ごめん。別に、樹を責めてるわけじゃなくて……」
解っている。友人が心配してくれている事位
悪いのは、自分だ
何も言わず、何も告げず、唯々自分のためだけにその傍に居た
その実を知って、傷付いてしまうのが怖かったのだ
「……私、狡いんだもん」
「樹……」
とうとう本当に泣き出してしまう戸河内
友人らはどうしたものかと困り始め、そして
「よし、樹!今日、授業終わったらカラオケ行こう!」
唐突に、そんな事を言い出した
「朝まで歌って、ソレですっきりしようよ!」
友人のその気遣いが有難い
今はソレに甘えてしまおうと、戸河内は頷いて返していた
そうこうしている内に昼休みも終わり、午後の講義
ソレを何とかこなし、漸くの放課後
約束通り、友人らとカラオケへと出向く
歌って騒いで、友人らと過ごす時間は楽しかった
「んー!今日もよく歌った!樹は?ちょっとは気が晴れた?」
「うん。ありがと、楽しかった」
「それならば良し!じゃ、また明日ね!」
バイバイと手を振ってくる友人へ、戸河内も振り返しその場を後に
一人になり、途端に重くなる足取り
帰り道、偶然にも店の前を通りかかり
僅かに開いていたシャッターから明かりが漏れている事に気付く
時刻は、深夜
藤本がまだ居るのだろうかと膝を屈め、中を窺って見る戸河内
覗いてみた先に、どうしたのか藤本が床に蹲っているのが見えた
「だ、大丈夫!?」
飛び込む様に中へと入り、藤本へと戸河内は駆け寄っていく
上半身だけを何とか抱き上げてやれば
その身体は酷く熱を帯びていた
「……あ、たる?」
額へと手を触れさせれば、藤本の目がゆるり開く
そこで漸く戸河内だと認識したのか、すぐさまくしゃりとした笑みを浮かべ
「……ごめん、樹。間違えちゃって」
謝ってしまう
その表情は今にも泣いてしまいそうなのに
何故、笑うのだろう。どうして、我慢してしまうのだろう
見ていて、とても居た堪れない
「……(中)で、いいよ。今だけなら」
「い、つき……?」
戸河内からのソレに、藤本は僅かに眼を見開く
代わりに、したい訳じゃない
そんな事をすれば互いに傷付く事が容易にわかるから
それでも
「本当に、樹は俺に甘すぎるよ……」
その優しさに縋ってしまう
今だけ、今日だけ
そう自分に言い聞かせながら
藤本は戸河内へと手を伸ばし、身体を引き寄せ抱き締めた
「中、ごめんね。本当に――!」
その都度聞かされるのは(中)への謝罪の言葉
喉の奥で潰した様な声が、戸河内の耳元を掠め
だが、この声も抱き締めてくる腕も、戸河内に向けられたソレではない
戸河内を通り越した、(中)に向けられたものなのだ
ソレを切なく感じながらも、今は受け止めてやろうと決め
戸河内は藤本を抱き返してやり、暫くその場から動けずにいたのだった……
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