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最終回 金髪ヤンキーと結ばれました。三つ編み地味子は卒業です。

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 私は金髪ヤンキーのケンタさん、いえ山吹健太郎さんにお化粧を教わるようになった。
 また、正しいケアをしていけば徐々にだが、痣は薄くなっていくとも教わった。

 ケンタは私が知らないことをよく知っている。
 えへ、ケンタなんて呼び捨てているの気づいた?いま私は彼の彼女になっているの。

 私から付き合って下さいと言ったの。あの最初のメイクのあと速攻で。あのギャルたちは友達として付き合っていて彼氏彼女ではないと。彼の隣の席が空いていると分かるや、すぐに。

 女の本能とも云うのかな、この人は絶対に逃がしちゃいけないと思った。元々彼のピアノに痺れていたうえ、土手の歌姫と私を呼び、子供のころ私の歌を聴きに来てくれたこと。あの痣が私を見つけるキッカケとなり、その痣を消してくれた彼、これ運命の出会いと言わずして何ぞや。痣が消えた私は自分でもびっくりするくらい積極的になってしまった。

 陰キャからギャルに激変したという赤い髪の女の子、その子の気持ちよく分かった。今まで自分の顔にあった火傷痕がメイクで消えれば、女の子はそのくらい変わる。ええもう、陰キャから陽キャのギャルにもなる。
 私も野暮ったい三つ編みをやめてしまったし、おしゃれを楽しむようになった。ケンタが小声で『あの三つ編みが良かったのに…』と言っていたけれど、ごめんね、私も年頃の女の子なわけで…。気に入ってくれているのは嬉しいから、そのうち戻します。それで許して。


 山吹健太郎と最初に名前を聞いた時、それは聞き覚えがあった。
 思い出すのに、かなり時間を要したけれど、私の小学生時代に有名なピアノコンクールに優勝した天才少年がいると町で噂になった男の子がいた。それが彼だったのだ。
 彼が言うには
「俺は全く覚えていないんだけど、小さいころオモチャのピアノで、テレビやラジオから聴こえてくる音楽を、そのまま耳コピして弾いてしまうのを両親が見て、ピアノの才能ありと見て習わせたらしい」

 さらに
「厳しい先生でな…。もうピアノなんてやめたいなと思った時、土手で歌う君の歌を聴いて、元気が出てきたよ」
 いつもの駅構内のカフェデートの時、そう照れくさそうに話してくれました。


「で、お母さん、許してくれたか?エーチューブィ配信」
 私は苦笑しつつ首を振った。ケンタのピアノで私が歌う動画を配信させてほしいと言っても、お母さんは許してくれなかった。
「お母さん『メイクで娘の顔の痣を消してくれたことは母親としてすごく感謝しています。でも、それとこれとは話が別です。インターネットで娘の顔が出るのは認めません』って…」
「そっか…。愛子の話を聴く限り、かなりご苦労された方と云うのは分かるし、君を深く愛しているのは分かる。ネットは一瞬で全世界に拡散される。母親からすれば怖いよな…」

「でもね…。お母さんもやっぱり女で…」
「ん?」
「『私も娘のように美女に生まれ変わらせてくれたら考えなくもない』」
「俺のお袋と同じこと言っているし」
「そりゃあ、そうだよ!私の顔が一気にお姫様に変わったんだもの!お母さんだって、私にもと思うに決まっているじゃない!」
「おいおい、自分でお姫様というか?ははは」
「お母さん、私を育てるためパートも掛け持ちして、お化粧なんてするゆとりなんて今まで無かったから、お母さんもお姫様にしてあげたいの。私からもお願いしたい」
「いい親孝行だな、まあ俺も愛子のお母さんに点数稼ぐチャンスだし、喜んでやらせてもらうよ」
「ありがとう!次の日曜日、デートの約束していたじゃない。その日にお母さんも同窓会があるらしいの。デートに行く前に私の家に寄ってメイクしてほしいって」
「ああ、いいよ」


 お母さんには事前に伝えておいた。容貌はメチャクチャ怖い人だと。
 ケラケラと笑い
「何言ってんの。お母さんみたいに世の中の酸いも甘いも知る女には、娘と同じ歳の男の子なんて、ただの可愛いボウヤだわ」

 と、言い切っていたのに、実際にケンタを見るや固まって立ち尽くしていた。茫然として見上げている。
「こんにちは、娘さんと交際させてもらっている山吹健太郎です」
「は、はあ…」
(ガチのヤンキーじゃないの!あ、愛子はこんな人とお付き合いを!?)
 金髪オールバック、強面、身長190センチの筋肉質、服装はシンプルだけど女の子を連れて歩くには十分なもの。体が大きいから、すごく映えている。
 でも初対面の人にはヤのつく職業の人と思われるかも。
 誰がこの人をピアニストであり、プロ並みのメイクアップアーティストと信じるだろう。
「ふっ、福永愛子の、は、母…美子です…。娘がお世話に…」


 ちなみにケンタが金髪ヤンキーなんてやっているのは『ヤンキーがピアニストって面白くない?』と思っただけとのこと。他のストリートピアノにも行くことがあるけれど、強面の金髪ヤンキーがピアノ弾けるってだけで、みんな驚く。それが痛快でたまらないんだって。高校時代にだけ出来るパフォーマンスじゃないか、とのこと。強面は元から。

 実際、ケンカの経験は小学生以来無く、筋肉質なのはピアノの長い演奏にも耐えられるよう体を鍛えているから。
 見かけは怖いけれど優しい男性なのだ。
 第一、ピアニストが喧嘩に強いなんて自慢にならない。大事な指を危険にさらすだけだ。

 ちなみに毎朝、私がお弁当を作って駅で彼に渡している。もう今のうちから胃袋掴んでおけとお母さんに言われているからね。パートでお弁当屋さんで働くお母さんは、とても料理が上手。現在、お母さんから料理を習いながら作っています。ケンタの胃袋、絶対に掴んでみせるんだから。

 さて、お母さんのメイクアップ開始だ。お母さんも顔は吹き出物、染みがやや多くなってきた。今日のメイクアップのため、ケンタから事前に肌のケアのやりようを教えられ、この日まで欠かさず続けていた母さん。怖がりながらもケンタの前に座り
「で、では、お願いします」
「任せて下さい。では目をつぶってくれますか?」
「はい」

 前日まで肌のケアをしっかりしていたのでスムーズに化粧は進んだ。
 ちなみに、彼の持つ化粧品一連はお姉さんと一緒に買いに行っているらしい。
 お姉さん、山吹ゆずり葉さんは大学時代に起業して成功、お休みの日にケンタを連れて行きつけの化粧品店に行き、ケンタとお店のビューティーアドバイザーの意見を参考にし、よいお買い物をしているとか。
 だから彼の持つお化粧セットの所有者は、ゆずり葉お姉さん。

 学校で彼にメイクしてもらっている女の子は指定された化粧品を自分で用意するのがルールとなっている。
 だけど、ゆずり葉お姉さんは『私と同じく顔に傷がある子にだけ使っていい』と言ったそうで、だから私と、以前に聞いた赤い髪のギャルは彼にメイクアップしてもらうことが出来たんだ。
 私はゆずり葉お姉さんに一生頭が上がりそうにない。

「さて、出来ましたよ」
 家で一番大きな鏡がある玄関に走っていくお母さん。
 鏡を見るや、いい意味で開いた口が塞がらない感じだ。
「はああああ…。これが私なの?信じられない!」
「お母さん、綺麗だよ。これなら自信満々で同窓会に臨めるね」
「ありがとう!こんな美人にしてくれて感謝の言葉もないわ…。ごめんね、愛子と健太郎さんの音楽活動と配信を認める交換条件みたいにお願いしちゃって…。どうしても同窓会には綺麗な顔で行きたかったの」
「いえ、それほど私のメイクの腕前を見込んでくれたということですから。お綺麗ですよ、お母さん」
「ありがとう、これからも娘をよろしくお願いします」
 綺麗な所作でケンタにお辞儀をするお母さん、よほど嬉しかったんだな。
 お辞儀しながら視線を私に向ける。絶対に彼を逃がすんじゃないよ、そう目で言っているのが分かる。
 当たり前だよっ!こんな最高の彼氏、絶対に逃がさないよ!


 同窓会に出かけるお母さんを見送り、私たちは改めてデートに。
 今日は大型ショッピングモールにあるストリートピアノを弾きに行き、そしてショッピングと食事だ。
 その道中で
「ところでさ、ケンタ」
「ん?」
「私、コスプレして歌いたい」
「コスプレか…。そういえば、顔の痣であきらめていたと言っていたよな。うん、やってみればいいじゃないか」
「衣装は私が作るよ、えへへっ、これでも裁縫得意なんだから。自宅にミシンもあるし!」

 大型ショッピングモールに着いた。本当に夢みたいだと思う。素敵な彼氏とショッピングデートって痣があるころには考えられなかった。
「どういうキャラのコスプレしたいんだ?」
「ええとね、フリフリの可愛い衣装がいいな。メイドも捨てがたいし、ケンタは私にコスプレしてもらいたいキャラいる?」
「そうだな…。やっぱり昨今で言うなら妖滅の刀のヒロイン祢津子を愛子にコスプレしてほしいな。それで俺の赤蓮花を歌ってくれたら嬉しいよ」
 こりゃ、さっきのフリフリ衣装とメイドは後回し決定になってしまった。
 彼の赤蓮花は現在エーチューブィで有名なストリートピアニストにも引けを取らない。
 もちろん私も、たくさんレッスンが必要だ。彼の赤蓮花で歌ってみたい!何より初コスプレは彼氏が望むものをやってみたいし。
「それじゃケンタは丹志郎…は似合わない…かな身長的に」
「炎極さん、やるよ」
「うふふっ、超楽しみーっ!」
 私と彼は手を繋いで、モール内のストリートピアノ設置場所へと歩いて行った。
 今日の演奏も楽しみ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 一月後、あるストリートピアノ動画がエーチューブィで三百万再生されることになります。可愛い(自分で言う?)祢津子コス歌うまJKと迫力満点の炎極ピアニストの共演が大きく話題になるのです。
 赤蓮花は歌うのも、すさまじく難しい。もちろんピアノも。このコスプレカップルの動画は大人気チャンネルとなっていき、ついにはネットではなく実際にコンサートも行うようになり…。


「ねえ…。どうしてあの時に私の告白を即OKしてくれたの?同じ高校のギャルたちで私より可愛い子、いっぱいいたでしょう?」
 コンサート前、私は控室でそんなことを彼に訊いた。
 違う高校なので彼の高校生活を見ていたわけではないが、おそらくは相当女の子にモテていたはずだ。彼は朝と放課後、あの駅でストリートピアノを弾いていた。アニソンからクラシック、Jポップ、演歌、譜面も無しに、すさまじい完成度で弾いていた人。音楽ほど人の心を掴むものはない。きっと多くの女の子たちから告白を受けていたはずだ。

「実を言うと、俺のメイクアップで君が子供のようにギャーギャー泣き喚いた時、惚れてしまったんだよな…。手で顔を覆うともせず大口開けて鼻水垂らしっぱなしで泣いていて、その泣き顔がすごく可愛らしくて…あの野暮な三つ編みにそれが何ともマッチしていて…それに…」
「それに…?」
「元々、土手の歌姫の歌声に惚れていたから」
 照れくさそうに笑う彼の顔が心から愛しかった。いま彼は私のメイクをしてくれている。私もお母さんも、彼のメイクアップをマスターしていて自分で出来るけれど、今日は大事なコンサートの日だから。化粧を終えると
「綺麗だよ、愛子」
 ニコリと微笑み、そう言ってくれた。

 今の彼はもう金髪ヤンキーではない。整った黒い短髪、漆黒のスーツをまとい、世界一いい男となっている。
 今日のコンサートはコスプレなし。カバー曲はあるけど、ほとんどが作詞福永愛子、作曲山吹健太郎によるもの。
 私たちの音楽はついに他人が作った歌に頼らない場所にたどり着いたんだ。
 客席にはケンタの高校時代の友達で、私の大切な友人でもある元ギャルたちとお母さんもいる。ケンタのご両親、そしてゆずり葉お姉さんも。
 陰キャで、誰も味方なんていないと思っていた私、いつの間にか多くの人に支えてもらっている。
 私はもう顔の痣なんかに縛られない。大好きな彼に魔法をかけてもらった私に怖いものなんて無い。

「あなた、そろそろ開演よ」
「よし、行こうか」
 私たち二人は大歓声を浴びながら、ステージへと歩いて行った。
 そして、この先の人生を大好きな夫と共に歩いていきます。
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