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第2話 金髪ヤンキーは私の痣を消してくれる魔法使いでした
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「言い方は悪くて済まないが、その顔の痣でもしかしてと思っていた。君、小学生のころ、よく鶴巻川の土手で歌っていただろう?」
「えっ、えええ!?」
前置きをしてくれただけありがたがったけれど、顔の痣で記憶されているのはつらかった。
土手の歌姫、初めて言われた。というより小学生のころだけじゃなく、今もやっているんですけどね。私にも人に自慢できる一芸はあった。歌だ。
でもカラオケに行くお金も友達もいないから、家近くの土手で歌うんだ。歌うのが子供のころから大好きなんだ。顔の痣からアイドルや歌手になるのは諦めているけれど歌だけは捨てられなかった。
「小学生の頃は、あの町にいたからね。ピアノ教室の帰りに、よく君が歌っているの見かけたよ。あ、カフェいいかな?」
「う、うん」
そっか…。聴いてくれてたんだ…。歌が上手いね、と褒めてくれた人は今まで何人かいた。でも、そのお礼を私が言おうとすると、さっきのように痣を見て驚かれるし、不快そうな顔をする。本当に、この痣は嫌だ。
コーヒーを注文してトレイに乗せ、私たちはカウンターで隣同士に座った。やっぱり怖い。男の人と二人だけでこういうカフェに入るの初めてだったし。ましてや金髪ヤンキーと三つ編み地味子って、どんな組み合わせ?
「ストリートピアノで最初に君を見た時から、そうかなぁと思っていた。覚えていないかな?土手に寝そべり、興味なさげに君の歌を黙って聴いていた坊主頭の少年」
「あ…」
記憶にあった。私が歌っていると、ムスッとした顔で私の近くにやってきて土手の法面に寝そべった坊主頭の男の子。
最初は私のスカートの中でも覗き込む気かと警戒した覚えがある。
「本当はさ、君の真ん前という特等席に陣取って、思いっきり拍手したかったんだけど…そういう年頃だったからな。でも、ちゃんと聴いていたことは今日分かってくれただろう?」
何か思わぬ再会に涙ぐんでしまった。そう、あのころはロゼアンナの主題歌とキャサリンのテーマばっかり歌っていたものね…。さっき彼が言っていた『そればっかり歌っていた子を知っている』は私のことだったんだ。興味なさげに寝そべっていた、あの時の坊主頭の彼。頭の中でイメージしてピアノで弾けるくらい、私の歌を覚えていてくれたなんて…すごく嬉しかった。
「嬉しいよ、よく聴きに来てくれたものね」
「その…何というか、君の歌、好きだった。今日の歌も良かった」
「あ、ありがとう…。って、え?」
彼はバッグから何かポーチを取り出し、開けてみると
「おっ、お化粧セット?」
「俺に正対し、動かないように」
「はっ、はい」
彼は手慣れた手つきで私の顔の化粧を始めた。
「俺は医者じゃないから、君の痣を消すことは出来ない。しかしメイクなら消せるかもしれないと思った」
「メイク…」
「俺には姉がいるが、高校生のころ自転車で転倒して顔に一生消えない傷が出来た。塞ぎ込むことも多くなってな…。それで俺がピアノを通じて知り合ったメイクアップアーティストに相談したところ、自分がやるとお金をもらう必要があるから、弟の君が覚えろとメイクアップを教わったんだ。顔から傷痕が消えた時、姉貴は泣いて大喜びしていた」
「…………」
「それと、うちの高校にもいるんだ。顔に火傷痕がある女の子が」
「火傷痕…」
「いっつも教室の隅で独りぼっちだったんで見かねてな。日ごろから姉のメイクをしている俺が、その火傷痕をメイクで消したら、わんわん泣いて喜んでいた。さっきまで一緒にいた赤い髪の女の子だよ。陰キャからギャルに激変、今はもう自分でメイクしている」
嘘…。メチャクチャ可愛いギャルだったのに、あれで顔に火傷があるの?
「でもまあ…それがキッカケで、たまに女の子がメイクをお願いしてくるようになってな。俺がこうして化粧品ポーチを持ち歩いているのは、そういうわけだ」
「そ、そうだったんだ…。私なりにメイクはしたんだ…。でも全然ダメだった」
「これを含め、何度かは俺がメイクする。やり方はあとで教えるから自分でも出来るようになった方がいい」
「あ、ありがとう」
「さて、出来たぜ」
ほら、とケンタさんから鏡を渡され、私は絶句した。痣が綺麗に無くなっていたのだ。痣を消しただけじゃなく、顔全体に化粧を施してくれていて、私は自分の顔なのに別人に見えた。
これが私なの?私の顔なの?まるで不思議な魔法をかけてもらったみたい…。
「あ、あああ…。ああああ……」
「泣いても化粧崩れないけれど、ここは堪えてくれ。ここで泣かれると状況的にまずい」
「ごめんなさい、無理…。ううっ、うわああああああん!」
大混乱になった。カフェの店員さん、他の男性客、そしてケンタさんが入り乱れて、てんやわんや。
傍から見れば金髪ヤンキーが三つ編み地味子をいじめたと思われても仕方ない状況。
私が泣いているのを必死になだめるケンタさん。女の子を泣かせて、と他の男性客から責められ、私がメイクされるのを見ていた女性数名が金髪ヤンキーくんは無実と叫ぶ。カフェの店内は私の泣き声と怒声が飛び交う大騒ぎになった。
「ちっ、ちが…。いじめられて泣いているんじゃ…うええええええんっ!」
困らせちゃって、ごめんねケンタさん。でも嬉しくて嬉しくて涙が止まらないよ。
「えっ、えええ!?」
前置きをしてくれただけありがたがったけれど、顔の痣で記憶されているのはつらかった。
土手の歌姫、初めて言われた。というより小学生のころだけじゃなく、今もやっているんですけどね。私にも人に自慢できる一芸はあった。歌だ。
でもカラオケに行くお金も友達もいないから、家近くの土手で歌うんだ。歌うのが子供のころから大好きなんだ。顔の痣からアイドルや歌手になるのは諦めているけれど歌だけは捨てられなかった。
「小学生の頃は、あの町にいたからね。ピアノ教室の帰りに、よく君が歌っているの見かけたよ。あ、カフェいいかな?」
「う、うん」
そっか…。聴いてくれてたんだ…。歌が上手いね、と褒めてくれた人は今まで何人かいた。でも、そのお礼を私が言おうとすると、さっきのように痣を見て驚かれるし、不快そうな顔をする。本当に、この痣は嫌だ。
コーヒーを注文してトレイに乗せ、私たちはカウンターで隣同士に座った。やっぱり怖い。男の人と二人だけでこういうカフェに入るの初めてだったし。ましてや金髪ヤンキーと三つ編み地味子って、どんな組み合わせ?
「ストリートピアノで最初に君を見た時から、そうかなぁと思っていた。覚えていないかな?土手に寝そべり、興味なさげに君の歌を黙って聴いていた坊主頭の少年」
「あ…」
記憶にあった。私が歌っていると、ムスッとした顔で私の近くにやってきて土手の法面に寝そべった坊主頭の男の子。
最初は私のスカートの中でも覗き込む気かと警戒した覚えがある。
「本当はさ、君の真ん前という特等席に陣取って、思いっきり拍手したかったんだけど…そういう年頃だったからな。でも、ちゃんと聴いていたことは今日分かってくれただろう?」
何か思わぬ再会に涙ぐんでしまった。そう、あのころはロゼアンナの主題歌とキャサリンのテーマばっかり歌っていたものね…。さっき彼が言っていた『そればっかり歌っていた子を知っている』は私のことだったんだ。興味なさげに寝そべっていた、あの時の坊主頭の彼。頭の中でイメージしてピアノで弾けるくらい、私の歌を覚えていてくれたなんて…すごく嬉しかった。
「嬉しいよ、よく聴きに来てくれたものね」
「その…何というか、君の歌、好きだった。今日の歌も良かった」
「あ、ありがとう…。って、え?」
彼はバッグから何かポーチを取り出し、開けてみると
「おっ、お化粧セット?」
「俺に正対し、動かないように」
「はっ、はい」
彼は手慣れた手つきで私の顔の化粧を始めた。
「俺は医者じゃないから、君の痣を消すことは出来ない。しかしメイクなら消せるかもしれないと思った」
「メイク…」
「俺には姉がいるが、高校生のころ自転車で転倒して顔に一生消えない傷が出来た。塞ぎ込むことも多くなってな…。それで俺がピアノを通じて知り合ったメイクアップアーティストに相談したところ、自分がやるとお金をもらう必要があるから、弟の君が覚えろとメイクアップを教わったんだ。顔から傷痕が消えた時、姉貴は泣いて大喜びしていた」
「…………」
「それと、うちの高校にもいるんだ。顔に火傷痕がある女の子が」
「火傷痕…」
「いっつも教室の隅で独りぼっちだったんで見かねてな。日ごろから姉のメイクをしている俺が、その火傷痕をメイクで消したら、わんわん泣いて喜んでいた。さっきまで一緒にいた赤い髪の女の子だよ。陰キャからギャルに激変、今はもう自分でメイクしている」
嘘…。メチャクチャ可愛いギャルだったのに、あれで顔に火傷があるの?
「でもまあ…それがキッカケで、たまに女の子がメイクをお願いしてくるようになってな。俺がこうして化粧品ポーチを持ち歩いているのは、そういうわけだ」
「そ、そうだったんだ…。私なりにメイクはしたんだ…。でも全然ダメだった」
「これを含め、何度かは俺がメイクする。やり方はあとで教えるから自分でも出来るようになった方がいい」
「あ、ありがとう」
「さて、出来たぜ」
ほら、とケンタさんから鏡を渡され、私は絶句した。痣が綺麗に無くなっていたのだ。痣を消しただけじゃなく、顔全体に化粧を施してくれていて、私は自分の顔なのに別人に見えた。
これが私なの?私の顔なの?まるで不思議な魔法をかけてもらったみたい…。
「あ、あああ…。ああああ……」
「泣いても化粧崩れないけれど、ここは堪えてくれ。ここで泣かれると状況的にまずい」
「ごめんなさい、無理…。ううっ、うわああああああん!」
大混乱になった。カフェの店員さん、他の男性客、そしてケンタさんが入り乱れて、てんやわんや。
傍から見れば金髪ヤンキーが三つ編み地味子をいじめたと思われても仕方ない状況。
私が泣いているのを必死になだめるケンタさん。女の子を泣かせて、と他の男性客から責められ、私がメイクされるのを見ていた女性数名が金髪ヤンキーくんは無実と叫ぶ。カフェの店内は私の泣き声と怒声が飛び交う大騒ぎになった。
「ちっ、ちが…。いじめられて泣いているんじゃ…うええええええんっ!」
困らせちゃって、ごめんねケンタさん。でも嬉しくて嬉しくて涙が止まらないよ。
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