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第4話 レンドル、国王になる

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「素晴らしき婿殿、クレシェンド王国にかんぱーい!」
「「かんぱーい!」」

 トルステン公爵家の屋敷はその夜、大騒ぎだった。
 娘ソフィアの顔の痘痕が消え失せ、そのうえクレシェンド王国王子の伴侶となることが決まったからだ。
「わはははは!本当に王城に帰らず、この領に婿入りしたいですわ!なんですか、この美味い蟹は!」

 婚約者のソフィアが初々しくも食べさせてくれる。さすが海の町の娘、蟹の剥き方の手際の良さたるや見事ですよ。
「はい、レンドル、アーン」
「アーン」
 婚約者の笑顔に美味しい蟹、なにここ、天国なの?
 顔を赤め、恥じらいつつも、俺の口に蟹のむき身を運んでくれる仕草の可愛らしさと来たら…。なに?これが前世の自分がいた世で聞いた『萌え~♪』とやつなんですかねぇ!ソフィア、俺の願い通り、最初は戸惑いつつも名前を呼び捨ててくれて、敬語も無しだ。
 前世の嫁、和美も若いころは親しみを込めて『茂一』と呼んでくれた。いいんだよね。女の子に名前を呼び捨ててもらえるのって!

 しかし、いいのかな、この可愛い金髪美少女JKに毎日あんなことこんなことしていいの?
 犯罪だろ。俺、腎虚になるほどしちゃうよ。前世、嫁しか女知らないのだから。
 やばい、股間熱くなってきた。

「もうエッチ、胸ばかり見て。結婚までお預けだからね」
 聞きましたか奥さん、可愛すぎるでしょう。
 醜女と呼ばれていたけれど痘痕と吹き出物、染みを消せば女神級の美貌、何より乳房は破壊力満点ですよ。
 これが私の花嫁ですよ。俺ってば幸せすぎでしょう。

「我慢するさ。それにしても本当に美味しいね。君の国の海鮮料理は」
「うん、自慢なのよ。私も子供のころは日焼けして釣りばかりしていたなぁ。釣った魚を料理してもらって食べるの大好きなの」
「いいなぁ…。そんな少年期を過ごしたかったよ。俺はやれ帝王学だと座学と剣術ばかりだったよ」
 ちなみにソフィアは小説にナレーションでしか登場しないキャラクターだ。
 改めて思う。ここはもう自分が現実に生きている世界なんだと。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺がソフィアを連れてクレシェンド王国王城に帰国し、ソフィアは俺の両親に合い好印象を持たれたようだ。
 元々過去に目通りは何度か済ませてあったみたいで、悪疾で顔が崩れた以降は、それもなかった。
 俺に痘痕を治してもらったと嬉々として述べると父母は満足げに頷いた。
 その他、貴族令嬢としての一連の所作も見事だった。さすがは宰相の娘だと思った。
 でも早く子作りしたい。

 そして婚約パーティーが行われた。俺が馬鹿王子のままなら、またぞろ変な女に騙されてソフィアに『君との婚約を破棄する』とでも言うのだろうか。
 しかし残念、俺はソフィアに惚れていますよ。特にお乳です。どんなに男が偉くても女の乳房には敵わないのですよ。

 パーティーの熱気にあてられたので、俺とソフィアはテラスに出た。
「綺麗な夜空…」
「本当だな」
 自然豊かなこの世界、天然プラネタリウムだ。本当、この星空を見られるだけでも、この世界に生まれてきた意味があると思う。

「これもレンドルがこの国に結界を張ってくれているからなのね」
 レンドルの結界はソフィアの故郷シートピアも守る。
「そう言ってくれると嬉しいが…俺はいつか結界を魔道具で成し遂げたいと思っている」
「えっ?」
「個人の才覚で、この国の防備を担うようでは駄目なんだよ」
「そうなの?」
「ああ、歴代の聖女と言い、今の俺といい、そもそも国防の要たる結界を一人の魔法使いが担っていること自体が間違いなんだ。もし俺が死んだら、そのままこの国はモンスターの大群の前に滅ぶと言うことだろう?」
「レンドル…」
 悲しそうな顔をするソフィア。言葉を間違えたか。

「ああ、死ぬ気はないよ。俺は君が死んだ翌日に死ぬから」
「まあ、ふふふ」
 だけど…。そう言ってソフィアは再び夜空を見つめる。
「レンドルの言葉が正しいと言うのは分かるわ。確かに言われてみれば国防の要たる結界を一人の魔法使いが担うのはおかしいもの」
「だろう?子の代では無理かもしれない。でも孫の代ならあるいは聖女や聖人に頼らずとも出来るようになるかもしれない。そうした問題を次世代、そのまた次の世代に先送りせず、少しでも知識や判断材料を伝え残しておくことが大事だと思うよ。結界に限らず、この国の王としてね。君に支えてもらえたらと思う」
「喜んで…」
 俺はソフィアを抱きしめて口づけした。結婚前だけどチュウくらいはいいでしょう。

 妻を娶ることで改めて腹を括った。ここは小説の世界じゃない。俺はもうこの世界に生きる人間だ。そして国王となる者だ。フンドシ締めてかからないとな!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 王子レンドル戴冠、そして公爵令嬢たるソフィアとの結婚式が盛大に行われた。
 現在、国を守る結界を作る王子が王になること、美しき令嬢ソフィアとの結婚。
 国民は歓声をあげて祝福した。

「「レンドル陛下―ッ!」」
「「ソフィア妃殿下―ッ!」」

 新婦を連れて城のテラスに出て国民たちに手を振るレンドル。結界を張る者と国王が同一人物であるのは、この世界で二つとない歴史的事例であり、国民たちはその国に生まれて王に守られていることを喜び誇りとした。

「我が愛するクレシェンド王国の民たちよ。余は誓おう!この命続く限り、結界をもって皆を守ろう。そして余が持ちうる結界と治癒の魔法をこの国の優れた若者たちに伝え、余の死後も盤石かつ安全に暮らせる国づくりを目指す!そのためには国民みなの協力も必要だ。余と共に平和で、かつ女性たちが安心して子供を生める誇り高き国にしようではないか!我がクレシェンド王国よ!」

「「オオオオオオオオ!」」
「「ありがたや」」
「「王の中の王よ!」」

 新国王と新王妃への歓声はいつまでも響いていた。レンドルはこの国民たちの声を聴きながら
(苛政をしく暴君となれば、この歓声は罵声に替わる。心しなくちゃな…)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 クレシェンド王国の国王となった俺…。正直プレッシャーがすごい。
 産婦人科の院長なんて比じゃないよ。この玉座の重さは。
 王や当主の座を奪い合うお家騒動の小説や時代劇は前世よく読んだものだが、正直トップの座が欲しいなら喜んで献上してやりたいとさえ思う。
 だけど許されない。俺は豪奢な王衣をまとい、玉座に腰かけた。

「一同、面を上げよ」
「「ははっ」」
「本日より父のドラグナより王位を継いだレンドルである。まだ若輩の身なれば、みなの助けが不可欠だ。至らぬところあれば遠慮なく諫めてくれ」
「「ははっ」」
「宰相トルステン公爵よ」
「はっ」
「周知の通り、余はこの国の防備たる結界を張る役目もあり教会からは聖人なんて言われているが、結界はあくまで外敵からこの国を守るものでしかない。余は欲張りゆえな、我が国中心地である、ここ王城から内より国を守り富ませていきたい。そちと妻、そして」
 俺は宰相殿の息子二人の顔を見る。妻ソフィアの兄たちでもある。
「長兄メイナス、次兄バルトス」
「「ははっ」」
「義弟の余を支えてほしい。長き付き合いとなるだろう、頼りにしておるぞ」
「「はっ!」」

 うんうん、あの宴の時は宰相殿とこの兄弟二人とはっちゃけたけど、今は凛々しいね。また蟹食べさせてくれ。
 長兄メイナスは文官として一流、親父のあとを継いだ宰相候補、バルトスは武官として一流、将軍にしたいと思う。その他、父の代から仕えてくれた者、国王の代替わりと同時に世代交代した若い重臣たちの顔合わせと自己紹介も兼ねた、初めての朝議も終えた。


「ふう、岳父殿、朝議は毎朝あんな重苦しい雰囲気なのか?」
 城内の廊下を歩く俺と宰相。
「国政を皆で論じるところでございますからな。あまり肩の力が抜けた状態で話すのもまずかろうと」
 岳父殿は何やらご機嫌でもあった。昨夜、俺とソフィアの初夜が上手くいき、無事に子作りが出来たということを女官より報告を受けていたのだろう。
 国王と王妃の初夜は立ち合い人が必要と聞いた時は驚いたけど、途中からそんなの気にならなくなった。胸の二つのメロン最高でした。お尻は桃だし。嬌声はどこのアイドル声優だというくらい可愛い。
 あんな可愛い金髪美少女JKを嫁さんにしたのなら、王様でも何でもやるよ。

「まあ、出来ることしかやっていくしかないな。幸い、国に借金もないし…。父の言う通り、富ませ、教育を、取るを地道にやっていこう」
「それでよろしかろうと。私もせがれたちも全力でお仕えいたします」
 国民を富ませ、それから教育する。取るのはそれから。
 あの孔子も言っている政治理念だが、この世界でも、それは同じだ。

 俺は歴史に残るような偉大な名君になる気はない。
 異世界転生を扱った数多の作品で主人公たちがしているような令和日本の文化も医療以外は持ち込む気はない。
 ただ心底惚れちゃった金髪美少女JKの嫁さんに毎日褒められて嬉しいご褒美がもらえるよう頑張りたい。
 メロンと桃…。はいメロンと桃なんですよ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 一方、その相手だった愛妻ソフィア、初夜立ち合いの女官がすさまじい男女の睦み合いの残り香漂う部屋に来て、鼻を押さえつつ窓を開けて換気

「妃殿下、もう朝ですよ」
「…………」
「妃殿下!陛下はもう朝議に向かわれたのに、妻が寝坊してどうするのですか!」
「…ごっ、ごめんなさい…。起き上がれないの…」
「…………」
 激しかったらしい。それはそうだろう。
 前世は妻しか女を知らず、現在若い体を得て、スタイル抜群の金髪美少女JKを伴侶としたなら男はそうなる。
 それこそ猿に。猿だ、お前は猿になるのだと。
 レンドルに純潔を捧げた王妃ソフィアは精根尽き果て、まだベッドから抜け出せない状態であった。
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