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恋なんかじゃない

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 部屋に戻った私は一人、枕に顔をうずめていた。

『それは──。……花を飾るように言い出したのはフロウ王子です。王子の側近であるルビウスがそれを僕たちに手渡しました』

 直接的な言葉はなかったけれど、フロウ王子説、濃厚ね……。
 全員が死んだあと、ただ一人立ち上がった夫。

 あとはセイシスの調査報告を待つだけ。

 コンコンコン──「リザ、セイシスだ」
「!! どうぞ」

 丁度セイシスのことを考えていたところで尋ねてきた声に、私はすぐに入室の許可を出した。
 何かをつかんでくれていたならいいけれど……。

「セイシス、どうだった?」
「あぁ、まぁ……入り降り俺も疑問はあるがひとまず置いといて……。結論から言うと、フロウ王子はフローリアンの王位継承権をめぐって父親であるフローリアン国王と口論を繰り返していたようだな」
「!! く、詳しく聞かせて!!」
「わぁっ!? っと……お前なぁ……」

 私は早く続きが聞きたくてセイシスを引っ掴むと、無理矢理ソファへと座らせ自分も隣を陣取った。

「はぁ……まぁいい。自分が次期国王になって、フローリアンのために尽くしたいという思いを、国王に伝えていたみたいだな。まぁ一蹴されて終わったようだが……。あとはフロウ王子はフローリアンの実情に胸を痛めているようだな。このままでは国は滅びると。それと、こうも話していたようだ。『近く、国民の反乱が起きるかもしれない』と」

「反乱!?」
 飛び出した物騒な言葉に思わず声を上げる。

「あぁ。貿易制限をしているフローリアンは、不作の年は国民の生活が厳しくなる。不満は噴出しているが、国王は聞く耳を持たない。今はまだ数年に一度の不作でも、それが続けば──フローリアンは大飢饉に見舞われるだろう。フロウ王子はそれを憂いているようだな」

 今からすでにその片鱗が……。
 フロウ応じはこの段階で気づいていたのね。
 自分の国の行く末を──。

「だから王位という権力が必要、か」

 自国で駄目なら大国であるこのラブリエラ王国がある。
 しかも跡継ぎはたった一人の小娘のみ。

 一回目、フローリアンは崩壊した。
 その後管理することになったのは──このラブリエラ王国だった。

 じゃぁフロウ王子は、自分の手でフローリアンを再興するために私を?

 絡まっていたはずの頭の中の意図が次々とほどけていく。
 詰まっていたそれはあるべき姿を取り戻すことで、どんどんクリアになって、私は肩をふっと下した。

 もうすぐまたフロウ王子はこの国に来る。
 私の誕生パーティに……。

 でも、諸々の証拠がないと何もできない。
 梯子を壊し、花を細工しただけだもの……。
 何か証拠と、そして明確な出来事がないと……。
 将来、あなたは私を殺すので捕まえます、ではいけない。
 それこそ国際問題だ。

 ただの言いがかりとされてしまってはいけない。
 何か……あれ? 花……そういえばお父様の庭も──フローリア……産……。

「……セイシス」
「何だ?」
「もし……、もし私が親子の縁を切られたとしても、あなた、私についてきてくれる?」
「は?」

 私の突拍子もない問いかけに、セイシスが眉を顰める。

「いや、何があるかは知らんが、陛下がお前との縁を切るとか──」
「可能性の話よ」

 だって私が使用としているのは、もし間違いだった場合、父を悲しませるだけだもの。
 縁を切られないにしても、遺恨が残ってしまうなら、私は私の身代わりを立てて城を出るだろう。

「……」
「……」
「……はぁー……。何て顔してんだよ」
 ため息とともに、私の頭にずっしりと重力がかかり、がしがしと乱暴に撫でられる。

「ちょ、ちょっとセイシ──」
「どこまでも、一緒についてってやるよ。トンデモ姫」
「!! っ……ありがと……」

 あんなにセイシスに怒っていたのに。
 それが鎮められていく。

 やっぱりセイシスはずるい。
 私はきっとセイシスなしで駄目なんだろう。
 そう再認識する。

「あなたは……あなただけは──」
「ん?」
「……何でもない」

 私の傍にいて。
 口から出かかったそれをすんでのところで飲み込んだ。

 だってそれじゃまるで──。

 私がセイシスを、好きだと言っているようなものだ。

 そう気づいてしまったから──。
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