上 下
11 / 44

変人王女??

しおりを挟む
「で、明日はフローリアンのフロウ王子と面会なんですよね? 大変ですね、連日いろんな男との逢瀬があるだなんて」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」

 閨教育(という名の夜のお茶会)6日目。
 夜寝る前のこの時間が一日で一番疲れる時間であることは間違いない。

「はははっ。本当にあなたは面白い方です。こんなに美しく煽情的な身体を持ちながらも実はものすごくうぶなところも、反応がいちいち面白いところも、全てが魅力的で、可愛らしい」
 そう言って私の髪を一束手にして唇を落とすレイゼルに、からかわれているのだろうと分かってはいても免疫不足の私は顔を熱くさせてしまう。

「はいはいそこまでー。うちのお姫様のキャパオーバーなんで離れて離れてー」
 強引に私たちの間に割って入って座り込むセイシス。
 今回ばかりはこの強引さに助けられている部分が大きい。

「あらら、もうセイシス様判定出ちゃった。残念」
「勘弁して……」

 レイゼルといると心臓がいくつあっても足りないわ。
 たとえ人生一度目はビッチ悪役王女だとしても、あの時はただひと時の現実を忘れる時間が欲しかった。

 たった一人の王位継承者としての重責に潰れかけて、私を恋い慕う者達でその重責を紛れさせながら何とか立っていたのだから。

 幼い頃にお母様を亡くし、父も後妻を迎えることなく、全ての重いものが私に乗せられた。
 現実逃避だってしたくなるわ。
 溺れたくだってなる。
 何かにすがりたくもなるのよ。

 だけどだめだ。
 私がすがることで相手に私を許すことになる。
 そうすれば相手はもっと私に愛を向ける。

 相手が一人ならばそれでもまだよかったけれど、あの時の相手は5人。
 全員を平等に本当の意味で愛することのない人間に、5人全員の愛が向けられて、保たれていた秩序の中、その愛されていた一人の人間に本当に愛する人ができてしまったら……。

「秩序は崩れ、愛憎と化す、か……」
「なに病んでんだよお前」
 はっ!! しまった、つい口からぽろっと……!!

「ち、ちがっ!! この間読んだ本の話よ!!」
「あぁ、たくさん読んでるっていう官能小説?」
「えぇ!? 僕というものがありながら、官能小説なんか読んでるんですか!? それなら僕を使ってくれたらいいのに」

「ち、ちがっ!! そういうのじゃなくて!! ていうか、使わないから!! 一生!!」
 もー何なのこの人達っ!!
 絡みづらいわ!!

「あっはっは!! でもリザ王女はものすごく人気がありますからね。秩序が崩れれば愛憎に巻き込まれそうです」
 不吉なこと言わないでぇぇぇええ!!
 あなたがそのフラグの一員だから!!

「貴族の男たちの間ではもちろん、国外でもあなたの美貌は有名ですし、なんなら男娼たちの間でもあなたは度々話題に上がりますからね」
「話題に? あぁ、いろんな男と寝てるって?」

 明け透け無く言った言葉に、レイゼルがまた噴き出す。

「ふはっ。たしかにそれもですけど……。容姿だけではなく、あなたがいろいろとされている改革について、皆感心しきりなんですよ。孤児院の子供の就職先問題を解決したり、様々な国との貿易を取りまとめてくださったおかげで珍しい物資が入るようにもなりましたし、娼館に専門医を配置してくださった。そのおかげで、心や身体に傷や病を抱えながらも働き続ける子が減りました」

 あらためて言われるとなんて反応したらいいのかわからない。
 それらは全部、一度目の人生があったからこその功績だ。

 孤児院の件はカイン王子と結婚して貿易が盛んになって、各企業の働き手不足が深刻になったからこそ人員確保のために考え付いたものだし、貿易を盛んに行い始めたのは、あまり貿易を盛んに行っていないほぼ鎖国状態のフロウ王子の国であるフローリアンの行く末を見たからだ。

 花の国フローリアンは自国の花が他者によって自然のままの姿を変えるのを防ぐため、貿易を極端に制限している。
 自国の花は他国に売ることを惜しまないが、新しいものを取り入れることはしない。
 その結果一度目の人生では、歴史的大不作が起こった際に物資不足で大飢饉が起きた。
 あれを見ているからこそ、私は積極的に他国に掛け合って貿易を盛んにおこなうようにしはじめたのだ。

 娼館の問題もそう。
 一度目の人生でレイゼルが話してくれた娼館の実態。
 ひどい客もいて、心や身体に傷を負う娼婦や男娼も多いのだという。
 だけど職業柄普通に治療院に行っても門前払いをされることも珍しくはないから、多くの娼婦や男娼は心や体に傷を負ったまま、限界を超えるまで働き、命を落とすこともあるのだ、と。

 それを聞いていたからこそ、二回目の人生では娼館の環境改善に手を付け、専門医を常駐させることにした。

 どれも一度目があったからこそ。
 そう考えれば、一度目も無駄じゃなかった、ってことなのかしら?

「皮肉なものねぇ……」

「リザ王女ってよくわからない独り言多いですけど、これ通常運転何ですか?」
「別名変人王女ともいう」

 聞こえてるわよ二人とも!!
 ていうかそんな別名はないっっっ!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世にも不幸なレミリア令嬢は失踪しました

ひよこ麺
恋愛
レミリア・オリビエール・ヴァーミリオン公爵令嬢は世にも不幸な令嬢でした。 誰からも愛されないレミリアはそれでも笑っているような太陽みたいな少女。第二王子のクリストファーの婚約者だったので王宮に住んでいましたが、彼女の孤独な心を知る人はいませんでした。 そんなある日、クリストファーから少し距離を離そうと婚約破棄ともとれる発言をされたレミリアは自身を繋いでいた糸が切れたのがわかりました。 帰る家もないレミリアは遠い昔に孤独のあまり作り上げた架空の友人のルーファスと遊んだ唯一幸せな思い出が残るキンモクセイの前で自殺を図るのですが…… 前世の因習、呪われた血筋、やがて全てを巻き込んでいくレミリアに隠された秘密とは? -時の止まった悲劇の国と古にかわされた約束。レミリアは幸せを手に入れることはできるのか? ※キンモクセイの花言葉のひとつ「隠世」から着想を得た物語。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...