むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華

文字の大きさ
38 / 50
第三章 寝言の強制力とその真実

平民出身の最年少博士

しおりを挟む

「ふっ……良い茶だね」
「ふっ……じゃないです。殿下。なぜ私は突然城に呼び出されたのでしょう?」

 騎士団の寮の客室で一夜を明かした私の部屋に、朝早くから城の遣いが尋ねてきた。

 そしてあれよあれよという間に城まで連れて来られ──今、私は恐れ多くもフィル・テスタ・ローザニア王太子殿下と朝食をご一緒している。
 せっかくの宮廷料理も緊張しすぎて味がしない。うっぷ。

「はっはっはっは!! 可愛いセレンシアが、あのシリウスの魔の手から逃れて騎士団で保護されていると聞いては、真のヒーローであるこの私が出ぬわけにはいくまい?」

「…………」

「わ、わかった。わかったからその顔はやめなさいのっぺりしすぎて怖い」

 何を言っているんだこのお方は。
 無の境地で無言で見つめれば、殿下は苦笑いでそう言って、再び優雅に紅茶を召した。

「まぁ、それは半分冗談として──、セレンシア。急なのだが、今夜城でパーティを開くことになった」
「パーティ、ですか?」
 それはまた急に……。

「すでにカルバン公爵、そしてピエラ伯爵家のには遣いをやっている。というのも──ピエラ伯爵家の領地から初の平民出身で博士号を取った者がいてな。その祝いのパーティだ」
「平民の博士、ですか?」

 通常博士号を取るにはそれなりの学力を持ち、学校へと通い、高い成績を収める必要がある。
 それ以前に、高等専門学校へと進学するには莫大なお金がかかる。
 だからそもそもあまり学びの機械の無い平民が博士号をとるだなんて、ほぼほぼ不可能に近いことなのだ。
 だというのにもかかわらず平民が?
 しかもピエラ伯爵領で?

 私が首をかしげていると、コンコンコン、と小さなノック音が響いた。

「お、来たようだな。──入れ」
 殿下が入室の許可を出すと、ゆっくりと扉が開かれ、城の騎士に連れられて一人の若い青年が姿を現した。
 綺麗な黒髪に長細いメガネ。
 その人物を見て、私は大きく目を見開いた。

「トマス!?」
「お嬢様、ご無沙汰しております」

 驚く私を見て、殿下がにんまりと笑った。
「彼が、史上最年少で史上初の平民出身の博士となった、トマスだ」
 殿下の紹介に少しばかり照れ臭そうにトマスが笑った。

 トマスはピエラ伯爵領の孤児院出身の少年だ。
 私の1つ上で、私が読み聞かせをしに行くといつも真剣に話を聞いてくれた。
 読み書きを熱心に学ぶ彼に、私が勉強の際に使っていたお下がりの本を貸してあげて、着実に学をつけていった。
 15歳で孤児院を出てからは1年制の平民の学校に進んだと聞いていたけれど、まさかそのまま高等専門学校にまで進んで博士号を取るだなんて……。

「すごいわトマス……!!」
「ありがとうございます、お嬢様。お嬢様がたくさん本を読んでくださって、本を貸して学ばせてくださったおかげです。あれがあったから、僕の狭い世界はどんどんひろがって、まだまだ学びたいと思えた。あなたがいなければ、今の僕はありません」

 ──無駄ではなかった。私のしてきたことは。
 平民の孤児に本を読みきかせ読み書きを教えに行くなど無駄なことだと言う貴族も少なくなかった。
 だけど無駄じゃなかったんだ。
 少しだけ、心が温かくなった。そんな気がした。

「と、いうことだ。急だが隣国への留学も決まってね。彼の功績を称えるとともに、盛大に送り出してやろうということだ。ちなみに、高等専門学校への資金援助は、ピエラ伯爵とカルバン公爵が連名で行っているんだよ」

 お父様と、カルバン公爵が? 知らなかった。
 だけどなるほど。
 もしかしたら公爵たちはそれを知っていたから、こちらにいらっしゃるのはシリウスの誕生日当日ではなく、今日を指定したのかしら?

「わかりました。ではすぐに支度を──」
「あぁ、ドレス類はこちらで揃えた」
「へ?」

 何と?
 ドレス類をそろえている?
 城で? 私の服を?

「あぁ、サイズなら心配せずとも良い。見ればぴたりとサイズを当てるのは、私の特技だからね」
 怖っ!!!!

「で、ですがシリウスは?」
「シリウスにも遣いをやって、了承を得ているよ。パーティで合流すればいい。セレンシア、君はあいつのことは気にせずに、せめてパーティでのあいさつが終わるまでは、トマスについていてやってくれ」

 シリウスが了承しているのであれば気にすることはないだろう。
 どうせ寝言で結婚したような妻なんていなくても、ロゼさんがいるでしょうし。
 それにトマスはパーティなんて無縁の平民出身。
 心細いに決まっている。

「そういうことであれば、かしこまりました。よろしくね、トマス」
「はい。よろしくお願いします。お嬢様」

 パーティでの最初のあいさつが終わるまでは、しっかりとトマスをサポートしてあげないと。

「頼んだよ。パーティでは、新しい保護法の発表も予定されている。それもすべて、トマスが研究したことによって成立するものだ」
「保護法、ですか?」
「あぁ。──精霊の指定保護法だ」
「精霊の!?」

 昔は多くみられたけれど、今は人前に姿を現すこともなくひっそりと隠れている精霊。
 その特別な力は魔法使いがすべて管理していたけれど、精霊や魔法使いを配下に収めようとした人間達のせいでいなくなってしまった。
 それでもこの国には確かに精霊が存在して、ひっそりと国を守っているという。

「僕は精霊についての研究をしていて、偶然、彼らがある場所を住処にしていることを知ったのです」
「えぇっ!?」
 偶然でそんなことができるの!?
 今まで誰もが見つけられなかった精霊の住処を?

「い、いったいどうやって……」
「セレンシア様のおかげですよ」
 戸惑う私にトマスがにっこりと笑って続けた。

「セレンシア様が読んでくださった絵本の1シーンにこんなものがありました。満月の夜、甘いパイとサクサクのクッキー、それに綺麗な水をグラスに注いで外に置いておくと、妖精たちがパーティを始める──」
「!!」

 それは確かに絵本のシーンの1つ。
 そう、【小鳥姫と騎士】の絵本だ。
 いなくなった姫の手がかりを探すため、幼い頃に姫が言っていた通り精霊が好きなものをすべて集め、満月の夜に精霊を待っていたのだ。

 あれを実践した?
 子どもの頃なら私も精霊に会いたくて実践したことがあった。
 だけど精霊を待っている間に眠くなってしまって、結局寝落ちしてしまったのだ。
 成長して夜起きていられるくらい大人になればもうそんなことはしなくなる。
 まさか大きくなっても実践するような人がいるだなんて。

「あの夜、精霊は本当に現れました。そして飲んでは食べ、歌って踊ってを一通り楽しんだ後、皆消えたり現れたりを繰り返しながら、アイリス王立図書館の方へと帰っていきました」
「アイリス王立図書館へ!?」
「はい。数か月、満月が来るたびに試してみましたが、やはりアイリス王立図書館へ帰っていくので、間違いないと確信しました」

 確かにアイリス王立図書館は、はるか昔に精霊をまとめ上げる魔法使いが作った図書館と言われている場所。
 ということはあそこは本当にそう、だったということ?
 驚きに言葉が出てこない私に、殿下が「驚きだよねぇ」と苦笑いした。

「ただ、確かにあそこは私達王族の紋章の反応も強い。これまでは精霊の痕跡に反応しているのだと思われていたが、今も尚そこにいるのだと考えると何もかもつじつまが合う」
 精霊の末裔といわれる殿下が言うなら間違いはないのだろう。
 あの場所に今も精霊がいる……。
 もしかしたら、足しげく通っていた私のこともよく知っていてくれるのかもしれない。
 そう思うとなんだか心が躍る。

「だからね、私たちは精霊の指定保護法を制定することにしたんだ。内容としては、アイリス王立図書館に王家の結界を張って、精霊に対して悪意ある人間が入ることのできないようにする。精霊を害そうとした者への罰則。そして精霊が安心して住める国にしていくため、植林を勧め、浄水活動を徹底する。まずはそこからだな」

 精霊は空気の綺麗な場所、そして綺麗な水を好む。
 人が増え街が大きくなるにつれ、木々の伐採で緑が減っていった。
 それも精霊が少なくなったと言われる理由でもある。
 精霊の住みやすい環境を整える──良い取り組みだと思う。

「素晴らしいと思います。私も、精霊たちが安心して過ごせる国になるよう、尽力させていただきます……!!」
「あぁ。ありがとう。じゃぁセレンシア、客間に案内させるから、準備を整えておいで。女性はドレスを着る前にもいろいろと準備が多いのだろう? ゆっくり準備しておいで」

 殿下はそう言うとテーブルの上のベルをチリンチリンと鳴らし、侍女を呼び寄せた。
 彼女たちが私を案内してくれるのだろう。
 私はすぐに立ち上がると、スカートの裾を少し摘み上げて一礼した。

「かしこまりました。では殿下、後ほど。トマス、また後でね」

 そして私は侍女に連れられて、広間を後にした。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

【短編版】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化進行中。  連載版もあります。    ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    義務的に続けられるお茶会。義務的に届く手紙や花束、ルートヴィッヒの色のドレスやアクセサリー。  でも、実は彼女はルートヴィッヒの番で。    彼女はルートヴィッヒの気持ちに気づくのか?ジレジレの二人のお茶会  三話完結  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から 『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更させていただきます。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。

処理中です...